第233話9-5胞子の海
9-5胞子の海
「なによこれ? カビ??」
あたしたちはいよいよこのイージム大陸の大迷宮、第七層に足を踏み入れた。
記録上はここから先に入った人間はいない。
なのでここから先がどうなっているかは誰も知らないのだ。
「カビと言うより独自に進化した植物のようですわね。ぽわぽわしたこれは花ですかしら?」
あたしたちはこの第七層に足を踏み入れ少ししたところで壁一面に生えている綿のような薄く発光するモノを見ていた。
生態が地上の植物とはかなり違い、根っこのようなものの上にせりあがった茎のようなものからいきなり丸いぽわぽわした綿のような、花のようなのがついている。
そのぽわぽわした花のようなものが薄く発光しているのだ。
おかげで明かりの魔法をつけなくても十分に歩き回れる。
「生き物なのは間違いないみたいね、今までに見た事無いものだけど」
シェルはそう言って矢でそのぽわぽわをつついてみる。
するとタンポポみたいにぽわっとそれはパラパラになって崩れ落ちた。
「なにこれ? 簡単に崩れちゃったわね」
そう言って矢じりの先に着く粉のようなものを見る。
それ自体もうっすらと光っている。
「どうやら胞子のようですわね?」
あたしはそれを見ながらそう言う。
シェルはそれをふうっと吹き飛ばしてから矢筒に矢を戻す。
「害がなければ問題はなさそうだけど、どうなんだろうね、これ?」
「現状で呼吸に問題がないのなら大丈夫だろう。毒素があればこの近辺にもっとモンスターの死骸が転がっているはずだ」
ショーゴさんはそう言って先へと歩み出す。
あたしも同意見だ。
第七層だってきっと広いのだろう。
もしここで毒素があって生物に影響を及ぼすならもっと第六層のモンスターの死骸なりなんなりあるはずだ。
それにそんな環境なら最悪この階には生物がいないと言う事になる。
流石にそれは無いだろうと思いあたしもショーゴさんの後に続く。
あたしたちが歩くたびにそのぽわぽわは風圧で揺れきらきらした胞子をまき散らかす。
通った後を見るとそれが空気中の低い所を漂いまるで光る胞子の海のようだ。
「お姉さまぁ、こわ~いぃ」
「‥‥‥イオマ、歩きにくいから腕にしがみつかないでくださいですわ」
自業自得は分かっているけど胸のマッサージしてからイオマがしつこいくらいになついている。
第七層は六層と違ってせいぜい三メートル強の天井があった。
全体的に鍾乳洞の洞窟のような感じで道幅が広くなったり狭くなったり、分岐があったりやや登ったり下ったりと完全に人の手が入っていない自然の作りだ。
ただ、いたるところにさっきの光るぽわぽわがあってこの空間全体をぼんやりと照らしている。
「どうやら完全に問題はなさそうだな。そこの影にロックリザードがいるが上の階と全く同じのようだ」
ショーゴさんはそう言ってロックリザードのいるところへ小石を投げる。
もともと臆病なロックリザードはその石に反応してそそくさと逃げていく。
「問題がないのなら八層に行く道を探しましょうですわ」
あたしはそう言いみんなも同意して先を進む。
しばらく歩いていたが案の定この階も広い様だ。
行けども行けども変わり映えのしない風景、一応道しるべみたいなものは壁やその辺に転がっている岩を錬成して道しるべを作る。
そんな事をしてまたしばらく進む。
「妙ね、モンスターが全くと言って良いほど現れないわね? ロックリザードみたいのはたまにいるけど上の階みたいにいきなり襲ってくる狂暴なのが全くいないってのは変ね?」
シェルは耳をピコピコと揺らしながら注意深く周りに気を配っている。
あたしも時たま感知魔法を発動しているけど、確かに危なさそうなモンスターが全くいない。
「でもまあその方が楽よね」
お気軽なシェルはそう言いながら歩いていく。
* * *
どれほど探索しただろうか、拠点になりそうな広い空間があった。
きっとこの階でも探索に時間がかかるだろうから拠点を中心に調べるしか方法がない。
むやみにぐるぐる回っていても効率も悪いし未探索エリアも出来てしまう。
あたしたちは広くなった空間でここに第一ベースを作ることにした。
「簡易ですが万が一を考えてシェルターを作りますわ。みんな下がってくださいですわ」
あたしはそう言って【創作魔法】で地面を競り上げてあたしたちを囲む様に頑丈なシェルターを作った。
これで何かに襲われても大丈夫。
数日はここを使う事を考えて結構大きめなものにした。
中に入り追加でイスとテーブルを【創作魔法】で作る。
そしてシェルのポーチから第七層のマッピング地図を取り出す。
