第190話7-27ホリゾンの狩人
7-27ホリゾンの狩人
あたしとティアナ、そしてシェルは急いでゾナーの下へ向かっていた。
「ゾナー!何が有ったの!!?」
「主か!?主よ解毒魔法は使えないか!!?」
見るとひとりの少年が今にも死にそうな青い顔をしている。
格好からして狩人のようだ。
「エルハイミ、お願い!!」
あたしはすぐにシコちゃんを取り出す。
「シコちゃん解毒を!!」
『任せて!行くわよ【解毒】!!」
シコちゃんの魔法で少年の顔色が落ち着く。
あたしは続けて【治療魔法】をかける!
少年は魔法がかかると苦しそうな顔つきから穏やかな表情に戻った。
「ゾナー、どういう事?」
「ああ、どうやらホリゾンの偵察部隊、しかもダークエルフにやられたようだ。この少年はホリゾン側の森の中で見つかった。うちの偵察部隊が見つけてきたんだが、毒にやられ雪に半身埋もれていたらしい。もう少し見つけるのが遅かったら凍死していたな。」
今は毛布にくるまっていて介護されている。
少年は先程とは見違えるような顔色に回復している。
「でもなんで狩人のこんな少年が?」
「ああ、作戦中のダークエルフは目撃されるのを嫌がる。関係あろうがなかろうが邪魔と判断すればたとえ自国民でも容赦なく消しにかかるよ。」
そう言ってゾナーはもう一度少年を見る。
そう言えばこの少年って・・・
「ゾナー、ホリゾン側で見つかったと言う事はもしかしてですの?」
「ああ、そうだ。こいつはホリゾンの人間だ。」
たとえホリゾンの人間でも凍死しそうなのをほっておくわけにはいかない。
ゾナーの事だから抜かりは無いだろうけど。
「でも、自国民まで手にかけるなんて・・・」
「ダークエルフらしいわ。しかもとどめを刺さずに凍死させる気だったの?相変わらず陰険な!!」
シェルは腕を組んで怒っている。
そんな事を言っていると少年が気付いた。
「ううっ、ここは?」
「ここはガレント領のティナの町だ。」
ゾナーにそう言われ少年は最初ポカーンとしてしていたが次第に頭がはっきりしてきたのか驚きの表情になる。
「え、ええっ?ガレント領!?お、俺人質になって強制労働送りになるの!!?」
何だそれは!?
ホリゾンでは一体どういう風にガレントを伝えているのよ!?
「そんな事は無いわ。だから安心なさい。それよりどうしたって言うのよ?」
ティアナにそう言われて初めてあたしたちの事に気付いた少年はあたしたちをまじまじと見てほほを赤くする。
「なんて別品さんぞろいなんだ。ガレントの人間はみんなこうなのかよ?」
あら、お上手。
でも今はそんな事より何が有ったか詳しく聞きたい。
「ありがとうございますですわ。それよりあなたに何が有ったというのですの?」
今度はあたしからも質問をする。
少年はぽうっとあたしたちを見ていたが思い出したかのように言い始める。
「そうだよ、俺ウサギを追っていたら全身黒づくめの奴等に出会って話しかけたらいきなり切りつけられて・・・」
少年の話では顔は目以外は布で覆われ、五、六人いたそうだ。
こんな雪中でどうしたのかと思って声をかけたが最後、その黒づくめの連中はいきなり短剣で襲ってきて切りつけられ、命からがらその場を逃げ出したのは良いが徐々に体が痺れてきて気を失ったらしい。
少年はここからホリゾン側へ北に五キロくらい離れた小さな村の者で狩人をしていたらしい。
「ふむ、いきなりか?しかしそこまで連中苛立つなんて珍しい事だ。」
「どういう事よ?」
「暗部の連中は精神的にも鍛えている。どんな任務かは知らんがいきなり出合い頭に消しにかかるとは、よほど焦っていたんだろうな。」
そう言って窓の外を見る。
外にはまた雪が降り始めていた。
「ティナの町になかなか入れなかったようだな。」
それで自国民に八つ当たり?
