第173話7-11ティアナ成人

 7-11ティアナ成人



 ティアナ十五歳の誕生日は成人となる日でもあった。

 この世界では十五歳で成人となる。

 なのでティアナも今日から立派な大人の仲間入りである。


 「ティアナとてもきれいですわ!」


 「ありがとう、エルハイミ。そろそろ時間ね、行きましょう。」


 あたしとティアナは控室で準備をしていた。


 ティアナは髪の毛と同じ真っ赤なドレスに所々黒を入れたものでシックな大人の雰囲気を醸し出している。

 髪の毛は今回は結い上げていて髪飾りが豪勢にちりばめられている。

 毎晩努力した甲斐もあり胸元にはしっかりと谷間が出来ている。

 そしてアコード様にもらった「身代わりの首飾り」がその谷間に収まっている。

 流石にアテンザ様にはかなわないが立派に育ったそれは夜にはあたしの顔をはさめる位にはなっていた。


 でもまだだ!

 目指せアテンザ様!!

 あたしはぐっとこぶしを握る。


 そんなあたしは今晩はドレスではなく魔術師の格好をしている。

 宮廷魔術師とは違うちょっと華々しい魔術師のかっこう。

 白をメインに所々を金の刺しゅうで飾ったそれは切れ込みの深いスカートで太ももがチラ見できる。

 かろうじて寄せて上げれば谷間が出来る胸元も大胆にカットが入っていて谷間の間につるされている魔術師らしいネックレスが映える。

 肩からはローブをデザインしたものを羽織って腰にはシコちゃんを備え付けている。

 長い自慢の金髪は今回は高く結い上げ、頭上でまとめてもらった。


 ティアナの横に無詠唱の使い手有りと言うのが今回のアプローチ。

 更にシェルにもドレスを着こませ、ショーゴさんにも正装をさせる。

 アイミたちにはローブを羽織らせまさしくティアナの護衛団のように仕立てる。

 

 そんないで立ちであたしたちは会場へと向かう。



 * * *



 おおっーーっ!!!


 ティアナが会場に現れると所々から歓声が上がる。


 今回の主役登場である。


 

 「ティアナよ、おめでとう!さあ、こちらへ参れ!」


 国王陛下の呼びかけにティアナは軽くひざを折る挨拶をしてそちらに行く。

 あたしたちもその近くに行ってティアナの後ろに控える。


 「皆の者、本日は我が孫娘ティアナの成人誕生会に参席してもらい感謝する。既に知っての通りティアナには北の砦、今はティナの町を治める任を与えており我がガレントの北方防衛拠点として尽力してもらっておる。今宵はティアナを祝して大いに楽しむがよい!」


 上機嫌な国王陛下はそう言って祝辞の言葉をかけながら乾杯をする。

 わぁーっ!した歓声とともに祝いの言葉が飛び交いながら会場も乾杯を始める。

 

 そしてティアナの下へ次々と貴族たちが賛辞の挨拶に訪れる。

 

 と、あたしの肩を叩く人がいた。

 見るとママンがそこに立っていた。


 「あらあらあら~、エルハイミもきれいに着飾っていて驚いたわぁ~。うん、その魔法使いの衣装も似合っているわねぇ~。」


 「姉さま、お久しぶりです!」

 

 「姉さま、今晩わぁ~!」


 バティックとカルロスも来ていた。


 「ようこそですわ。お母様にバティック、カルロス。二人はだいぶ背が伸びましたわね?」


 確か八つになる二人は前回会った時よりぐんと身長が伸びていた。

 みんな元気そうで何よりだ。

 と、パパンの姿が見えない。


 「お母様、お父様は?」

 

 「あらあらあら~、お父様はアコード様と何かお話が有るとかで今は席を外しているわぁ~。早くティアナちゃんを祝ってあげたいのにねぇ~。早く戻ってこないかしらぁ?」


 アコード様とお話?

 何だろうね?


 「あら、あなたたちも来ていたの?元気そうで何よりね!」


 「あ、どーも、お久しぶりですシェルさん。」

 

 「エルフのおねーさん、今晩わぁ!」


 シェルもうちの弟たちに気付いたようだ。

 そしてショーゴさんも。


 「先生もお久しぶりです。」

 

