第207話8-9黒い奴


 8-9黒い奴



 森から出てきた女性型の甲冑。

 あたしは同調して感知魔法を発動させそれを見ていた。




 「間違いなく双備型のマシンドールですわ!」


 「エルハイミ殿、ホリゾンにもマシンドールが有るのですか!?」


 驚いているエスティマ様。


 アコード様から話は聞いているだろうけど、それはジュメルの話。

 正式にホリゾン帝国にマシンドールがあると言う事にはなっていなかった。

 しかしそれを隠さずここへ出して来ると言う事はいよいよあちらも手がなくなってきたと言う事だろうか?


 「エスティマ様、あれは間違いなく双備型のマシンドールですわ。ただ、ガレントのモノよりは出力が低いようなので完全には模倣出来なかったようですわね?」


 こちらのマシンドールより魔力循環が悪い。

 しかし双備型、瞬間的にはそれなりの力を発揮できる。

 十分に注意が必要だ。


 「とうとうブラックマシンドールを出してきたわね?しかしだいぶごつい感じね、こちらのマシンドールより色もそうだけど物々しい。」


 シルエットは女性なのだがホリゾン特有のとげとげした外観はヘビーメタルチック、マスクも女性の顔ではなくのっぺりとしたものに目だけがあるという感じだ。

 アイミたちと違って耳の辺に角のようなものがある。



 「しかし所詮はまがい物、我が軍のマシンドールの敵ではあるまい!!」



 カッコつけて右手をバサッと敵側に向けて決めポーズを取ってあたしをチラ見するエスティマ様。


 マシンドールの性能が戦いの全てでは無い。

 その辺分かっているのだろうか?



 「とにかく厄介なのが出てきたな。どうしますかエスティマ様?」


 「無論マシンドール部隊を投入して一気にせん滅するぞ!」


 鼻息荒いエスティマ様はここがチャンスと意気込む。


 しかしそんなエスティマ様にティアナが待ったをかける!!



 「待って、兄さま!ブラックマシンドールたちが引いていくわ!!」



 ティアナのその言葉にあたしたちはそちらを見る!

 すると確かにマシンドールたちはあの大型クロスボウを引っ張りながら森の奥へと下がっていく。


  

 どういう事?



 すると今度は森の奥から一人の人物が現れた。



 「ヨハネス神父!!?」



 真っ先に目の良いシェルが反応する!

 ヨハネス神父は森の出口から戦場の様子を見てほほをポリポリと掻いているようだ。

 そしてあたしたちの視線に気づいたか、こちらに向かってにこやかな顔で手を振っている。



 「なっ!何よあの態度!!グランドアイミをけしかけてやろうかしら!!」



 憤るティアナ。

 しかしヨハネス神父は次に両手を広げてから優雅にお辞儀をして踵を返した。

 そして何事も無かったようにまた森の中に消えていく。



 「どうやらヨハネス神父も今後はこの戦いに参戦するようですわね?今のはその挨拶ですわ!」



 あたしは頬に一筋の汗を流す。

 今までは聖騎士団との戦い。

 しかし今後はジュメルを含む聖騎士団との戦いになる。



 キメラ部隊は流石に厄介だった。

 しかしジュメルの魔怪人や融合怪人ほどでは無かった。

 だが今後はそれらも相手にすることを考えなければいけない。



 「とりあえず引いたようだな。しかしあれがヨハネス神父か?帝都では一度も見た事がないぞ?」


 「ジュメルとしても動いていたようですわ。ジュリ教としてずっといたわけではないでしょう?」


 あたしのその言葉にゾナーは「うむ」とだけ言った。


 「エルハイミ殿、あれがジュメルなのですか?ただの神父では無いですか?」


 「いえ、エスティマ様。あの神父は古代魔法王国の秘宝を操りジュメルの女幹部を従える者、相当な高位なはずです。」


 あたしはガルザイルの時を思い出していた。

 通常の魔法は効かない、側近は女幹部や融合魔人。

 間違いなく高位なのだろう。

 まさか「十二使徒」なのだろうか?



 「ヨハネス神父って本当に敵だったんだね・・・」



 シェルがあたしたちの所へ来てぽつりと言う。

 その後シェルはこれが初めてヨハネス神父との対峙となる。


 浮かない顔のシェル。

 まだ信じられないという表情だ。


 でも、それでも・・・


 「シェル、あれは敵ですわ!気を許してはダメですわ!あの神父はジルたちの村を聖騎士団に襲わせたのですわよ!!」


 あたしのその言葉にシェルはハッとしてこちらを見る。


 「そうね、そうだったわね、うん。もう大丈夫、あたしもやるわ、エルハイミ!」


 そう言ったシェルの瞳はもう迷いの色は無かった。



 * * * * *



 「厄介なものだよ、あいつらは。」


 そう言ってゾナーは回収したキメラの猿とケンタウロスを指さした。

 解体台に乗っていたそれは半分が魔法の機械仕込み、半分が何かの動物だった物。

 ジュメルとは違い倒されると溶解したり爆発はしないもののそれは常識を逸していた。


 「倫理観念にとらわれるつもりはありませんが、これはひどいですわね?」


 多分長くて数年の命だろう。

 死体から読み取れるのはとにかく戦闘力だけに特化してその個体自体を長々と使う気が全くないという所だろう。



 あたしはビエムを思い出す。

 人でさえ実験動物の様に扱うその考えには賛同できない。



 「ホリゾンはこんなことを許していたの?」


 シェルがそう言う。


 「主にルド王国に兵器開発はさせていたが、これは酷い。こんなものが戦場を駆け巡っているようになるとはな。これでは兵が委縮する。いくら使い捨てとは言え明日は我が身と映ってしまうからな。」


 どうやらゾナーがホリゾンにいた時とも状況が変わってきたようだ。

 それもこれも全部ジュメルのせいだ。


 「次からの攻撃はジュメルも来るのでしょう?今までの戦法は通用しなくなるわね?」


 ティアナはそう言ってもう一度キメラたちを見る。



 「出来ればこんな死に方だけはしたくないものね。」



 ティアナはそうぽつりと言う。

 あたしは思わずティアナを見て言う!


 「そんな事は絶対になりませんわ!ティアナは私がいる限り必ず守って見せますわ!!」


 ハッとしてティアナはあたしを見る。


 「ごめん、そうね、エルハイミがいるもの!私たちは負けないわ!!」




 そう言ってあたしの手を強く握ってくれるのであった。

 

 

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