第154話6-26師匠の本
6-26師匠の本
ボヘーミャに戻ったあたしたちはアンナさんに呼ばれ開発棟にいた。
来てみればいつものメンバーに師匠まで来ていた。
「お集まりいただきありがとうございます。四連型魔晶石核のコントロールを確実にするために中心となるアイミと四連型の分離合体機構が完成しました。今回はそのお披露目となります!」
何時になく興奮気味のアンナさん。
そう言えばコツコツと寝もしないで何かしていたっけ?
だいぶ目の下にクマがはっきりと見えるアンナさんを心配しながらあたしたちはその成果を見せてもらう。
「それではご覧ください、これが新型四連型とアイミです!!」
ぱちぱちぱち~!
拍手の中舞台上のカーテンが開かれる!
ざわっ!!
そこに現れたのは何と五体のマシンドールたち!?
真ん中にいるのはアイミ!?
「これはどういう事よ?アンナこのマシンドールたちは??」
ティアナは驚きを隠せず思わず質問する。
「殿下、これが四連型を更に安定させしかも強力に連携させる手段だったんです!」
アイミを赤とする残り四体は赤に黒が混じった色、青色、白色、そして焦げ茶色の四体。
基本はアイミと同じような格好だけど微妙に各機体違いがある。
「うあー、アイミがいっぱい!!」
マリアはぼりぼりとスナック菓子食いながらはしゃいでいる。
他の人もマシンドールが増えただけ?と言うような感じだったけど、アンナさんはそれも予想範疇のようだ、不敵な笑みをたたえている。
「アンナ、それでこのマシンドールたちを使ってどうするのです?」
師匠がみんなを代表して質問する。
「うふふふっ、各精霊の数だけマシンドールを個体分割しました。考えてもみれば連結は物理的にしなくてもエルハイミちゃんのおかげで可能になりましたからアイミと同格の魔結晶石を使った機関はマシンドール単体にしても何も問題ありません!もちろん寿命だって気にする必要がなくなりました!!」
えーと、アイミが五体になったのは確かに心強いけど肝心な共鳴作用とかは??
あたしの疑問顔を見てアンナさんはここぞとばかりに手を上げる。
「ではお見せしましょう!アイミ真の力を皆さんのお見せするのです!!ファイナ〇フュージョン承認!!」
するとなんとアイミたちは飛び上がり一瞬Ⅴの字型に光る!!
どこからともなく「れーっつこ〇ばーいぃん!!」とか掛け声が聞こえてくる!?
空中の赤黒、青、白、焦げ茶のマシンドールたちが変形を始める!!
そしてアイミに赤黒と青が両肩から腕へ!
白と焦げ茶が腰から両足へ!!
胸部に四つの魔結晶石が集まりそれを全体に緑色のクリスタルがおおう!!
最後にアイミの頭に王冠のような飾りがつきもみあげも金属のじゃらじゃらしたものが伸び、背中から八つの後光のようなリフレクターっぽいものが生える!!
「完成!グランドアイミ!!」
アンナさんの声で空中で決めポーズをとるアイミ!!
背中から緑色の光る粒子を放出しながら空中でとどまっている。
ぴこっ!!
な、なんじゃそりゃぁああぁぁっ!!!?
あたしは生前テレビ番組で見ていたヒーローもののアニメを思い出していた!
「す、すごい、これが新しい力なのね!?」
え?
ティアナ??
「素晴らしいですな!まさしくマシンドールの完成形ですな!!」
「うむ、主よ俺にもああいうの付けてくれないか?」
「精霊でもないのに空飛ぶなんてずるい!」
「ほっほっほ、流石ですな。生きているうちにこのような素晴らしいものが拝めるとはな。」
「確かに魔結晶石の活動も見事だ!」
「すごい、高魔素粒子で飛行が可能とは!」
「せ、精霊が共鳴をすんなりとしている?すごいです!!」
みんな口々に賞賛をしてるけどほんとにすごいのかな??
あたしは同調して感知魔法やマナの流れを確認する。
すると確かに共鳴作用もマナの流れも安定性も抜群だ。
今は最低出力で稼働しているけどそれでもざっと見てアイミの通常の五十倍くらいの循環が行われている!?
