第251話9-23再生
9-23再生
「つまり黒龍様の魂が呪いによって弱体化し、その魂のほとんどを失ってしまった所へエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンの魂と融合して隷属されたというのだな?」
クロさんが最終確認であたしの説明を要約する。
長かった、ここまで説明を繰り返し納得してもらい落ち着かせるまでにこんなにかかるとは‥‥‥
「それで間違いございませんわ、クロ様」
「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン、いや、主様。にわかに信じがたいが黒龍様のお言葉だ、間違いないであろう。それと今後はクロとお呼びくだされ、主様よ」
そう言ってクロさんは深々と頭をあたしに下げる。
「クロ様やめてくださいですわ! 頭をあげてくださいですわ」
あたしは慌ててクロさんに頭をあげてもらう。
しかしそんなクロさんと違いクロエさんは納得いかない様子だ。
「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン、黒龍様の事は感謝してやるです。しかし納得いかないでいやがるです。黒龍様ほどの魂をエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンの魂で受け止められるのでいやがりますか?」
「クロエっ!」
「クロ様だって納得いかないででしょうに?」
まあ普通に考えればそうなるよね?
あたしだって黒龍様の魂が減って小さくなってなきゃ受けきれたかどうか。
「ああ、それなら大丈夫よ、エルハイミの魂って多分女神様の魂入れても余裕があると思うから」
シェルがしれっと果物を食べながらそう言う。
「まさか、有り得ん!」
「そうでいやがるです! 黒龍様も勿論、人間風情が女神様までも受け入れられるはずがないでいやがるです!!」
「でも実際に出来ているじゃん。それにあたしはエルハイミに融合されたことがあるからわかるけどエルハイミの魂はつながる何かが普通じゃないの、あれはこの世のモノではないわ」
シェルにそう言われてクロさんもクロエさんも黙ってしまう。
確かにレイム様もそんなようなことを言っていたっけ?
ほんと、あたしって何者なんだろう?
思わずあたしも黙ってしまう。
しばらくシェルがかじる果物と食べる音だけが聞こえる。
「それでも、お姉さまはお姉さまです!」
「イオマ?」
「お姉さまはあたしを助けてくれた。そして魔法も教えてくれているし胸だって大きくしてくれるって約束してくれた、あたしにはそれだけで十分なんです、お姉さまはお姉さまです!」
そう言ってイオマは涙目であたしの胸に飛び込んでくる。
そしてわんわん泣き始めた。
「確かに、俺にとっても主は主だ。他は関係ないな」
ショーゴさんもそう言って珍しく微笑んだ。
「そういう事よ、どんな魂もってどんなものにつながっているかは知らないけど所詮エルハイミはエルハイミ、いつものエロハイミよ!」
ちょっとマテ、きれいにまとまりそうなのに最後のエロハイミって何よ!?
あたしはシェルを睨む。
「まあクロエ、黒龍様の命もある。我らもしばし主様に仕えてみてはどうか?」
「ふん、まあいいでいやがります。所詮人間、あと何十年かで死んでしまうからそれまでのちょっとの辛抱でいやがります」
ふんっ!と息荒くクロエさんはそう言う。
しかし‥‥‥
「あ、それ無理ね。エルハイミはあたしと魂の隷属しちゃってるし、あたしの『命の木』の効果であたしが死ぬまで同じに死ねないもんね。あたしとエルハイミは一蓮托生だものね」
びきっ!
あ、クロエさんが背景ごと割れた。
よほどショックだったのだろうか色も抜けて真っ白になっちゃってる。
「こ、このぉ馬鹿エルフ! なんて余計なことしやがるのですか!!!?」
「誰が馬鹿エルフよ! 黒龍様に言われた通りの事してればいいのよこのクロメイド!!」
ぐろっろろっろぉぉぉおお!!
ふしゃーっ、ふしゃーっ!!
