第185話7-22ヨハネス
7-22ヨハネス
翌日あたしたちはティアナの町に帰るのを一日遅らせ火事現場に来ていた。
「まさかジュリ教の神殿だったとはね。それで被害の方は?」
ティアナは焼けただれた神殿を見ながらロクドナルさんに聞く。
「死者二名、重軽傷者十二名です。建物はご覧の通り、宿舎の方も駄目ですな。」
ティアナはロクドナルさんの報告を聞いてため息をつく。
そしてもう一度神殿とその周りを見る。
「それで原因は分かったの?」
「生存者に聞いておりますがどうもジュメルの連中の可能性が有ります。」
「ジュメル?ちょっと、おかしいでしょ?ジュメルが神殿を襲ったって言うの?」
ティアナでなくても驚く。
ジュリ教はジュメルの母体ではないかとささやかれている宗教団体。
それをジュメルが襲う?
そんなことが有るのだろうか??
「もしかして、非協力的なまっとうなジュリ教だったの?」
小声でティアナはロクドナルさんに聞いている。
「そうかもしれません、隠密の話ではここはすこぶる平穏な神殿だったようです。無論王都です、変な輩がここへ来るとは思えませんがな。」
みんな黙ってしまう。
考えられるのはジュリ教とジュメルは一枚岩ではないか、ジュリ教自体も肯定派と否定派に分かれているかだ。
事実ユエナの地下神殿はジュリ教だったし、ホリゾンの国教もジュリ教だ。
そう考えるとこのジュリ教は内部分裂の犠牲か?
「どちらにせよもう少し調査しませんとな。何かわかり次第殿下にも連絡入れます。」
「お願いね。」
そう言ってあたしとティアナはこの場を離れる。
* * * * *
「まさかこんなことになるとはね。それより生存者って今は話せるのかしら?」
「ロクドナルさんの話では大丈夫みたいでしたわ。」
あたしとティアナは生存者に状況を聞きたくて近くで治療を受けている人たちの所へ行く。
街の集会場が臨時の治療所になっていたようでベッドが足りない人たちは床に寝かされていた。
魔法で治療された人たちはもう動けるようだけど重傷の人たちはまだ駄目みたい。
あたしたちはそんな人たちに【回復魔法】ではなく【治療魔法】を施す。
自己回復の【回復魔法】と違って【治療魔法】は外部からの魔力によって傷を癒す。
流石に欠損した所は治せないけど深い傷でもこれで大体治る。
しばらくケガの治療をしていると向こうでも治療をしている人たちがいる。
そんな中に知った顔がいた。
「ヨハネス神父様?」
「おや、これはエルハイミさんとティアナさんではないですか?どうしてここへ?」
「ええ、心配になって来てみたのですが、魔法の治療で手伝えないかと思いまして。」
見るとヨハネス神父様も魔法で治療をしていた。
と言う事は司祭級のと言う事?
あたしたちを見てヨハネス神父様はとくに何も感じてはいないように話しを続ける。
「助かります、流石に私一人では魔力が足らなくてね。」
はははと軽く笑っている。
しかしその手際はかなり良かった。
「さて、これでとりあえず終わりですね。ご協力ありがとうございます。」
そう言ってしゃがんだままこちらにお礼を言ってくる。
そんなヨハネス神父様にティアナは疑問をぶつける。
「でも驚きました、ヨハネス神父様がこんな所にいるなんて。」
「そうですか?私はジュリ教の神父、ここにいるのは当然ですが?」
ヨハネス神父様がジュリ教!?
あたしとティアナは驚く!
「まさかヨハネス神父様がジュリ教の方だったなんて!」
「意外でしたかな?私は本来別の目的で来たのですがね。こんなの見せられたら助けるしかないでは無いですか、一応同胞なのですから。」
ん?
ちょっと待て、ヨハネス神父様はユエナの街から来たわよね・・・
そしてジュリ教の神父様?
「ヨハネス神父様、まさかあなたは・・・」
「エルハイミさん、ここにはケガ人がいます。外へ出ませんか?」
そう言ってヨハネス神父様は先に立って歩き出し、外に出る。
「エルハイミ?」
あたしはヨハネス神父様について外へ出る。
「どういうおつもりですの、自分の仲間であるはずのジュリ教を攻撃するなんて・・・」
「いえね、私は止めたんですよ、腐ってもお仲間。共に女神ジュリ様をあがめるのですから。ただ、ここは協力的では無かった。」
あたしは手に汗を握っていた。
シコちゃんやアイミを置いてきたのは失敗だった。
「エルハイミどうしたの?それにヨハネス神父様も??」
「ティアナ、離れてくださいですわ!ヨハネス神父はジュメルですわ!!」
「えっ!?」
ティアナは驚きあたしのそばに寄る。
「私たちのこの格好を見て先にそれを疑問に思わないなんておかしいですもの。いくら治療が優先とは言え先にそれが気になるはずですわ。それなのに気にも留めなかった。もともと私たちが誰だか知っていたのですわね!?」
「ええ、そうですね、天秤の女神アガシタに祝福されたティアナ姫に『雷龍の魔女』エルハイミさん、でも会うまではまさかこんな可愛らしいお嬢さん方とは思いもしませんでしたよ。」
普通に世間話をするかのようにヨハネス神父は手を後ろに回してうんうんと首を縦に振りながら目を閉じている。
あたしは頬に一筋の汗を流しながら周りを目だけで見る。
いま融合怪人たちに襲われたら逃げ切れるかどうか。
「そんなに身構えなくてもいいですよ、今日は仲間の治療を目的で来ただけでこれ以上皆さんに何かするつもりはありませんから。」
あの優しい笑顔だった顔は鋭い眼光を放つ戦士の目になっていた。
「そんな、ヨハネス神父様がジュメルだなんて!?」
「意外ですか?ティアナ姫。可愛らしいお姫様なのにユエナではマシンドールで大活躍でしたね?流石にあそこをつぶされたのは痛かった。ですので私の仲間が行った事はガレントの失態とさせていただきますよ。」
どういうつもりだ?
