第186話7-23ティナの町へ

7-23ティナの町へ



 「ふう、やっと帰ってこれた。」



 あたしとティアナは魔法陣でティナの町に帰ってきた。

 

 あの後ヨハネス神父を逃し王城でこの事を報告し、早急にガレントにあるジュリ教との協議に入ろうとしたがなんと司祭様が何者かに殺害されていてガルザイルにあるジュリ教の神殿は閉鎖が決まった。


 信者たちは回復後に他のジュリ教神殿に移転を望む者もあり事実上ガルザイルでのジュリ教は無くなってしまった。

 

 この流れ、まさしくヨハネス神父の思惑通りに動き始めている。



 「お帰りなさいませ、主よ。」


 ゾナーがティアナを出迎える。

 しかしあまり良い表情をしていない。


 「ご苦労様、それでティナの町は問題無かった?」


 「表面上は問題ないが、王都ガルザイルの噂は既にこちらにも。」


 予想以上の拡散能力だ。

 まさか数日でここまで情報拡散されるとは。


 「ティナの町の信者は?」


 「帝都から逃げてきた者中心だ、既にジュリ教を目の敵にしているものさえいる。」


 それを聞いてとりあえず安堵の息を吐く。

 そしてそのはいた息が白くなっているのに気付く。


 外を見るとここではすでに落葉樹は全て葉が散っていた。

 もう冬景色になりつつある。


 「そうするとホリゾンの動きに要注意ね。ホリゾン側の砦の警備と監視をお願いね。」


 「はっ、心得ました。それと、主に町の者から贈り物が届いてる。」


 「贈り物?何の?」


 「成人の祝いの品々と収穫祭の貢ぎ物だ。ホリゾンでは収穫は冬を越すための重要な行事、収穫によって祭りを行う習慣が有る。これは町の住人たちの主へ対しての気持ちだ。受け取ってくれ。」


 あたしとティアナはそんな言葉に少し驚きを感じる。

 ただでさえ初めての越冬で物入りなのに町から貢ぎ物だなんて。

 みんなだってぎりぎりのはず、余裕なんて無いはずなのに・・・


 「ふう、気を使わせたみたいね?」


 「気にする事は無い、これは町の連中の自発的なものだ。むしろちゃんと受け取ってやってくれ、その方が連中も喜ぶ。」


 ティアナはうつむいて「分かった」とだけ言って自室に戻って行った。

 

 * * * * *


 暖炉の薪がぱちりと音を鳴らす。

 マリア用にシェルが作った小さなソファーに気持ちよさそうにマリアが寝てる。

 

 あたしとティアナも二人掛けのソファーでくつろいでいるのだけど何故かシェルもここにいる。


 「ちょっと、もう少し詰めてよ、せまい!」

 

 「なんであんたがいるのよ!!それにこのソファーはもともとあたしとエルハイミ用なんだから二人用になってんのよ!!」


 「だって部屋寒いんだもん!薪燃やしても寒いんだもん!!」


 なんだかんだ言ってつまらなくなってこっちに来ているシェル。

 寝る時じゃないからまあいいけど、流石にこのソファーに三人で寝転がるにはちょっと狭い。


 おかげでいろいろと絡まってさっきからティアナの足があたしの足に絡み付いてそこにシェルが押して来るからやばい事になりそう。



 「ヨハネス神父ってジュメルだったんだね・・・」


 シェルがいきなりそう言う。

 あの時シェルは王城で別の事に従事していた。

 なのであとでヨハネス神父がジュメルと聞いてかなり驚いていた。


 薪がまたぱちりと音を立てる。

 あたしたち三人は何となくその火を眺めている。


 「あんなにやさしそうな人だったのにね・・・」


 またシェルがそう言う。

 

 「優しそうでも何でもジュメルはジュメルよ!」


 ティアナはそう言い切る。

 しかしその表情はやはり割り切れていないように感じる。

 

 「あたしいろいろあって村の外に出られたけど、マーヤが言っていた通りヒュームの世界は複雑ね。あたしたちに比べると寿命が短いから生きるために皆がそれぞれの違った考えを持っている、エルフとは違ってそれは様々だって。」


 シェルの言葉にあたしたちは無言のままだ。

 人間はその主義主張で対立する事も有る。

 ましてや考えが全く違うのであればそれは受け入れられない。

 分かってはいる。

 でも今回の裏切りにしろヨハネス神父がジュメルだったこともあたしたちには大きな衝撃だった。

 

 「人どうしが簡単に分かり合えるわけないわ。そんなに簡単に分かり合えたら争いなんて起こらないわよ。」


 ティアナは暖炉の炎を見ながらつぶやくようにそう言う。

 そしてまたみんな暖炉の火を見る。


 ただ無言でじっと。



 * * * * *


 「ふあぁあっ、うっ、寒い!」


 ティアナは起き上がりながらそう言う。

 あたしは少し前から目が覚めてた。

 

 「むにゃ~、う~んあったかい~。」


 ティアナ以外の声が隣からする。

 

 結局あの後なんとなく皆で寝る事となった。


 流石にシェルがいるので普通に寝たけど、何故か二人ともあたしを抱き枕のようにして寝るもんだからあたしはよく眠れなかった。


 二人とも寝相が悪いのか寝ながらあたしの体の色々な所をまさぐるものだからそれはそれはうっ憤がたまる事!


 仕返しにティアナのを触ろうとするとシェルが邪魔するし、薄い胸をいじってやろうとするとティアナにいろいろと絡まれるし。


 結局あたしだけまさぐられて終わりである。


 「う~ん、さてと起きるか。エルハイミ朝だよ?」


 「むにゃ?う~んもうすこしこうしていたぁ~い。」


 「はぁ、いい加減に起きなさいですわ、シェル。おはようございますですわ、ティアナ。んっ!」


 ティアナは朝のキスをしてくれる。

 

 「おはよ、エルハイミ。今日は何だっけ?」


 「うれしい事に今日は七日目の休みですわ。公務はお休みですわよ。」


 「ああ、そうだっけ!じゃあゆっくりできるか!!でもそうすると・・・」


 「そうですわね、さしあたり・・・・」


 「「このエルフを叩き起こさないと(ですわ)!!」」


 あたしとティアナは一斉に掛布団をはがす!


 「うひゃぁっ!寒い!!」


 「まだ起きないか、このシェルは!」

 

 「でしたらこうしてやりますわ!!」


 あたしはシェルの薄い胸を揉む!

 ティアナはわきの下をくすぐる!


 「うわっ!何処揉んでるのよ!やめっ、やめてぇ!!あは、あははははははっ!!」


 シェルを二人でたたき起こしながら今日は何しようか考える。

 悩んでも仕方ない。

 今は目の前にあることをやるだけだ。


 だから今日は三人でゆっくりと休んで明日からに備えよう。

 これから本格的に冬が始まる。

 ますます忙しくなるんだ。


 あたしたちはしばし思い切りじゃれあうのであった。


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