 「こんばんわー、先生!」


 「おお、二人とも元気にしていたか?鍛錬は毎日欠かさずやっているか?」


 「「はい、やってます!」」


 バティックとカルロスは元気に声をそろえてショーゴさんに答える。

 前に実家に戻った時からショーゴさんに鍛えられているようだ。

 いつの間にかショーゴさんが先生呼ばわれされてるし。


 そんなほほえましい光景を見ながらあたしはティアナをチラ見する。

 既にティアナの前には行列が出来ており貴族たちや諸外国の貴賓、大使館の人たちが並んでいる。

 あれをさばかなきゃならないんだからティアナもご苦労様である。


 と、ロクドナルさんがやってきた。

 勿論サージ君を引き連れて。


 「これはエルハイミ殿、お久しぶりですな。殿下に祝辞を述べようと思ったのですがこの行列ではすぐにはいかない、しばし待ってから行きますかな。」


 「お久しぶりですわ、ロクドナルさん。サージ君もご無沙汰ですわ。と、所でサージ君、その後進展はいかがですの!?」


 昨日の事も有りあたしはちょっと興奮気味にサージ君に突っ込みを入れる。

 鼻息荒いあたしにサージ君は少し引きながら答える。


 「し、進展も何も僕はロクドナル様にお仕えするだけですよ。今は使用人としてではなく補佐役として色々とお仕えしてます。エルハイミさん、何を期待しているんですか!?」


 ちょっと顔を赤らめてあたしが聞きたいことを理解している様子。

 ロクドナルさんは相変わらず訳が分からないような顔をしているのでやっぱりダメか。

 これは後でティアナたちに報告しなきゃだね。


 そんな事を思っていたらパパンが現れた。

 しかしパパンの傍らにはアンナさんと共に驚く人物が一緒にいた。


 「師匠!?」


 「久しぶりですね、エルハイミ。達者のようで何よりです。」


 師匠はいつもの服装ではなくなんと和服に身を包んでいた。

 華やかなそれは異国情緒をふんだんに放ちこの会場のごてごてとして華やかなドレスとは一線を越えたシンプルさの中に絵柄や上質な素材を使った良さを引き出し皆の注目を浴びている。


 「師匠が来るなんて驚きですわ。ティアナもきっと喜びますわ!」


 「ふふっ、エルハイミちゃんも驚くなら、殿下にもサプライズになりますね。頑張った甲斐が有ります。」


 アンナさんはそう言っていたずらが成功した子供のように笑った。


 「エルハイミもすっかり殿下の魔術師だな。さて私もそろそろ並ばなくてはだ。それでだな、後で英雄ユカ・コバヤシとアコード様が二人に話したいことが有るそうだ。明日にも時間を取ってもらえるように殿下に話しておいてくれ。」


 パパンは最後の方は小声で話しかけてくる。

 師匠も絡んでと言う事はジュメルについて何かあったのかな?

 あたしは小声で「はい」とだけ言った。

 それを聞いたパパンはそのままここを離れ行列に加わった。


 「あらあらあら~、師匠では無いですかぁ~大変ご無沙汰しておりますぅ~。」


 と、パパンを見送ったその後にママンがやってきた。


 「ユリシアですか。久しぶりですね?元気そうで何よりです。」


 師匠は日本風にママンにお辞儀をする。

 この世界でも頭を下げる行為は挨拶だと認識されているのでママンも師匠に合わせてお辞儀する。


 「ユリシアももう立派な母親ですね。そちらの男の子は?」


 ママンの後ろに控えていたバティックとカルロスを師匠は見る。


 「あらあらあら~、これは失礼しました、エルハイミの弟になりますバティックとカルロスですわぁ。双子の兄妹ですの~。二人とも、ご挨拶して。」


 「は、初めましてバティック=ルド・シーナ・ハミルトンです。」


 「カルロスです~。」


 師匠は口元に笑みを浮かべる。


 「初めまして、学園都市ボヘーミャの学園長をしているユカ・コバヤシと言います。」


 そう言ってママンに挨拶した時を同じようにお辞儀をする。

 慌ててバティックやカルロスも同じようにお辞儀をする。


 うん、よく頑張りました。

 後でお姉ちゃんが褒めてあげましょう。


 そんな事をやっている間にティアナの前に行列もだいぶ少なくなってきた。

 ロクドナルさんや師匠はその列に並び始める。

 あたしはそのままティアナの後ろに控える。


 「エルハイミ、いつまでここに居なきゃならないのよ。あんなにおいしそうなごちそうが有るのに!」


 シェルがにこやかな表情を作っているが今にもお腹が鳴りそうだと悲鳴を上げていた。

 

 「もう少し我慢なさい、あたしたちはティアナの従者と言う立場なのですから、マリアでは無いのですからもう少し我慢するのですわ。」


 ううぅ~と他の人には聞こえない様にシェルは唸った。


 「これも王族やそれにかかわる者の務めよ、もう少しの辛抱だ。」


 いきなり後ろからかけられた声に振り向けばアコード様が立っていた。

 そしてその傍らには遠目で何度か見た事のあるエスティマ様が一緒に立っていた。

 身長も高く少し華奢な感じがするもティアナ同様の真っ赤な髪の毛のおかげで精悍に見える。

 甘いマスクはロクドナルさんの厳つい感じと真逆で女性受けしそうだ。


 「エルハイミ殿、お久しぶりですね。最後に会ったのはティアナの十歳の誕生日ですか?お美しくなられた。」

 

 そう言ってエスティマ様はあたしの手を取って口づけする。


 「お久しぶりですわ、エスティマ様。ご健勝のようで何よりですわ。」


 あたしはそう言って宮廷式の挨拶で返礼する。

 エスティマ様はにっこりとされてダンスが始まったら一番でお願いしますよ等と言ってくる。


 若い貴婦人たちには大人気、みんなのジャニーズアイドルエスティマ様。

 そんな方に一番最初にダンスに誘われるとは思いもしなかったけど、断るわけにもいかず「ええ」とだけ言っておく。


 多分普通の女の子ならこれだけでいちころなんだろうなぁ。

 残念ながらあたしには少しもピンとこないんだけどね。


 そもそも生前のあたしはこう言ったちゃらちゃらしたジャニーズが大嫌いで、数人いるグループなんて誰が誰だか見分けがつかないくらい関心がない。

 なのでこちらの世界でも全くとしてトキメクことなんてない。


 むしろティアナやアンナさん、胸だけはあこがれるアテンザ様なんかの方が・・・ぐふふふふっ!


