第208話8-10補修

 8-10補修



 「よーし、そのまま引き上げろ!!」



 翌日すぐには次の戦闘にはならないだろうと城壁の補修工事が始まる。

 もし敵襲があった場合は作業者をすぐに撤退できるようにし、警備にマシンドールたちをつけている。


 あたしやティアナは城壁の上から補修工事の様子を見ている。


 「土台の下の方に着弾したおかげで突き抜ける事は無かったのは助かった。もう数メートル上だと壁が薄くなるからな、もしかしてたら崩れていたかもしれん。」


 ゾナーはそう言って補修工事の図面を見ている。



 あたしはふと思いつく。

 そう言えばこの城壁には投石機とか無い。

 なんでだろ?



 「ゾナー、そう言えばこの城壁には何故投石機が無いのでしょうか?」


 「それは強度が持たないからだ。冬場の万が一を考えると城壁は最低でも十五メートル、遠方からの監視も考えると二十メートル級が欲しかった。しかし高さを確保すると言う事はその強度の問題が出てくる。落石くらいなら問題がないが投石となると土台が持たん。」


 なるほど、そう言う理由だったか!


 「それにはっきり言って主やエルハイミ殿の魔法をあてにしている。だからこの司令塔は城門のすぐ上にあるんだ。ここはちょうど左右均等に見渡せるからな。」


 確かにここはこのティナの町で一番高い建物だ。

 この城壁があれば巨人族が来ても対処できるだろう。

 今この世界にいる巨人族は大きくても七~八メートルだ。

 太古の巨人で十五、六メートルあると言われる奴が出てこない限り問題無い。

 

 「しかし投石機に変わるものか・・・魔法が聖騎士団には効かないからそれも考えなければだな。部分的な補強をしながら投石台も追加で作成するよう伝えよう。」



 そこであたしはちょっと考える。

 なにも大型で取り扱いの悪い投石機を作らなくても良いのではないだろうか?

 あたしがとっさに調整した【流星召喚】のようにある程度小さくても当たりさえすれば相手に痛手を与えられる。


 ではどうすればいいのか?



 「ゾナー、ちょっと失礼しますわ。工房に行って思いついたものを作ってきますわ!」


 あたしはそう言ってマシンドール調整用の工房へと向かう。



 * * *



 「エルハイミさん、どうしたんだいこんな所へ?」


 「ルブクさんお久しぶりですわ。実はちょっと試したいものがありまして来たのですわ。」


 あたしはそう言ってさっそく魔晶石核を取り出し近くにあった素材を錬金魔法で形にしていく。

 出来上がったそれは遊園地などであるボールを空気で飛ばして的当てさせるものに似ていた。


 「なんだいそれは?筒のようだが??」


 「ルブクさん、人間の頭くらいの岩が飛んで来たらマシンドールは耐えられまして?」


 ルブクさんは上を見ながら顎に手を付け考える。


 「まあ、当たりどこと飛んでくる威力にもよるわなぁ、直撃したら流石にただではすまんだろうがな?」



 やはりそうだよね?

 いくらマシンドールでも直撃したらただでは済まない。


 そこでこれなのだ!!



 「それなのでこれを作ってみましたわ!!これをゾナーたちの所へ持っていきますわ!!」


 あたしはそれを担ごうとしたけどよろよろとしてしまう。

 しまった、強度を上げるために頑丈にしたらあたしが運べる重さじゃない!!


 「何やってんだよ、あんたみたいな女の子じゃ持ち上がらねえよ、ほら、貸して見な。ゾナーの旦那のところでいいのか?」


 「あ、ありがとうございますですわ。ちょっと大変ですが司令塔まで持って行かなければなりませんの。」


 一瞬ルブクさんは「うげっ」とした顔をするが言い出した手前手伝うしかない。

 あたしはきらきらフォーカス付きピンクの背景にしてもう一度お礼を言う。


 「ほんと助かりますわ、流石ルブクさんですわ!ありがとうございますですわ!!」


 にっこりとほほ笑むあたしにルブクさんは少し頬を赤くして「お、おおっ!」とだけ言ってその筒を担いで歩き出した。



 * * * * *



 「エルハイミどこ行ってたの?」


 司令塔に戻るとまだティアナたちが話していた。


 「これを作っていましたの。ルブクさん、ありがとうございますですわ!」


 「はぁはぁ、い、いいって事よ。じゃ、俺は戻るからな。」


 そう言って彼は行ってしまった。


 「それでこれは何なんだ、エルハイミ殿?」


 「小型の投石機ですわ!」


 あたしは落石用の岩を見る。

 その中で人の頭くらいの大きさの石をふらふらしながら引っ張り出す。

 見かねたエスティマ様がすぐに手伝いをしてくれる。


 「エルハイミ殿、このような事は貴女に向いていない。どうぞ私に言ってください。」


 しっかり白い歯を輝かせアピールするエスティマ様。

 まあ今回は素直にお礼を言っておこうか?


 「ありがとうございますですわ、エスティマ様。それで申し訳ございませんがその石を筒の上の穴に入れてもらえませんかしら?」


 「こうですか?」と言いながらエスティマ様はそれを筒の中にいれた。


 あたしはさっそくその筒の後ろに行って横のレバーを押して筒の上部に蓋をする。

 そして前の方を見て大体五百メートルくらい離れている朽ちかけた枯れ木を見る。


 「多分うまく行くと思いますわ、あそこに見える枯れ木に注目してくださいですわ!!」


 みんなは何事かとその枯れ木を見る。

 あたしは魔晶石を起動して筒の内圧を高める。

 そして凝縮されたその炎の塊はぎりぎりまで圧縮されたかと思ったら一気に解放されて爆発するかのように筒の中の石を吐き出す!


 ぼんっ!!!


 ひゅるるるるる~

 ぼふっ!!

 めきめきっ

 ばたっ!!


 それは炎をまとったファイアーボールにも似た火球となって遠く枯れ木にぶち当たった!!

 枯れ木は石をぶつけられあっさりと折れて倒れてしまった!!


 「なんだあれは!?」


 「エルハイミ??」


 「エルハイミ殿、これは一体?」


 みんなが驚く中、あたしは説明を始める。


 「投石機は確かに強力ですわ、でも取り扱いや狙いがあいまいで運良ければ当たるくらいのモノですわ。しかしこれは違いますわ!狙った所へ頭くらいの石を高速で投げつける物理兵器、防御魔法でもない限りそうそう受けきれるものではありませんわ!!」



 「おおーっ!」



 周りで見ていた兵士たちも一緒になって声を上げている。

 

 「これは原理は簡単で量産性も高いですわ。多分最大で五、六百メートルは飛びますから投石機よりかなり有用ですわ!!」


 「確かにこれなら取り回しもいいし石も小さくて済む。」


 「聖騎士団に対してもこれなら有効だな。いや、単純だからこそキメラにもブラックマシンドールにも当たりさえすれば効くな!!」


 エスティマ様もゾナーも小型投石機に群がる。

 これはアイミとあたしやティアナがいる限り簡単に作れる。

 何せ炎の精霊は簡単に呼び出せるし融合もあたしやティアナがいればすぐにできる。

 後は量産なんだけど・・・・


 『最初は貴女がやるしかないわよね、エルハイミ?』


 「あうっ!やっぱりそうなりますわよね・・・」


 シコちゃんに早速突っ込まれるあたし。

 しかしこれで時間もかからず大幅に戦力の増強が出来る。



 あたしはため息つきながら工房にしばらく籠る覚悟をするのであった。

  

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