ひどい話もあるもんだ。
「少年、まずは体の回復を優先するんだな。同郷のよしみだ、そのくらいは面倒見てやるぞ。」
ゾナーに言われ少年は驚いたような顔をする。
「じゃあ、俺返してもらえるのか!?」
「ああ、元気になったら返してやる。それまではここで大人しくしているんだな。雪も降ってきたようだしな。」
そう言ってゾナーはもう一度外を見る。
外はまた深々と雪が降っていた。
* * * * *
「で、なんであんたがまだここにいるのよ?」
「だからもしもの為にあたしがこの部屋で精霊力の変化について見張ってあげるって言ってるでしょ?」
既に寝間着姿、と言うよりあたしとティアナはキャミソール姿でいる。
なぜかシェルも下着姿だが鼻息荒く目がらんらんとしている。
「ささ、あたしを気にせずに眠って!ちゃんと風の精霊を使って音は消すから!!」
本当に寝る時まで一緒にいるつもりだったらしい。
のぞく気満々だ。
こいつ・・・
さきに【睡眠魔法】で眠らせて外に放り出そうか?
あたしが半ば本気でそう思った時だった!!
シェルがいきなり水の精霊を使ってあたしたちの前に水の壁を作る!!
そして水の壁は飛んできた二本の短剣を弾き飛ばした!?
あたしとティアナはすぐに同調をして【感知魔法】を発動させる!!
「そこっ!!」
シェルが投げつけた花瓶が空中ではじける!?
そしてそこに濡れた透明な何かが現れる。
あたしやティアナも既にそれが何か理解している。
闇の精霊力がものすごく強くなって姿を半ば消しているがそこにいるのは確実に精霊を使える精霊使い!
ダークエルフか!!?
「エルハイミ、ティアナ気を付けて!」
シェルが水の精霊を操りそこへ攻撃をかけようとする!?
その瞬間あたしは後ろへ電撃の魔法を放つ!
ばちばちっ!!
「うぎゃぁっ!!」
あたしの電撃に短い悲鳴が上がりその場に倒れる人影!
ぱっと見で耳が長い!
「ティアナ!」
あたしのかける声にしかしティアナは既に【拘束魔法】で透明の何かを捕まえていた。
残るは最初の一つ!
しかしそれも既にシェルの精霊魔法で切り伏せられていた。
高圧の水刃で切り伏せられた影はその姿を現す。
耳の長いダークエルフだ!!
「ダークエルフごときがこのあたしに勝てると思って?女三人が裸同然だから好機とでも思ったのかしら?甘いわね!」
そう言ってティアナが捕まえたダークエルフを睨む。
『このくらいならあたしがでしゃばる必要は無かったか。しかし久しぶりに見るわね、ダークエルフなんて。』
「シコちゃんも気付いていたのですの?」
『あなたたちだって最初から気付いていたんでしょ?わざわざ隙を作るなんてね。』
そう、あたしたちはとっくの昔からこいつらが侵入しているのは気づいていた。
多分あの少年を襲ってそれを救助する偵察部隊に紛れてこのティナの町に侵入したのだろう。
少数精鋭の暗殺者を送り込み、ティアナやあたしたちを始末しようとでもしていたのだろう。
厄介なあたしたちがいなくなればここの攻略もできると踏んだのだろうか?
「シコちゃん他には?」
『感知できる範疇にはもういないわね。シェル、精霊の動きは?』
「うーん、特に感じないわね。もう大丈夫みたい。さて、色々とはいてもらうわよダークエルフ!」
シェルがティアナの捕まえたダークエルフをに向かったその時だった。
「ぐっ!」
くぐもった声を発しダークエルフはその場に崩れた。
あたしたちは警戒しながらそのダークエルフに近づく。
しかし息をしていない。
『どうやら奥歯にでも仕込んだ毒を飲んだようね。こいつら昔から変わらないわね・・・』
シコちゃんも昔ダークエルフとやりあったことが有るらしい。
しかしダークエルフはつかまったりすると自害する者もいるらしく、こいつがまさにそれだったようだ。
「暗部って言っていたから捕まると自害するように仕込まれていたみたいね・・・」
「ガレントの隠密とはだいぶ違いますわね?」
そうするとこいつらが失敗したことは別同部隊の所へ時間内に戻らなければ失敗と言う事でわかるだろう。
外は雪が降っているから町中か城壁の外で待機か?
いずれにせよゾナーに報告して早急に対処させないと残りの連中が逃げてしまう。
あたしたちは急ぎ衣服を身に着けゾナーの所へ向かうのであった。
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