第235話9-7隠れ里

 9-7隠れ里



 そこはかなり広い場所だった。

 天井も五、六メートル近くあり湧き水もあり、キノコや見た事の無い植物を栽培したりする畑まであった。

 住居は岩や土で固められた簡素なものであったが、整備された村はきれいで整然としていた。

 向こうではロックリザードが飼いならされている。


 あたしたちはローグの民の村に連れられてきていた。




 「長よ、客人だ、それと女神様のお使いもおられるでござるよ!!」


 リーダー格のその男が大きな声で村の人たちに聞こえるように言う。


 「何事ぞ? 女神様のお使いとな? それは真でござるか!?」


 一番大きな建物から大柄な年の頃四十くらいの頭がつるつるのおっさんが出てきた。


 「癒しの奇跡をお使いになった、間違いなく女神様のお力でござった」


 リーダー格の人はそう言ってほっかむりと口元を蔽う布を取り払った。

 すると三人とも同じような禿‥‥‥


 いや、よくよく見れば眉毛も無い、周りに集まってきた村人も老若男女問わず皆禿だ!?


 「この村に我らローグ以外の者が来るのは初めてでござる。儂はこの村の長をしているベルトバッツと申すでござる。」


 そう言って意外と友好的に話しかけてくる。

 

 「私はエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン、こちらのエルフがシェルでこちらの男性がショーゴ=ゴンザレス、それとこの女の子がイオマですわ」


 あたしはそう言ってみんなを紹介する。

 長のベルトバッツさんはあたしたちを先ほどの大きな建物に案内してくれた。


 中はいたってシンプルだけどきれいに整理されていて囲炉裏のようなものがある。

 ベルトバッツさんはそのいろりを囲む様にあたしたちに席を進める。

 

 「どうぞお座りくだされでござる。儂らの村に儂らの一族以外の方が来られるのは初めてでござる。して、わが村に何用でござるか?」


 「はい、実は‥‥‥」


 あたしはこれまでの事をかいつまんで話した。

 それを聞いたベルトバッツさんは大いに驚いていた。


 「まさか地上がそのようになっておったとはでござる‥‥‥」


 お茶っぽいものを出してもらいあたしたちはそれを飲む。

 何だろうね、この味?

 ほうじ茶のように香ばしいのは好きな味なんだけど独特な苦みが強い。


 「すると今では女神様たちはセミリア様とアガシタ様と言う御二方を残し全て天界の星になられたというのでござるな?」


 「伝承ではそうなっていますわ。それよりあなたたちはずっとここに居たのですの?」


 「如何にも。我らローグの片割れは黒龍様のお導きにてここに居を構え静かに暮らすよう言われているのでござる。何十年かに一度黒龍様がお越しになられるがそれ以外はいたって平和、黒龍様の魔獣除けの結界のおかげで狂暴な魔獣もあの胞子を吸い込めば大人しくなり我らの誘導でこの地より追い払えますのでござる」



 え?

 胞子てあの光っているぽわぽわのやつ??



 言われてみればここ第七層に入ってから気分的にはなんか落ち着いているしよほどの事がない限りイラつきも少なくなってきている。


 「あの胞子にはそんな力があったのですの?」


 「毒にはなりませぬ故問題にはなりませぬがな、長い間あれを吸っていると無気力になってしまうという問題がござる。なのでしばらくすると魔獣たちも大人しくなり、我らの誘導で他の場所へと追い出せるのでござる」


 にこやかにそう言うベルトバッツさん。

 ショーゴさんたちの言うローグの民のイメージがガラガラと崩れていく。


 ほんと、人畜無害そうな笑顔だ。


 「それで、私たちは一刻も早くこの迷宮から出たいのですわ。ベルトバッツさんその黒龍様には連絡が取れないのですの?」


 今までの話を聞く限りその黒龍というのも話が通じる相手のようだ。

 もし連絡手段があればお願いしてここから出してもらえるかもしれない。


 「残念ながら黒龍様との連絡する方法はござらん。いつもふらっと現れて我らの話を聞き必要なものなどあればお与えくださりまたどこかへ行かれてしまうのでござる」


 「そうですの、残念ですわ」


 どうやら黒龍と連絡も取れず、すぐには会えそうにもない。


 「そうすると自力で会いに行くしかないな。長よ、下の階に行く道は知っているか?」 

 

 「なんと、下の階にいかれるでござるか??」


 ずいぶんと驚くのね、ベルトバッツさん。

 しかしあたしたちには黒龍に会わなければならない理由がある。

 

 「知ってはおりますがな、ここからかなり遠いでござるよ。それに下の階に行くには『試練の道』を通らねばならないでござる。我がローグの者もそこを通り抜けられた者は誰もおらんでござるよ」


 「『試練の道』だと? 何だそれは?」


 「『試練の道』は勝手にディメルモ様の居城に入れない様に黒龍様がおつくりになられた物、その道以外に下の階に行く方法はござらん。そして試練の内容でござるが‥‥‥」


 一体どんなものなのだろう。

 このローグの民でさえ通り抜けられなかったというほどのモノだ、きっといろいろと凄いのだろう。

 あたしたちはベルトバッツさんの次の言葉を固唾を飲んで待つ。


 「実はおっかないので誰も挑戦したことが無いので何があるのか分からんのでござる」


 「「「ぶっ!」」」


 思わずお茶吹きこぼしちゃったじゃないっ!!!!


 あたしとシェル、そしてイオマが同時に吹いてしまった!


 「あ、あの、なんで誰も挑戦しようとしないのですの??」


 「いや、だって怖いでござる、我らローグの片割れなれど今はここで大人しく静かに暮らす身、わざわざ危ない所へ行く必要もござらんだろ?」


 い、いや、それはそれで良いんだけどね。

 どうもショーゴさんたちから聞かされているイメージと違い過ぎる。

 もしかしてこれって胞子のせい??


 あたしは吹きこぼしたところを【浄化魔法】で奇麗にする。

 するとそれを見ていたベルトバッツさんたちが大いに驚く。


 「おおっ! 確かに女神様のお力でござる!! いやはや、エルハイミ殿は女神様のお使いでござるのか??」


 「いえ、女神様のお力の秘密はアガシタ様によって人間界に広まり今ではかなりの人が使えますわよ?」


 あたしのその言葉に衝撃を受けるベルトバッツさんたち。

 でもいくら太古の民と言われても元はあたしたちと同じならベルトバッツさんたちも魔法が使えるはず。

 

 あたしは試しにベルトバッツさんたちに【水生成魔法】を教えてみる。

 すると‥‥‥


 「おおっ! 水が手のひらから湧きだしたでござる!!」


 「それがしの手にも!!」


 「私めに手にも水が湧きだしたでござります!」


 教えた人ほとんどが出来てしまった。

 まあこの辺の初級魔術は一般の人も使えるし魔力の消費量も少ないから覚えて損はないけどね。


 「エルハイミ殿、何と礼を申し上げたらよろしいのかでござる!!」


 「礼には及びませんわ、それより私たちをその『試練の道』へ連れて行ってもらえますかしら?」


 「わかりましたでござる。しかし今日はもうじき休息の時になるでござる。今はお休みになられ、明日の時刻になりましたら案内をするでござる。皆の者、夕げは久方ぶりに大盤振る舞いでござる! エルハイミ殿たちをもてなすでござるよ!!」



 そう言ってベルトバッツさんはあたしたちの為にささやかな宴を開いてくれるのだった。 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る