第150話6-22ホリゾン帝国

 6-22ホリゾン帝国



 ゾナーがティアナの配下になった事は両国にとって一大事となる。

 


 「しかしながら殿下、【束縛】ギアスによりホリゾン帝国はゾナー殿の殿下への従属は異議を唱える事は出来んでしょう。あちらにもゾナー殿から連絡が行っておりますし、これは周辺国も周知の事。そして国境のホリゾン側一部が殿下のモノになる事もそれに含まれますゆえ、この砦を攻めることはあちら側からの我がガレントへの宣戦布告と言う事になりましょう。そうなれば表立った大義名分も無く宣戦布告した国として周辺国からも非難が有りましょう。流石のホリゾン帝国も一度に複数国と事を構える愚は起こさんでしょうから。」


 いつの間にかここへ来ていたドミンゴさんはそう言って【拘束】ギアスの誓約書を机の上に広げる。


 「まあ、爺さんの悪知恵のおかげで大義名分とその正当性は示されたわけだな。」


 あたしたちはゾナーのその言葉にイラっとさせられる。

 



 実はこの話、二年以上前から進められていた。


 そう、ドミンゴさんとゾナーは帝都の異変に早くから気付いていたらしい。


 ゾナーは早く帝都から逃げ出すためにいろいろと画策をしていた。

 そしてうまく皇帝のひざ元から逃げ出したゾナーは帝都の将軍のもとで鍛えなおされるという名目でいろいろと動いていた。

 そんな中、国境付近に展開し始めたマシンドールについて調査、交渉の先鋒として名乗り出て今に至る。



 ドミンゴさんは事の重大さに気付いたが確たる証拠がないままゾナーを受けいることは出来なかった。

 しかし丁度あたしたちが来たのでゾナーと画策し【拘束】ギアスの話にまで取り付けたわけだ。



 「でもなんでドミンゴは教えてくれなかったのよ?そうすればこんなにいろいろと苦労しなかったのに。」


 「すみませぬ、殿下。これは儂の独断でして本国にも内密にしておったのです。少なからずとも殿下には危害をくわえぬとゾナー殿も約束してくれましたし、どちらにせよ双方とも時間が必要だったのです。ただ、まさかゾナー殿があんな勝負を持ち出すとは思いもよりませんでしたがな。」


 額の汗をハンカチで拭いながらこの宮廷魔術師は言う。


 結局この二人の思惑通りになったわけだが、ドミンゴさんの指示で北の砦も王都にはホリゾン側の新しい砦の動向は伏せられていたらしい。


 なので静かにそして確実にここゾナーの砦は勢力と力を増していったのだ。

 

 更に今日からもガレント側の最北の砦はゾナーの砦と結合する為に改築工事が始まった。

 朝からロックゴーレムたちがせっせと城壁つないだり、近隣の樹木伐採して町や畑の拡張なんかも始めている。

 もしこれが完成したらここはノルウェン王国や衛星都市コルニャを超える城塞都市が出来上がることになるだろう。


 それはまさしくガレントの最北特大防衛拠点となる。



 「主よ、だましたことはすまんと思っているが何せうちの皇帝陛下は十数年以上前からからどうもジュメルの輩に操られていたようなんだ。兄者たちも徐々に取り込まれていったようだしな。」



 悪びれた様子が全くないんだけど、ゾナーあんたどこまで知ってるのかな?


 あたしはティアナに変わって質問する。 


 「あなたのしでかしたことはティアナがもう不問にするというから私も何も言いませんが、ジュメルについて知っていることは話してもらいたいですわ。」


 あたしの睨めつけも涼しい顔で過ごしているけど、わざと頭の周りだけ魔力の放電をちらつかせたらゾナーは慌てて話を始めた。


 「そう怒るな、エルハイミ殿。あんたの噂はいろいろ聞いている。『無慈悲な鋼鉄の乙女を作りし魔女』とか『雷龍の魔女』とか最近ではかかわる女ならだれでも胸を大きくする『育乳の魔女』とかもあったな。」


 「ちょっと待てですわ!最後のは何なんですの!!?」


 「いや、かかわる女だけではなく機械人形の胸まで大きくしたって話じゃないか?俺にとってはまさしく脅威の魔女だがな。」



 マシンドールの胸なんかでかくした覚えは・・・・


 あ”!


 そう言えば双備型の搭載で・・・・


 でも、ティアナ以外にあたしがかかわった女性で胸が大きくなんてあったっけ!!?



 「マ、マシンドールは双備型搭載の為の設計変更の指示しただけですわ!大体私が関わったのってティアナだけですわよ!!?」


 「うん、それなんだが噂ではガレントの農村やファーナ信教を中心にそう言ったうわさが流れてるらしいぞ?」



 あうっ!!

 それってきっとファルさんのせいだ!!!

