第234話9-6見えない敵
9-6見えない敵
第七層の探査がが始まって早一週間くらいが経つ。
「ほんっとうに何もいないわね? いるのはロックリザードくらいであとは変なムカデみたいのがいたくらい? この層にはモンスターがいないのかしら」
シェルはそう言いながらつまらなさそうにしている。
しかし余分な戦闘がない分探索な順調だった。
この一週間でほぼ第一ベースの周辺のマッピングが終わった。
そして分かったことは相変わらずこの層も広いと言う事。
左の方に行くと地底湖があったり右の方に行くと行き止まりの通路が多かったりと多少の変化はあるもののあの光る植物は何処にでも生えていて行く先々には大人しいモンスターしかいない。
しかしそんな探索にも今日行った前方には変化があった。
第一ベースより広い空間があったのだ。
あたしたちは第一ベース周辺に変化が無ければこの次に見つけた広い空間を第二ベースにしようとしていた。
「他はやはり何もなかったようだな。主よ候補地まで移動して第二ベースを設置しよう」
「そうですわね、変わり映えが無いのなら第二ベースを設置して探索範囲を広げましょうですわ」
あたしたちは第一ベースを引き払い次の広間へ第二ベースを設置する為に移動した。
* * *
「シェルターはこれで良しっとですわ。イオマ、またお皿とか作りますから片づけを手伝ってくださいですわ」
「はぁ~い、お姉さま」
「ねえ、エルハイミ、どう思う?」
シェルが耳をピコピコしながらあたしに聞いて来る。
あたしも感知魔法は既に発動していて周囲の状況を把握しているけど、うまい具合にぎりぎりのところでこちらの索敵範囲に入ってこない。
「駄目ですわね、一体何なのかもわかりませんわ。ずいぶんと慎重のようですわね?」
「どうも知性があるモノのようだな。ここまで見事に距離を保ってこちらを見ているとは」
「お姉さま?」
イオマは分かっていないようだ。
しかしあたしたち三人はここにベースのシェルターを作り始めてから気付いていた。
あたしたちが気付くか気付かないかのぎりぎりのところに何かがいる事を。
それは知性があるのか、慎重なのか見事にぎりぎりで距離を保っている。
おかげでその正体が全く感知できない。
「面白いわね、狩りはするけど狩られるのは性に合わないわ、こちらから動く?」
「もう少し様子を見た方が良いな。こちらから動くにしろ数が全くわからんのでは対処のしようがない」
確かに少数なら力任せに対処できるけど多すぎると厄介だ。
せめて何者なのかは把握したいところだが。
「わからんのが敵意が全くないと言う事か? それとも今は観察に徹しているだけなのか、とにかく厄介だな」
殺意とか敵意とかあればもっとはっきりとするのだけどただ観察されているだけと言うのは本当に厄介だ。
「とりあえず気付かぬふりをしていましょうですわ。そしてもう少し向こうに動いてもらいましょうですわ」
あたしはそう言ってイオマと食器とかの整理を終える。
そして食事の準備をする。
「シェル、ショーゴさんわざと匂いが出るように料理をしますわ。相手の動きの様子をお願いしますわ」
「わかった」
「了解だ、主よ」
「お姉さま??」
相変わらずイオマだけはよくわかっていないようだけどあたしは黙ってお肉を焼き始める。
わざと香ばしく、そして匂いが拡散するようにしておいしそうな匂いを漂わせる。
熱した肉から脂がしたたり落ちて熱くなった岩にじゅっと音を立てて煙を立たせる。
とたんに香ばしくて好い匂いが充満する。
「動いた! こっちの様子を近くで見ようとしている!」
「この動き‥‥‥三人から五人くらいか?」
シャルとショーゴさんは既に物陰に姿をひそめ攻撃の準備をしている。
あたしも同調しながら感知魔法で周囲を見ているけど、この反応って‥‥‥
「シェル、ショーゴさん、私の感知魔法が正しければ三人で人のようですわ!」
こんな迷宮の奥底に人がいるの?
疑問に思ってもあたしが感知したのは間違いなく人だ。
「匂いにつられてやってきたか。殺気が全くないな。取り押さえてみるか」
そう言ってショーゴさんは動き出した。
いきなり一番近い相手に異形の兜に変身したショーゴさんは通常の人間ではありえない跳躍をして一気にその距離を縮める!