 「又なんかいやらしいこと考えてない?エロハイミ!?」


 シェルにくぎを刺される。

 おっと、まずい、まずい。

 慌てておすましに戻りティアナの従者に徹しよとしたその時である。



 いきなりこの空間に光が集まる。

 そしてあのメイド姿のライム様が虚空から姿を現す。


 会場はいきなりの事に大騒ぎになる。

 そして人々が見守る中姿を現したライム様は静かに床に降り立った。


 年のころ十六、七歳くらい、ピンクのつややかな長い髪に美しい顔立ち。

 普通のメイド服と違い短かなスカートからは絶対領域の太ももがチラ見している。

 生前のアキバ系メイド服と言えばわかるだろうか?

 そんな少女がいきなり現れるのだからみんな驚く。



 「マザーライム様!!」


 「おお、マザーがお越しになられたか!」


 アコード様や国王陛下は既に事情を知っているので特には驚かないが、前から気になっていたそのマザーって何!?


 「あの方がマザーと謳われる始祖母ライム様か!?」


 はい、ご説明ありがとうございます、エスティマ様!

 そうか、呼び方に困ってマザーか。


 どうもその辺はアコード様が関わっていそうだ。

 流石に「お母様(ぽっ)」ではいかないでしょう。



 ライム様はふわりとした感じで完全に着地してからゆっくりと瞳を開ける。

 そして良く通るカナリヤのような声で宣言する。


 「ティアナ=ルド・シーナ・ガレントよ、天秤の女神アガシタ様の代行人として始祖母ライムがそなたの成人祝福する。」


 そのライム様の言葉にここにいる人々が驚きの声を上げる。

 そりゃそうだ、いきなり女神様の名前出されてあれだけ派手な登場するわけだし、国王陛下や王子たちは既に知っているご様子。

 ご丁寧に「マザー」とまで呼ばれれば誰だって驚くでしょう。


 「ティアナよ、アガシタ様からの祝いの品だ、受け取るがよい。」

 

 そう言ってライム様はティアナに手をかざす。

 するとティアナの左手の手首が輝き始め黄金に輝く腕輪が現れた。



 「『願いの腕輪』だ。そなたが本当に願う事が一度だけ叶う神器だ。受け取るがいい。」



 ティアナは驚きながらその腕輪をさする。

 そして膝を落とし頭を下げライム様にお礼を言う。


 「始祖母ライム様、このような貴重な贈り物いただき感謝申し上げます。天秤の女神アガシタ様に栄光あれ!!」


 とたんに周りから歓声が上がる!

 女神アガシタ様に祝福されるティアナ姫。

 その事実はまさしくこのガレント王国に女神の祝福がされたと同じ。

 あたしはその様子を眺める。


 ・・・あの大臣?

 みんなが喜びを表しているのにあの大臣だけなんか苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 確かあの人は・・・

 思い出しあたしはアマデウス伯爵を探す。

 アマデウス伯爵はみんなと同じく笑顔でティアナを祝福している。

 と言う事は・・・

 注意深く他の人の顔も見ているとライム様がやってくる。

 そしていきなり人の頭の中に話しかけてくる!?


 『おわった~、さあ、飲むわよぉ!!エルハミも付き合いなさい!シコちゃんもいるのでしょう!?アコード、準備は良いかしら?』


 「はっ、マザー勿論であります!」


 『ティアナは忙しそうだから、あなたたちはこっちに付き合いなさい!アガシタ様の所で大変だったんだから!』


 『ライム、あんた良くアガシタ様に折檻されないで戻れたわね?』

 

 『いやいや、危なかったのよ~。でもアンナのおかげでジュメルの目的も見えてきたし、ティアナの祝賀会に出席しなきゃならないってアガシタ様説得したら贈り物届けて来いって言われてねぇ~。いや~助かった。それよりこんなに豪勢にやっているんだから美味しいお酒あるでしょうね??』


 勝手に人の頭の中に話し声が聞こえてくるので聞かないふりもできない。

 

 「ちょ、ちょっとライム様ぁ~??」


 無理やり連れていかれるあたしだけどその細腕からは考えられない強い力で引っ張られていく。


 「ティアナはあたしたちに任せて行ってらっしゃい!そろそろご飯食べてもいいわよね!?」


 薄情なシェルはそう言ってあたしを見捨てる。


 「う、裏切り者ぉ~!!」




 あたしの消え入る声を後に会場は遠のいていくのだった。 

 

 

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