 当時ティアナとあたしの事すっごい疑ってたし、胸についての問題は知ってたはず。

 なんて噂流してくれてんのよ!!!



 「まあ、俺が知っているジュメルについてだが、全てでは無いだろうがジュリ教が関わっている可能性がある。ホリゾンではジュリ教信者が多いがジュリ教はルド王国でも新兵器などの開発にも携わっていたからな。」


 「それってまさかキメラの開発もしていたのですの?」

 

 やはりジュメルの拠点はルド王国に!?


 「キメラの開発は知らんが、フレッシュゴーレムをベースに融合ゴーレムの研究はしていたな。そう言えば数年前うちの試作一号機をそこのマシンドールが見事に撃破したんだろ?あれ以降ルド王国はゴーレム開発に精を出していたがガレントのマシンドールたちが出てきてその対策だけでてんやわんやしてたな。その頃からジュリ教はルド王国の開発から手を引いてたな。」


 そうすると見込みの無いルド王国以外に開発拠点を移した?


 「その後ジュメルの奴等はあの怪人を中心に黒づくめの男たちとホリゾンの軍重要拠点を襲撃するようになった。上層部では噂話でしかなかった黒の集団、秘密結社ジュメルの強襲に慌ててガレントにも情報提供を願いに行っていたはずだがな。」


 そう言えば各国で、ホリゾンでも黒の集団こと秘密結社ジュメルの被害が出ていたって聞いたな。

  

 「しかし驚いたことにそのジュメルを受け入れよと皇帝陛下が言い出したんだよ。そこで確信したのがホリゾン帝国は既にジュメルに乗っ取られていたんだって事をな。もともと父上もおかしな事をたまに言っていた事が有ったが流石に受け入れよとはありえんだろう?」


 そう言ったゾナーはどこか寂しそうな表情をする。


 「話は大体わかったわ。でもそうすると世界中に有るジュリ教がもしかしたら秘密結社ジュメルとつながっている可能性が出てきたわね。」


 ティアナのその言葉にここにいる一同は深いため息をつく。

 その推測が多分遠からず当たっている可能性が強いからだ。


 ガレントとボヘーミャにしかないはずの魔晶石核が怪人の核に使われたり各国で被害を出すほどの組織となればかなりの大きさになる。

 そしてジュリ教は各国に神殿を持っている。


 だがジュリ教だけでは無いだろう。


 ルド王国のように何らかの形で開発などでいろいろと入り込んでる可能性だってある。

 最悪ホリゾンのように少しずつ侵食して実はもう乗っ取りが終わっている国だってある可能性が出てきた。


 「とにかく今はこの事実を国王陛下や父上、エスティマ兄さまたちに知らせる必要があるわね。師匠にも話さなきゃならないしこちらも体制を取らないと下手したら後ろからやられる可能性だってあるわよね?」


 「殿下、本国や周辺国への通達につきましては儂がいたします。殿下はいったんボヘーミャにお戻りになられてこの事実を英雄ユカ・コバヤシにお伝え願いたいですな。あのお方は昔からこの世界の泰安を望んでおられる。世が乱れる事を一番嫌っておられるからこういたお話には協力いただけるはずですな?」


 「ええ、師匠ならきっと協力してくれるはずだわ。」


 あたしたちはうなずき、まずはこの事実を伝える作業に入る。

 そしてティアナはゾナーに命を下す。


 「ゾナー、あなたは引き続きこの拠点の拡大と万が一に備えなさい。こちらにもマシンドールを配備するよう手配もします。アテンザ姉さまやウェースド陛下にも協力を要請してガレント北方防衛線の確立を目指します。」


 「御意。主よ安心して任せてくれ。もとよりそのつもりだ。」


 「あたしたちは一旦ボヘーミャに戻るわ。ドミンゴ準備を。」


 ティアナが采配をしているとシコちゃんが話しかけてきた。


 『あんたら又厄介ごとばかりね?また眠りに入ってしまうかもしれないけど、こことガレント王城の転移魔法陣を作りましょう。そうすればボヘーミャにまでだって簡単に行き来出来るわ。』


 なんと!

 ゲートがガレントの王城にまでできる?

 

 「シコちゃん、そんなに簡単にゲートが出来ますの?」


 『このくらいの短距離ゲートならエルハイミの魔力を使えばできるわ。但ゲート作成は大魔法と同じだからもしかするとあたしも眠りに入ってしまうけどいいかしら?』


 「ボヘーミャからここまでガレント王城経由で一瞬で来れるなら願っても無いわ。エルハイミ、シコちゃんお願い!」


 ティアナのその一言で転移ゲートの作成は決まった。

 ただ、こちらにゲートを作ったら出口のゲートまでは通常移動してそこから異空間をつなげなければならない。



 

 あたしたちは急いでこちらにゲートの魔法陣を作ってガレント王城に戻るのであった。 


  


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