第149話6-21ゾナー

 6-21ゾナー



 「はっはっはっはっはっ!ティアナ姫、俺の負けだ!!約束通り俺はティアナ姫の下僕となろう!!そしてこの砦もあんたのモノだ!!俺に従う総勢四百人の部下とその家族、すべてあんたに捧げる!!」



 えーと、こいついきなり何言ってんだ?

 

 あたしとティアナは約束の時にこの場に挑んだが最初は徹底抗戦で抗うのではと身構えていた。



 

 昨日ガレント最北の砦についたあたしたちは目を疑った。

 国境の向こう側、ホリゾン帝国の領内に町が出来上がっていたのだ。

 しかも巧みに作られたその町は城壁に囲まれていて、まるでこのガレントの砦を守るかのように作られていた。


 翌日、二年前の交渉の場に向おうとしたあたしたちにアンナさん、ロクドナルさんは引き留めをしたがあたしたちはアイミを連れてその場に向かった。


 交渉の場には剣を大地に刺し、およそ二百人は下らないだろう兵士や騎士が片膝ついて控えていた。

 そしてあの変態王子、ゾナーが一人腕組みして黒い甲冑を着込んだままふんぞり返っていた。



 ゾナーはティアナを一瞥して先ほどのセリフ。

 一体どういうつもりだ?



 「ゾナー、あなた一体どういうつもり?確かにこの勝負あたしの勝ちよ。でもそれを何の不服も唱えずすんなり負けを認め、更にあなたの部下総勢四百名とその家族全てあたしの傘下につくってどういうこと?それにこの町は一体何?」


 ティアナは質問をしない訳にはいかない。

 これではまるで最初から負けを見越しティアナの傘下になる事を望んでいたようではないか?


 「俺は俺のやりたいようにすると言った、たとえそれが国を裏切ることとなってもだ。だが国を愛する気持ちはだれよりも強いつもりだ。ホリゾンは既に乗っ取られているんだよ、ジュメルにな!!」


 「なっ!!?どういう事よっ!!!」


 ゾナーの爆弾発言にあたしたちは驚きを隠せない。


 「父上も兄者たちも既にジュメルの輩に洗脳されている。我が国は既にあいつらの手中さ。俺はあんたの下僕になる。だが頼む、どうかこいつらを助けてやってくれ!ここにいる俺に従う連中は全て帝都や城から逃げてきた者だ。ここを最後の砦に俺たちはジュメルと戦うつもりだ。そう、洗脳されたホリゾン帝国とな!ティアナ姫よ遅かれ早かれ何らかの理由をつけてホリゾンはガレントに攻め込む。ここを防御の拠点にしてくれ!」


 そう言ってゾナーは片膝ついて大剣を地面から引き抜き両手でティアナに捧げる。


 それは騎士が主に従う誓いをするときと同じしぐさ。


 「ゾナー、あんた最初から・・・・」


 わなわなと震えるティアナ。



 ホリゾンがジュメルに侵略されていた?

 帝都や城から逃げてきた人々?

 二年の時間を使ってここに城壁の町と砦を作って防衛線を作り上げていた?

  

 そしてティアナを巻き込むことによってガレントがジュメルに支配されたホリゾンと戦わなければならない状況を作られた!?



 すべてこいつの企みだったというのか!?



 まだ年端のいかない少女の平常心を崩し、売り言葉に買い言葉で【束縛】ギアスまで持ち出しそれを決定づけさせた!!?



 やられた。



 あたしは呆然としてしまった。

 こいつがただのど変態じゃなかったなんて・・・



 「ゾナー、あんたそこまでして・・・」


 「王族のあんたならわかるだろう?草民に罪は無い。しかし王たるものが道を誤ればそれを正さねばならない。ガレントには力がある。父上や兄者を倒した暁にはあんたの下僕の俺が公王になりガレント王国への従属を希望する。ホリゾンはガレントにつく。始祖ガーベルのもとに戻るんだ!!」



 始祖ガーベル!



 確かにこの世界の国々の元となる都市群を作り上げたのは魔法王ガーベルだ。


 しかしあの変態ご先祖様のおかげで古代魔法王国自体が崩壊し、生き残った人々が自力で何とかここまで世界を作り上げたのだ。

 だから各国はもう魔法王ガーベルに縛られる必要はない。



 「ゾナー、あなたはティアナを巻き込んでおいてよくもぬけぬけと言えますわね!」



 あたしはふつふつと湧く怒りに思わず言ってしまった。


 よくもあたしのティアナを巻き込んだな!

 よくもガレントが戦をしなければならない条件をそろえたな!

 師匠が、みんなが平和を望んでいるというのに!!