「ふむ、これは確かにすごいです。してアンナこれの効能は?」
「はい師匠、まず共鳴のフルバーストをすれば半径約五キロメートルにいるマシンドールを完全把握、完全制御ができます。その折に魔力供給がなされマシンドールたちも性能が五倍近く引き上げられると予測されます。そしてスパイラル効果の安定性ですが、まだ研究段階ですがこちらからあちら側への送付が確実に行えることがわかりました。問題は何処へ送られるかですが、何度か試した状況ではその都度別の場所に送られているようです。師匠の目的の場所特定と送付の総重量調整が出来れば目的も達成できそうです!」
師匠はアンナさんの言葉を受けみんなを見渡す。
そして「そうですか。」とだけ言ってまた静かにグランドアイミを見る。
あたしは師匠の手が小刻みに小さく震えてるのに気付いた。
きっと表には出さないのだろうけどかなりうれしいんだろうな。
「以上アイミと四連型たちの分離合体機構の説明でした!」
アンナさんの締めの言葉にみんな拍手喝采だ。
空中で様子を見ていたアイミも地上に降りてきて分離してもとの五体に戻る。
ぴこぴこ!
どうやらすごいでしょう~!!と自慢しているようだ。
「いやはや、本当にすごかった。人生の最後にこれほどすごい魔道の成果が見られるのは一魔術師として幸運だったわい。これでこの開発もとうとう終わりじゃな。」
にっこり顔でゾックナスさんは言う。
「そうですな、いろいろと資料やデーターも取れました。私のライフワークである魔晶石の研究をもっと進めていきましょう。」
マース教授もほっとしたような表情だ。
「ほんと楽しかったですな。私もこれから魔術機構の研究を進めますかな。」
ジャストミン教授も最後に自分のノートに何か書き込んでいた。
「精霊がこうも多様性を持っていたのは新発見でした。私も更に精霊普及に力を入れていきましょう!皆さん課題の方もお願いしますよ!!」
相変わらず人任せだがソルミナ教授の助言は確かに助かった。
「師匠、私も何とか一人であるならばゲートが使えるようになりました。スパイラル効果の研究については引き続きこちらのボヘーミャで行いたいと思います。どうか許可をいただき研究室の確保をお願いしたいのですが。」
アンナさんのそのお願いに師匠はふっと笑って言う。
「いいでしょう、アンナたちの卒業後も引き続き研究を許可します。これにて魔晶石、魔結晶石に関する精霊の開発研究を終了します。皆さん今までご苦労様でした。」
最後にみんなは大きな拍手をする。
ちょっと寂しいけどこの開発と研究は大きな成果をもたらした。
ほとんどガレントの要望と防衛の為のモノだったがその研究成果は今後このボヘーミャででも十分に活用されていくだろう。
あたしたちは少し後ろ髪惹かれる気持ちだったがこの開発研究を解散して開発棟を後にするのだった。
* * * * * *
「しかし師匠がいた元の世界の特定ですが、わずかでもその出先からの返信が無いと確認が出来ませんね。」
アンナさんは師匠に出してもらったお茶を飲んでからそう言う。
あたしたちは今師匠の私室にいる。
流石にあの場で師匠が元の世界に戻るなんて言い出したら大騒ぎになる。
英雄ユカ・コバヤシで魔法学園都市ボヘーミャの学園長と言う立場はそれほど大きな意味がある。
「それについてはおいおい研究を行ってください。私には時間だけは沢山あります。それにもし帰れるとしてもいろいろと準備が必要になりますからね。」
そう言って師匠はお茶をすすった。
「ありがとうございます、師匠。」
アンナさんはそう言って席を立つ。
あたしもアンナさんについて席を立ち退席しようとしたのだがティアナは座ったままだ。
「ティアナ?師匠にまだ何か用事でも?」
「あ、うん、ちょっと相談が有るの。先に戻っていてエルハイミ。」
ふーん、珍しいなティアナが師匠に相談なんて。
まあ、あたしたちはレポートの作成が有るからこれからソルミナ教授の所に行かなければならない。
あたしたちはその旨を伝えてこの場を後にしたのだった。
* * * * *
「ソルミナ教授、少しは手伝ってくださいですわ!!」
休憩と称してこの人はさっきから果実酒を飲んでいる。
「大丈夫ですよ~、皆さん優秀ですからぁ~!!」
酔いが回ってきているなこの人・・・
天気予報の魔道具は上手くいったようでその精度もまずまず。
自然に準じた精霊を使う魔道具はなかなかの働きをしてくれた。
他にも大地の栄養素や活性を確認する魔道具や水の安全度を測る魔道具などそこそこ使えそうなものが出来上がっていた。
これが農民を中心に人々の生活に溶け込んで更に精霊への理解度が上がればソルミナ教授の研究は大成功なるだろう。
いや、これって既にあたしたちの卒論になっているので成功させなきゃダメなんだけどね。
「全くソルミナ姉さんは相変わらずなんだから、そうだ!この低落をソルガ兄さんにメッセンジャーで送りつけてやろうかしら?」
シェルが意地悪くそう言う。
「シェ、シェル!!それは卑怯です!!それに風のメッセンジャーはそんなふうに使ってはいけないと教えられませんでいたか!?」
「事実は送ってもいいってファイナス長老には言われましたよ~だ。」
わいわいやっているけどこの研究もレポートも大詰め。
あたしたちはそんな光景を見ながらせっせと作業を進めるのだった。
* * * * *
「ほんと、どこ行ったのでしょうかしら?シェル、私はティナの部屋に行ってきます。あまりはしたないことしないようにですわ!」
「何言ってんのよ、毎晩お盛んなのはエロハイミの方でしょうが!ま、ほどほどにねぇ~。」
ぐっ!
