第155話6-27卒業論文

 6-27卒業論文



 「はい、ご苦労様でした!これでレポートは完成です。これで『魔術総合実演会』に提出する研究発表は間に合いました。」



 

 ソルミナ教授はにこにこ顔だった。

 そして手元の書類にすべてサインをする。


 「これでこの講習に参加していた人全員の卒業論文として登録認証しました。文句なく合格ですよ皆さん!」



 はぁぁぁああぁぁぁぁぁ~~~~~~



 あたしたちを含む他の数名のクラスの人も安堵の息を吐く。


 この学園では個人で卒論を書く必要はない。

 もちろん個人で書いてもいいのだが大抵は参加している研究のレポートを共同制作して提出し評価してもらう。


 教授たちはもともと自分の研究を基本とした講習が多いので使えるレポートは「魔術総合実演会」で研究発表の資料として使う。

 当然有用なものが多く、教授たちも非常に助かっている。



 「これでとうとう学園でやらなければならないことは全て終わったわね!」


 「そうですわね、師匠の事は引き続き研究が必要ですが私たちの課題としてのやらなければならない事は全て終わりましたわね。」


 「これで『魔演会』の『大魔導士杯』にもう一度出れれば言う事なしなんだけどなぁ。」



 ティアナは前に一度出場した「大魔導士杯」を思い出しているみたいだ。

 思えばあれがきっかけでいろいろ動きだしたようなものだった。



 「しかし殿下、私たちは出場禁止が生徒会から言い渡されていて出場は出来ませんよ?」


 先代の生徒会長ロザリナ=アインシュさんが「あなたたちが出場すると勝負になりません。一度優勝したのだからあとは後輩に譲ってください、今後出場禁止です!!あなたたちが出場すると賭けにもならない・・・」とか言って出禁のままだ。

 でも別のガレントの見習い宮廷魔術師たちは出場できるという事であたしたちは以降見学のみするようになった。


 「仕方ありませんわよ、ティアナ。その代わり最後の『魔演会』は大いに楽しみましょうですわ!」


 「そうね、ガレントに戻ったらいろいろと忙しいもんね。ゾナーの奴ちゃんとやっているかしら?」


 大使館のフィメールさんの話によるとあたしたちは卒業後ガレント王国に正式に就職が決まっている。


 基本的には無詠唱の使い手として国の防人的役割でゾナーが建築中の最北の砦に常駐し、そこを収めるのにティアナが就任することとなっている。

 もちろんあたしもティアナと一緒だがアンナさんやロクドナルさんは配属が別の所になるらしい。


 ロクドナルさんは軍中枢の魔法騎士の部隊に配属されるが、ここでもう一つの役割、剣聖として若い騎士たちの指導が待っている。


 アンナさんは宮廷魔術師としてドミンゴさんの後釜が確約されているようだが当面はボヘーミャと王城の行き来がメインとなる。

 まだまだ四連型のスパイラル効果の研究が残っているからだ。

 ゲートが使えるという事でガレント側は許可を出しているようだ。


 みんなそれぞれやらなければならない事が待っていた。



 「ところでソルミナ教授、風のメッセンジャーは私たちヒュームにも使えるのですの?」


 「うーん、どうでしょうか?風の精霊を扱える精霊使いなら可能かもしれませんが私たちエルフでも扱いは難しいのですよ。ほとんどファイナス長老からの一方的なメッセージで返信はファイナス長老の風の精霊が帰る時に載せて行ってもらう感じなので自分からメッセージを送るのはよほどの事が無いとしたくないのが本音ですね。」


 「え?でもシェルでさえ出来たのにですの?」


 「どういう意味よエルハイミ!?」



 ユグリアでこいつは呪文が大変だのなんだの言ってちゃんとソルミナ教授にメッセージを送っていた。


 

 「シェルは真面目にやりさえすれば優秀な精霊使いなんですよ?こんなんですが。」


 「ソルミナ姉さんまで!!一体みんなあたしの事どう思ってるのよ!!?」



 エロいエルフ、エロフとしか思ってません!

 とは言えないもんなぁ。


 

 そんなことを思っていたあたしだが、ふとあることを思いつく。


 「ソルミナ教授、そのメッセンジャーって魔晶石の融合体で固定間だけでも連絡のやり取りをなんとかなりませんの?」



 「「「あっ!」」」



 アンナさんやティアナもどうやらあたしの考えが理解できたようだ。

 もしこの風のメッセンジャーが魔道具開発で上手くいったとすれば離れた距離でも容易に連絡の取り合いが出来る。

 しかも精霊魔術師に負荷をかけることなく普通の人でも魔力さえあれば使える。


 精霊都市ユグリアと魔法学園都市ボヘーミャの間でもモノの数秒でやり取りが出来た。

 きっと他の所でもそれほど時間がかからずに連絡の取り合いが出来るのではないだろうか?


 「一般普及は難しいとしても重要な機関同士の連絡や国家間での連絡は容易にできる。伝書鳩などよりずっと早く正確に!エルハイミちゃん、これはすごい発想ですよ!!」


 「確かに、普通の魔晶石でなく上級魔晶石を使って魔道具を作れば可能かもしれません。費用的には掛かるのでそうそう簡単には一般化できませんがアンナさんの言うような所では有用です。」


 ソルミナ教授も唸っている。

 

 「エルハイミさん、早速この件をレポートにまとめてください!アンナさんはマース教授の所で魔晶石の確保を願います。ティアナさん魔道具錬成の手伝いを願います。私は学園長にお願いして予算確保をしてきます!」


 そう言ってソルミナ教授は急いで部屋を出て行った。



 「エルハイミ、これってもしかして・・・」


 「ううっ、何とか形にしないと『魔演会』が楽しめなくなりそうですわ!!」



 あああああっ!!


 

 あたしたちは頭を抱えながらもさっそく各々の役割を果たすために動き出す。

 何が何でも最後の「魔演会」はティアナと一緒に楽しむんだ!!


 あたしはそう思い早速そのレポートを書き始めるのだった。




 「ふむふむ、今度は通信手段の革新ですか?相変わらずあなたたちは面白い。」


 

 「あら?マリア、何か言いましたかしら?」


 「へっ?あたし??何も言っていないよ? って、あたし何してたんだっけ??ま、いいやティアナお菓子買ってよぉ!!!」


 そう言ってマリアはティアナの方へ飛んでいく。

 確かになんか言っていた様だったんだけど?



 ちょっと気にはなったけどあたしはもう一度レポートに向かい直すのであった。   

 


 

  

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