 心の奥底から湧く初めてのこの感情があたしの体の周りに魔力の放電を放つ!

 


 こいつさえ、こいつさえいなければティアナは巻き込まれなくて済んだんだ!!!


  

 「エルハイミ!やめなさい!!!」


 ティアナの大声にあたしはハッと我に返る。

 そして魔力の放電を携えたままティアナを見る。


  

 「ティアナ?」



 見ると下を向いたティアナはふるふると震えていた。

 何かぶつぶつ言っている様だけどここからじゃ聞き取れない。


 「ひどい・・・」


 やっと聞き取れたティアナの言葉にあたしは思わず魔力の放電を止めティアナの元へ駆けつける。


 「ティアナ・・・」


 「ひどい!せっかく頑張ってここまで大きくしたのに測りもしないでどういうつもりよ!!わざわざ見えやすいようにビキニアーマーまで着込んでいるってのに!!そんな面倒な話の前にあたしたちの努力の結晶のこの胸を見なさいよ!!!」



 あ・・・・

 あの、ティアナぁ?



 ふんすか怒り始めたティアナは何処からかティーカップを取り出す!


 そしてアイミを呼び寄せて丸い輪に布がカーテンのように張られたものを取り出しその中に入る。

 ティアナがカーテンの中に入ったのを合図にアイミが後ろから灯り火をともす。

 するとティアナのシルエットだけが影となり布に映し出される。


 「よく見ていなさいよ!!」


 そう言って影のティアナはビキニアーマーの上を脱ぐ。

 そして努力の結晶の胸が影となって露わになる!!



 ちょぉとっ!!

 ティアナ、先端の突起まではっきり見えてるって!!!!



 焦るあたしにティアナの影はティーカップを胸にかぶせる!!

 するとティーカップにその胸は収まりきらず努力の成果を誇示する。


 「どうよ!!あたしたちの努力の結晶、見たかっ!!!!」


 ふんっ!と鼻息荒くティアナは胸を張る。


 

 いや、もう充分です、大きくなりましたよ、ティアナ・・・


 

 それを呆然と見ていたゾナーは脱力した笑いをした。


 「は、ははっ、はははははっ!!!流石ティアナ姫!俺の主にふさわしい!!ああ、ご立派だ!俺の完敗だ!!まったく、これで貧乳だったら本気で惚れてたかもしれないぞ!!はっはっはっはっはっ!!!」


 そう言ったゾナーは最後に大笑いをした。


 ビキニアーマーをつけなおしてカーテンから出てきたティアナはゾナーの前に出る。


 「ふんっ!まあいいわ、今日からあなたはあたしの下僕、ついでにそこにいる人たちもあたしが面倒見てあげるわ!!いい事必ずジュメルに支配されたホリゾンを取り戻すのよ!!」



 ティアナのその言葉に後ろに控えていた騎士や兵士は頭を地面近くにまで下げる。


 『はっ!主の仰せのままに!!』


 そしてゾナーももう一度ティアナに大剣を捧げる。

 

 「我が主よ、我が忠誠今ここに。」


 ティアナはその大剣を受け取りゾナーの双方の肩に刃をつけ、そして大剣をゾナーに渡す。


 「汝我が騎士となり我が命に従え!今よりゾナーは我が騎士とならん!!」


 ゾナーはうやうやしく剣を受け取りそして鞘に納める。


 こうしてホリゾン帝国が第三皇子ゾナー=ホリゾンはティアナの騎士となった。



 ホリゾンの砦や控えていた騎士、兵士たちからも歓声が起こる。

 ガレント側の砦からも歓声が沸き、ロクドナルさんやアンナさんたちもこちらに来る。


 みんながティアナの名を称え、そしてこれから起こるであろうホリゾンとの戦いに気合を入れる。 


 

 と、ティアナは近くに有った石の上に足を置く。

 

 「さてと、それじゃあ約束通りやってもらおうかしら?」


 ゾナーがギクッとする。

 

 「主よ、まさか本当に俺にさせるのか?」


 「当り前じゃない!約束したもの!!」


 「いや、しかしこれだけ盛り上がっているところにそれはだな・・・」


 「つべこべ言わない!さあ、あたしの靴をなめなさいっ!!!」



 【束縛】ギアスのせいで逃げるに逃げられないゾナー。

 やる時はやる女、ティアナにぶれは無かった!!


 せめてもの情けでここにいる騎士や兵士たちは涙を流しながらその姿を見なかったのはゾナーへのやさしさであったのだろう。




 あたしはティアナを巻き込まれたことは腹立たしいけどちょっとその怒りは収まったのだった。

 

   

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