ああ、なんか懐かしい風景。
あたしはシェルとクロエさんの喧嘩を眺めて思わずそう思う。
しかし、あたしの魂の事はとりあえず置いておいて、問題は今ここにおかれているこれの問題だ。
そう、黒龍様の再生したと言われるこの卵の問題だ。
今はきれいにされて大きな籠にふかふかの綿とシーツの上で大事に置かれている。
大きさも流石に大きくダチョウの卵よりも大きいだろう。
あたしはそれを見ながらクロさんに聞いてみる。
「ところでクロ様、黒龍様はいつになったら卵から孵(かえ)るのですの?」
「クロとお呼びくだされ、主様。それは我々でもわかりません。黒龍様が我々の前で再生の秘術を使った事がないからです」
クロさんはそう言ってため息をつく。
えーと、そうするとこの卵が孵らない限りあたしたちも地上に出る事は無いと言う事か?
‥‥‥
どうすんのよこれ!?
既にここの迷宮に入って半年以上、いや、下手するともっと経っている。
やっとの思いでここまで来たというのに最後の最後でこれぇ!?
あたしは手を目に当て思わずうなってしまった。
「せめてティアナに私たちの無事だけでも伝えたいというのに‥‥‥」
きっとものすごく心配しているだろうな、ティアナ。
ガレントとホリゾンのその後も心配だし、何よりあのヨハネス神父が無事逃げおおせたのだ、きっとまた態勢立て直して何かしてくるはず。
あたしは気持ちだけが焦っていた。
「何かいい手立ては無いものかしらですわ‥‥‥」
あたしのそのつぶやきにクロさんは話し始める。
「そもそも再生の秘術を使えるのは竜族でも古代竜クラスで無ければ出来ません。我々は通常ではそうそう死に瀕する事は無い、それゆえ子孫を残すという概念が薄いのです。下級竜のように自我が無く本能のみで生きている者は卵を産み仲間を増やすことが有りますがその卵でさえ孵化するには相当の時間がかかります。あとはその地のマナが多ければそれを魔力還元して吸収して孵化が早くなることはありますがそれには相当量の魔力が必要となります」
あたしはその話を聞きもう一度卵を見る。
「黒龍様の卵も魔力を注ぎ込めば早く孵化する可能性があるのですの?」
「主様、残念ながらそれは分かりません。確かに再生するにあたり魔力は多ければ多いいほど有利ではありますが」
クロさんも卵を見る。
「じゃあとりあえず魔力注ぎ込んでみればいいんじゃない? エルハイミの魔力量は半端ないもの、もしかしたらね」
シェルはお気軽に言う。
「ふんっ、きっと人間風情の魔力なんて黒龍様に悪い影響しか与えやがらないです!」
クロエさんはそう言ってあたしを指さす。
「黒龍様の言いつけだから言う事を聞いてやりますです、でも早く黒龍様に再生していただきたいから、主様とっとと黒龍様に魔力を注ぎ込みやがれです」
えーと、なんか文句は言いながらもあたしに魔力注入しろって事でいいのよね?
「それでは試してみましょうですわ、私の魔力を黒龍様の卵に注いでみますわ」
あたしはそう言って卵に手を当て魔力を注ぎ込んでみる。
すると、初めは戸惑ったかのような感じであたしの魔力を吸っていたこの卵は慣れてくると喜んであたしの魔力を吸い始める。
それは際限がないくらいに。
「な、なんて吸引力ですの? いくら魔力を注いでも底なしですわ!」
そう、あたしはどんどん魔力を注ぎ込むのだけどどんどん吸われていく。
いい加減あたしも魔力が無くなってきたころにそれは満足したのか吸引をやめた。
「はぁはぁ、や、やっと収まりましたわ。危うく私も魔力切れで気を失う所でしたわ」
さすがにこれは応える。
最近は魔力を全部使い切るなんてことは無くなってきたので久々にこたえた。
「でも流石エルハイミね、この卵、魔力をお腹いっぱい吸って満足そうよ?」
「なんという事だ、ここまで膨大な魔力量をお持ちとは、主様あなたは一体何者なのですか?」
「に、人間風情のくせしてなかなかやりやがりますです。ま、まあ私の主様になるのだからこれくらいはしてもらわないと納得いかないでいやがります」
なんか外野が騒がしいけど、満足そうな卵は気持ちよさそうにしているように見える。
‥‥‥しばらくこの卵に魔力を与え続けなければならないのか
あたしは当面この卵に魔力を与えるのが日課になるのであった。
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