ガレントの失態って何なのよ??
「エルハイミさん、疑いがかかっていてもこのジュリ教は白ですよ。しかしそこを守れなかったガレントはジュリ教を見捨てた国。その事実は他の国がどう思うでしょうかね?」
なっ!?
ガレントに国教はない。
だから国の政策に反しないのであればこの国で神殿を築くことも宗教勧誘することも認められている。
いわば自国の国民と同じ。
しかし疑いがかかってるとは言えそのうちのジュリ教だけを迫害しているとなれば・・・
「世界はどう見るでしょうね?」
まるであたしの考えを読み取っているかのようにヨハネス神父は静かに言う。
もしこれが世界各国に知れ渡ればまっとうなジュリ教でさえ文句を言ってくるだろう。
しかしそれがまっとうなジュリ教かそうでないかはガレントでは判断なんてできない。
結果ガレントは完全にすべてのジュリ教を敵に回してしまう。
そしてジュリ教を国教とするホリゾン帝国も。
「大使館の襲撃で連合とやらを組もうとしているのを阻害するのは出来ませんでしたが、ホリゾン帝国がジュリ教を保護する為の大義名分は出来ました。これで他の国は手が出せませんものね。あなたたちのマシンドールは非常に優秀だった。そして非常に参考になりました。全く同じものはできませんでしたが似たような双備型魔晶石核も作れるようになりましたよ。」
ヨハネス神父はまるで説法を解くかのような朗らかな物言いだった。
「そんな事させない!ヨハネス神父、あなたを捕まえます!!」
そう言ってティアナは【拘束魔法】バインドの光る綱を出してヨハネス神父に投げつける。
しかしその魔法はヨハネス神父に触れる寸前にはじかれてしまった。
そしてヨハネス神父は右手を上げる。
そこにはいくつもの指輪が有ったがそのうちの一つが輝いている。
「流石に古代魔法王国のアイテム。普通の魔法程度では全く歯が立たない。」
くっ!
あたしは【電撃魔法】を放つ!
しかしティアナと同じでヨハネス神父に触れる寸前にかき消される。
「本当に惜しい人材だ。無詠唱の上これほどまでの強力な魔法が使えるとは。ホリゾン帝国全てを探してもこれほどの使い手はいませんよ!」
嬉しそうに言うヨハネス神父。
そして両手を広げて信じられないことを言う。
「あなたたちに聞きます。ジュメルへ来ませんか?ともに女神ジュリ様の言葉を聞きこの腐った世界を破壊しつくし再生させようではありませんか!!」
「なっ!冗談じゃない!ジュメルなんかに行くわけないでしょう!!」
「本当ですわ、ジュメルに行くなんてごめんですわ!」
即答するあたしたち。
しかし予想していたかのようにヨハネス神父は笑い出す。
「ふふふっ、やはりそうですよね、異端児に我らが志を理解などできませんよね。失敬、失敬。」
このっ!
人を馬鹿にして!!
あたしたちはさらに魔法を発動させようとしたその時である!
「おーっほっほっほっほっ!小娘ども、これ以上ヨハネス様に手は出させませんわよ!!」
そう言ってジェリーンが空から舞い降りてきた。
見るとあの蝙蝠の融合怪人が飛んでいた。
「ヨハネス様、お迎えに上がりましたわ。ささ、私に抱き着いてくださいまし。」
うっとりとした表情でジェリーンはそう言う。
「ジェリーンさん、人前ですよ。少しは控えないと。」
ヨハネス神父はそう言いながらもジェリーンを後ろから抱きしめるようにする。
「なっ!?」
思わずそれにあたしやティアナがほほを赤らめさせる。
なんつーいやらしい抱き着きなんだろう!!
「あん、ヨハネスさまぁ。ふふっ、小娘どもには少し早いですかしら?まあいいですわ、今日の所はこれで引いてあげますわ、それではごきげんよう!」
そう言って懐から輝く魔晶石を取り出す。
そして力ある言葉を発する。
「【帰還魔法】!」
「あっ!このっ!!」
ティアナがもう一度【拘束魔法】を放つがそれが届く前に二人の姿は一瞬の光の中に消えてしまった。
あたしは空を見るが既に蝙蝠の融合怪人はいなくなっている。
完全に逃げられた!
いや、今回はこちらが見逃してもらえたか?
二人の消えた場所をあたしとティアナは無言で睨み付けるのであった。
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