近寄ってきたそれはそのあまりにも常識離れした動きに戸惑い初動が遅れた。
ショーゴさんはそれにさっと覆いかぶさり腕を取り後ろに回り喉元に刃物を突き付ける。
それの仲間が慌てて弓を引くがその手にシェルの矢が刺さる!
残った一人がそれまでの状況に淡くっている所へあたしの【束縛魔法】の魔法のロープが飛んでいきあっさりとからめとる。
「動くな。何者だ?」
ショーゴさんに抑えられたそれは慌てて口を割る。
「ま、待ってくれでござる! 儂らはそなたらに害を及ぼすつもりはござらん! 大人しくするからこの刀を引いてくれでござる!!」
ずいぶんと古風な言い回しね?
あたしは捕まえたそいつらを見るとなんというか非常に独特な民族衣装を着ていた。
言う所の忍者の様な格好をしていて顔も目の周りだけ残して口元は布で覆われていた。
シェルに矢を撃たれた者も傷口を押さえながら無抵抗をアピールするがごとく武器を投げ出す。
とりあえず三人を一所に集めてシェルの矢で傷ついた人の手当てをしてやる。
「こ、これは奇跡の力ではござらんか!? あなた様は女神様のお使いでござるか!?」
「お、お姉さまこの人たち何者なんです?」
イオマがあたしの後ろでおっかなびっくり覗き込んでいる。
「それを今から聞くつもりですわ。あなたたちは一体何者なのですの?」
あたしの質問にショーゴさんにつかまったリーダー格のような人が答える。
「儂らはローグの隠れ里の者でござる。」
「ローグだと? まさか本当にいたのかローグの民が!!!?」
ショーゴさんが驚いている。
ローグの民って何?
あたしはその聞き慣れない言葉に首をかしげる。
「ローグって、もしかして暗黒の女神ディメルモ様に仕えた原始の一族? 女神戦争の時に最後まで光の女神ジュノー様に抗ったというあのローグの民なの!?」
なんかシェルまで驚いている。
「シェル、ショーゴさんそのローグの民って何なのです?」
シェルとショーゴさんは一斉にあたしに振り向く。
「まさか知らないのあの有名なローグの民を!?」
「主ほどのお方が知らないのか? もしかしてこれは西の大陸では忘れ去られているのか?」
「えーと、おとぎ話のローグの民ですよね?」
なんかあたし以外はみんな知っているみたい?
どう言う事よ、そんなの聞いた事も無いわよ!?
「ローグの民は女神戦の折に暗黒の女神ディメルモ様に仕えた古の民で闇夜でも目が効き音もなく忍び寄り数数の英雄たちを血祭りにあげたと恐れられた民たちだ。」
何それ初耳よ!?
「しかし、何故ローグの民がこんな所にいるのだ? 伝承ではローグの民は最後に女神ジュノー様に挑んで全滅したと聞いているのだが」
「それは儂らの同胞の一部でござる。流石に女子供まで道ずれにするは忍びないと黒龍様が言ってくださり儂らの一部はここディメルモ様の居城にご厄介になることになったのでござる。」
「まさか、女神戦争の後からずっとここに!?」
シェルが驚いている。
彼らの話を真に受けるなら何千年、何万年の単位でここに居る事になる。
「それで、そのローグの民が俺たちに何の用だ?」
「いや、この場所に儂ら以外の人が来るなど今までになかったのでござる。わしらは黒龍様の言いつけを守りこの階で静かに暮らしておったのでござる。しかし魔獣除けの結界に何やら入り込んできたので様子を見ておったのでござるが、まさか女神様のお使いがいらっしゃるとは思いもしなかったでござるよ。」
そう言って彼らはあたしを見る。
「女神様のお使いがこられたのだ、どうぞ儂らの村までお越しくださいでござる」
そう言ってこの三人はあたしに頭を下げる。
ローグの民の村。
魔獣除けの結界。
いろいろとこの階を探索するよりずっといいかもしれない。
あたしたちは彼らの村に行く事にしたのだった。
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