確かに未だに毎晩ティアナには奉仕しているけど、それはアテンザ様のように豊かになってもらいたいあたしの願い!
アンナさんもすごいけどやっぱりティアナにああなってもらいたいよねぇ~。
あたしはひそかにウキウキしながら寝間着のキャミソールにカーデガンを羽織っていそいそとティアナの部屋に行く。
もしかしたらまだ帰ってきていないかもしれないけどティアナの布団でくるまって待っているもいいかもしれない。
ティアナの匂いってすごく安らぐもんねぇ~。
「しつれいしま~すぅですわぁ~」
そう言ってあたしはティアナの部屋に忍び込む。
この時間はラミラさんとサリーさんは気を使ってくれて席を外している。
あたしはいそいそと部屋に入って驚く!
ティアナが三つ指そろえて頭を下げて待っていた!!?
「お帰りなさいませ、お疲れさまでした。お食事にしますかそれともお風呂?それとも、わ・た・し!?」
はえっ!?
ティ、ティアナぁ???
「ティ、ティアナ、これは一体何事ですの!??」
「もう、エルハイミったら行けず!師匠がこうすればエルハイミが喜んでくれるって教えてくれたのよ!!」
な、なんですとぉっ!!?
確かに言われてみたいセリフの一つだけどいきなり師匠何教えてるんですか!!
「大丈夫、今晩は私がご奉仕しますわ♡」
そう言ってティアナはあたしをベットへ誘う。
え?
ええ??
ティアナ、ほんとにいいの!!?
あ、あたし大人の階段本当に上っちゃうの!!!?
ティアナにベットに押し倒されるあたし。
既に心臓の音はティアナにも聞き取れるくらい高鳴っているはず。
や、やばい、めちゃくちゃ緊張してきたし恥ずかしい!!
妖艶な笑みを浮かべるティアナはフェロモン絶賛放出中!!
最近大きくなった胸を震わせはだけた肩が色気を醸し出している。
あたしは思わずつばを飲み込む。
パパン、ママン、エルハイミは今日大人になります。
今まで育ててくれてありがとう!!
生前はチェリーボーイのままだったけどあたしもついに!!!
期待半分、不安半分でドキドキして待っているあたし・・・・
「あれ?」
ふとティアナが変な声出す?
「ど、どうしましたのティアナ?わ、私は心の準備できましてよ・・・」
覚悟して言うあたしにまたもやティアナは変な声出す。
「『はさんだりしゃぶって相手の気持ちを高ぶらせましょう』って書いてあったけどエルハイミにそんなものはないわよねぇ??」
「はい?」
「師匠に色々相談して最後に秘伝の書を渡され熟読しなさいと言われたのだけど、これって役に立たないんじゃないかしら??」
そう言ってティアナはある一冊の本をごそごそと引っ張り出す。
あたしはその本の表紙を見て絶句っする!
「夫婦円満の為密書」
あの本かいっ!!!
その昔嫁入り前なら売ってやるとか言われたあの本!!
まさか師匠が所有していたとは!!
しかもそれって普通の夫婦じゃないと使い物にならにならないんじゃないのっ!!?
一気に冷静に戻ってしまうあたし。
と、今まで香っていた好い香りも無くなってきた。
「あ、媚薬魔法の香油が切れたかな?ねえ、エルハイミこれからどうしよう??」
「・・・ティアナ、とりあえず今日は疲れたので寝ましょうですわ・・・」
ぱたっ
あたしは失意のどん底に涙を枕で濡らしてティアナと大人しく寝るのであった・・・・
ちっくしょうぅっ!!!!!
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