「今はこの辺になるだろう。第六層の分かっている所と七層への入り口、この層の構造を考えると六層を基準とした予測が全く立てられんな」
ショーゴさんはそう言ってため息をつく。
人工ダンジョンなら各層が似たような構造が多いが天然の迷宮ならそうもならない。
ましてや六層と五層の間にあれだけの空間があるとなるとその下は同じ広さとも言えないし同じ構造とも言えない。
なのでこうしてベースを作りこまめに周辺探索してマッピングするしかない。
「もう驚かなくなってきましたが、流石お姉さまこんな素敵なシェルターを一瞬で作り上げるなんて!」
「イオマ、それよりしばらくここを拠点に活動をするからもう少しいろいろと作りますわよ」
あたしはそう言って入用になりそうな水がめやお皿類を土から作り上げる。
イオマに手伝ってもらいながら簡易の戸棚にそれらをしまってひと段落。
本当はお茶でも飲みたいけどそんな贅沢はここではできない。
「まだ食料に余裕はあるがもしこの階でも食えるモンスターがいれば確保しておきたい、今は休んで一眠りしたらこっちの方から探索を始めよう」
ショーゴさんがそう言って指さしたのはこのベースの更に先の方だった。
「一方向に先行しすぎても八層への道は見つかりにくい、全方向をこのベースを中心に均等の長さで探索するとしよう、そしてその先で第二ベースが出来そうな場所が見つかればそれをまた中心に捜索範囲を増やしマッピングをする、主よそれでいいか?」
あたしたちはショーゴさんの提案に同意して簡単に食事して休むことにした。
* * * * *
「じゃ、あたしは見張りするからごゆっくり~」
「ちょっとシェル! この裏切り者ぉですわっ!!」
そう言ってシェルはひょいっとどこかへ行ってしまう。
このベースには部屋を三つ作った。
大広間と小部屋が二つ、小部屋は男性用と女性用に分けた。
ショーゴさんは広間で十分だと言っていたがこれから先長いので体のメンテナンスをすることもあるから部品とかもおいておけるスペースが欲しかった。
その女性用の部屋にあたしとイオマがいる。
「お姉さま、さあ早くマッサージしてくださいよぉ」
「い、イオマあのマッサージは毎日するようなものではありませんわよ」
「だぁ~め、誰がこんな体にしたんですぅ~?ちゃんとしてくれるまで放しませんよぉ」
既に瞳をウルウルさせてイオマはにじり寄ってくる。
あたしはとうとう壁にまで追いやられイオマに壁ドンされる。
「さあ、お姉さま!」
「エ、ええ~とですわ‥‥‥」
既にイオマはあたしに背を向け上半身の衣服を脱ぎ終わっている。
そしてあたしにもたれかかり熱いと息を吐きながらおねだりしてくる。
「おねぇさまぁ~ん、はやくぅう~」
あたしは仕方なくイオマの胸に手を伸ばし、マッサージを始めるがさっきからねっとりとあたしたちを見る視線を感じている。
「んふっ、お姉さまぁ~上手ぅ~」
「ごめんなさいですわイオマ、【睡眠】」
イオマがそれに気付く前に魔法で眠りにつく。
あたしはイオマに服をかけてから小さな雷をビリっと飛ばす。
それは「ばちっ」とこの部屋の出入り口の壁に当たってはじける。
「うひゃぁっ! 危ない!!」
「やっぱり覗いていましたわね、シェルぅ!!」
観念して頭の後ろを掻きながらシェルが出入り口に現れる。
「あはっ、あはははは、ちょっと忘れ物取りに来ただけだよ~」
「何を白々しく! このエロフ!! よくも私を置いて逃げましたわね!!」
そんな事は無いよぉ~とか言いながら目が泳いでいる。
こいつ‥‥‥
「だ、大丈夫、ティアナには内緒にしておくから、楽しんで!」
「シェル、一回その頭の中をきれいに雷で焼き払ってあげた方が良いですわね‥‥‥」
あたしはゆらりと立ち上がる。
シェルは額に額にびっしり脂汗をかきながら一歩、二歩と後ずさりを始める。
「お、落ち着いてエルハイミ、ほんとティアナには言わないから!」
「当り前ですわ! 万が一ティアナになんて知られたら!!」
あたしは死なない程度の雷をシェルに向けて放つ!
しかし予測してたかのようにシェルは脱兎のごとく逃げ出していた。
「待ちなさいシェル!」
「冗談じゃないわよ! 誰が待つもんですかぁ!!」
「シェルぅうっ!!」
逃げるシェル、電撃を放ちつつ追うあたし。
「あー、主よあまり遠くまでいかんでくれよ、シェルもだぞ」
のんきにそう言うショーゴさんを後にあたしはシェルを追い回すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます