第174話7-12祭りの後

 7-12祭りの後



 昨日は散々だった。

 今は死屍累々でこの部屋でライム様やアコード様、いつ間にか来ていた国王陛下やエスティマ様たちガレントにつながる人が中心に酒瓶抱えたまま寝ている。


 大丈夫かこの王家??


 あたしは一応【浄化】の魔法をかけてここを離れる。

 結局逃げられなくてこんな時間になってしまった。

 外を見ればそろそろ日が昇ってくるだろう、うっすらと明るくなり始めていた。



 「ティアナはどうしたのでしょうかしら?」



 独り言を言ってティアナの部屋に行く。

 

 『シェルが面倒見たみたいよ。エルハイミにも念話入れていたみたいだけど貴女酔っ払っていて聞こえてなかったでしょ?』


 シコちゃんに言われてあたしは昨日の事を必死に思い出す。

 確かライム様に無理やり飲まされたお酒に酔っぱらって意識がもうろうとしたところにエスティマ様が来て・・・・


 なんか手厚く介護されたような?


 その後消え入りそうな意識の中でも何とかシコちゃんに頼んで【状態回復魔法】で頭をすっきりさせてもらった時にはすでにさっきの状態。



 あたしほとんど徹夜じゃん!!!



 こめかみに指をあてて軽く押す。

 魔法のおかげで酔いも眠気も無い。

 疲れは分からないけどすっきりとはしている。

 まだ完全に夜明けまでは時間もある。



 ・・・

 ティアナ、待ってってね!!

 すぐ行くわ!!



 あたしはにこにこしながらティアナの部屋に行く。

 王族のエリアも既に顔パスなので衛兵ににっこりと挨拶してからティアナの部屋に入る。


 そして休んでいるティアナに襲いかかろうと思っていたら・・・



 あれ??

 ここにも死屍累々が有るぅ??


 

 見ればティアナを中心に師匠やアンナさん、アテンザ様やシェルにママンまで!?



 何この女の園は!?



 しかもみんな酒瓶抱えて眠っている・・・


 あたしは仕方なく【浄化魔法】をかけてからみんなに毛布を掛けて部屋を出る。

 頭がすっきりしすぎて一緒に眠る気にならなかったのだ。



 仕方なくふらふらと中庭の方に行く。


 そろそろ日も登ってくるだろうし、しばらくここでぼぉ~っとするのも悪くない。

 そう考えて中庭に来たら意外な人物がいた。



 「エスティマ様ですの?」



 声をかけられた人物、ティアナの兄でジャニーズなエスティマ様。

 どうしたんだろうこんなに朝早く?


 「エルハイミ殿、こちらにおいででしたか!気付いたらいなくなっていたので心配しました。」


 あたしはエスティマ様の所まで行く。

 結構飲まされていたはずなのにケロッとしているのはアコード様の遺伝かな?


 「昨日はマザーライム様にエルハイミ殿が連れられて行ってダンスのお相手をしてもらえませんでしたからね。残念でした。」


 そう言ってあたしの手に口づけする。

 まあ、あれじゃあ誰も文句言えないだろうし仕方ないよねぇ~。


 「ごめんなさいですわ、ライム様には逆らえませんもの。」


 そう言って一応あやまっておく。

 不可抗力でも約束をたがえたのは事実だから。

 するとエスティマ様はさわやかに笑って「かまいませんよ」と言った。



 なんとなくその辺を二人で歩く。

 中庭にはきれいな花が咲いていた。

 それを見ながらゆっくりと歩く。


 「エルハイミ殿はティアナに忠誠を誓っていると聞きました。しかしそれは忠義の事でありましょう?」


 隣を歩くエスティマ様はそんなことを言い始めた。

 忠義と言えば忠義だけど今はそんなものでは済まない。

 ティアナはあたしの全てで命より大切な人。

 

 「忠義だけではありませんわ。私の全てはティアナのモノなのですわ。」


 あたしのきっぱりとした答えにエスティマ様は驚きあたしを見る。


 そして真顔であたしをじっと見つめる。



 何だろね?

 あたしもエスティマ様を見る。

 ゆうに頭二つは違う身長だけど覗き込まれるような威圧感は無い。



 「父上やハミルトン伯爵から話が有りましたが、僕自身も興味が出てきました。エルハイミ殿、僕はもっと君が知りたい。」



 はいっ!?

 それはどういう意味でしょうかっ!?

 父上やハミルトン伯爵って、パパンっ!どういう事よ!!?



 「あの、それってどういうことですの?」


 「結婚を前提にお付き合いしてほしいのです!!」


 右手を胸に真剣なまなざしでそう言い切るエスティマ様!?



 ちょっと待て、あたしまだ十三歳だよ?

 エスティマ様って確か十八歳だったわよね?

 ロ、ロリコン!!?

 ってわけでもないだろうけど、こんな小娘に興味を持つなんて!!?



 「あの、お気持ちはうれしいのですが、私はティアナのモノですわ。殿方にその様な事を言われても困りますわ。」


 ここは変に期待を持たせずしっかりとあとくされ無いようにしておかねばややこしくなる!


 「それでも僕は君に興味を持った!君の気持ちが変わるまでずっと待っている!」


 エスティマ様はあたしの両手を取り強く握る。


 普通の女の子ならこれで落ちるけど、あたしは違う。

 あー、どうしたら諦めてくれるかな?



 「あ”あ”ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



 悲鳴に近い声が聞こえそちらを見るとなんとティアナが立っていた。


 「ティアナ!」


 嬉しそうにするあたしだがティアナはお冠だ。

 ずかずかとこちらに歩いてきて強引にあたしの手をエスティマ様からもぎ取りあたしを抱き寄せる。


 「お兄様!あたしのエルハイミに何手を出しているんですか!!エルハイミはあたしのモノです!!誰にも渡しません!!」



 うあっ!

 男前っ!!

 思わずキュンとなっちゃうぅ!!



 あたしはぽっと頬を染めてティアナに抱きしめられる。


 「ティアナ、そうはいってもお前たちは女どうしだ。僕は本気でエルハイミ殿に興味を持った。すぐにとは言わないが彼女と結婚を前提に付き合いたいんだ。」


 「な”っ!!!??ダメに決まっているでしょう!!!!エルハイミはあたしのなんだからね!!兄さまにはあげません!!!」


 思わず地が出るティアナ。

 

 『モテモテね、エルハイミ。せっかくだからそのままお嫁に行っちゃえば?』


 他人事と思ってシコちゃんが軽口を言う。

 しかもこれはここにいる全員が聞き取れる。


 「シコちゃん!裏切る気!?」


 ティアナのその言葉にシコちゃんはしれっと言う。


 『だってエスティマってそのうち王様になる可能性が有るんだから正に玉の輿じゃない?』


 「駄目ったらダメ!エルハイミはあたしのモノよっ!!!」


 朝からティアナの声がこだまする。


   

 * * * * * 



 「うあー、二日酔いだぁ~。頭痛い。」


 シェルが情けない声を出している。

 ママンもアテンザ様もあまり良い表情はしていない。

 仕方なしにアンナさんが【状態回復魔法】をみんなにかける。


 「楽になったぁっ!」


 嬉しそうにしているシェル。

 他の人もだいぶ楽になったか表情が軽くなった。



 あたしたちは朝食を取りながら昨日の事を話す。

 あの後連れ去られたあたしにどうしようもなく宴もそこそこにティアナの部屋で二次会が始まったらしい。

 もともと重要な話は翌日すると言う事で世間話を始めていたらしいけどティアナの胸の急成長や「願いの腕輪」の事で盛り上がりお酒も入ったことでいろいろとあったらしい。

 あたしの方も何だかんだ言って同じような状態だったのだけどティアナたちも同じだったとは。



 あたしは朝食を取りながらぽつりと言う。


 「本当は私もそちらに行きたかったですわ。サージ君の事も話したかったのにですわ。」


 がたっ!


 サージ君のこと言ったら数名が反応した。


 「そ、それは聞き捨てならないわね、エルハイミどうなったのその後のサージは!?」

 

 ティアナがみんなを代表して聞いてくる。

 

 「残念ながらやはりロクドナルさんは朴念仁でしたわ。サージ君の一方的な思いの様ですわ。ただ、私が突っ込んだ質問をしても顔を赤らめさせるばかりで否定をしなかったので完全に私たちの思う通りですわ!!」


 きゃーっ!!


 みんな大好き男性同士のお話。

 黄色い声が上がる。


 「こ、これはやはりサージ君が受ける感じになるのでしょうか?」


 興奮気味のアンナさん。

 それに乗じてアテンザ様も自分の考えを言う。


 「い、いえ、ロクドナル卿は分かっていないから意外とサージが攻めるのではないかしら?」


 「それはそれでありかもしれないわね!!」


 「な、何その受けと攻めって!!?なに?なんなのヒュームのそれ気になるぅ!!!」


 『全く、こっちもこっちね。まあ分からなくはないけどいつの時代も女ってそういう話大好きよねぇ。』

 

 あきれているシコちゃんだけどこう言ったお話は女子の間ではご飯三杯モノである。

 わいわいきゃっきゃっしながら話をする。

 意外だったのがママンや師匠も嫌いではなかったと言う事かな?

 時代的な差異はあってっもどうやら共通の話題らしい。



 と、食事が終わってお茶を飲んでいると国王陛下から呼び出しだとか言って私室に呼ばれる。

 いよいよジュメルの話か。



 あたしたちは気分を一転して引き締め国王陛下の私室に向かうのであった。  


 

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