第148話6-20ティアナの意地
6-20ティアナの意地
ソルミナ教授の課題であった精霊の一般普及化を促進するためにあたしたちは魔道具の作成に入っていた。
「それでこの魔晶石に水の下級精霊意を融合してですね、空気中の水分量を感知させ天気の変動を知らせるんです。」
魔晶石があたしたちの目の前に置かれている。
そしてソルミナ教授は水の下級精霊を呼び出している。
「えーと、それでこれを融合すればいいのですわね?」
「はい、お願いします。」
あたしはさっさと水の下級精霊魔晶石と融合させる。
そして出来上がった魔晶石をソルミナ教授に渡す。
ソルミナ教授はそれをランタンみたいなものに入れて固定してふたを閉める。
「これで完成です!さて、それではさっそく試してみましょう。天候はっと。」
ソルミナ教授はランタンに向かって手をかざす。
そして【未来天候】と呪文を唱える。
するとそれに連動して中の魔晶石が反応してランタンの中央にあるクリスタルを青く輝かせる。
「えーと、ああこれはもうじき雨が降りますね。五段階の一番青い所まで色が行ってますから夕立でも来るのでしょう?」
そう言って外を見るが雲一つ無い。
確かにもうじき夕刻だけど雨なんて降るの???
そんな事を思っていたら急に真っ黒い雲が空をおおい始めた!?
そしてバケツをひっくり返したような雨が降り始める!?
ぴかっ!
ごろごろっ!
どかーんっ!!
雷まで落ちてきた!?
「ソルミナ教授、これすごいですわね。ちゃんと近未来の天候予測が出来るなんて!」
あたしが驚いているとソルミナ教授はその薄い胸を張って自慢している。
「そうなんですよ、これならば農家の方も明日の天気に悩まされることなく農作業が出来るのです!
「あれ?さっきの【未来天候】ってほんのちょっとの未来予測だったんじゃ?」
ティアナの突込みにソルミナ教授はびくつく。
「ええと、それはこれからさらに未来が予測できるように調整をですねぇ・・・」
なんか脂汗もかき始めてる。
まさか・・・
「まだ明日までの未来予測までできないという事ですね?」
アンナさんに言われソルミナ教授は「いやぁ~」なんて言ってる。
「み、皆さん何かいい方法ないでしょうか!!?」
こっちに振ってきたよ、この教授!!
まさかと思っていたけど指名であたしたち呼びつけたのはこういう事か!?
「相変わらずねソルミナ姉さん。昔から上手く行かないとすぐ他の人に投げるのよね。」
シェルが突っ込みを入れる。
ソルミナ教授は慌てて否定する。
「そ、そんなことは今はありませんよぉ!ちゃんとみんなで対策を練るようにしてます!ね、皆さん?」
あたしを含むみんなはうーん、とか言っている。
そう言えばなんか有った時にソルミナ教授って自分でちゃんと最後まで処理していたっけ??
なんとなくみんながジト目になる。
「やっぱりか。ソルミナ姉さん、風の妖精も使って近郊の空気中の水分量も調べれば雲の動きも分かるからもっと先の未来予想もできるんじゃない?エルハイミに風の精霊の魔晶石融合やってもらって双方の特徴を双備型魔晶石核のように連動させればいいんじゃない?共鳴効果じゃないから負荷もかからないだろうし。」
なっ?
シェルのくせにずいぶんと的確なこと言ってる!!?
「なるほど、広範囲の条件を判断させれば今後のその気象状況も判断できるわけですね。確かに合理的です。うまくいけば明日くらいの天候も予測できますね。」
アンナさんも納得している?
と言う事はシェルの提言も合理的なの??
シェルのくせに?
「流石シェルです。エルフの村にいた時からこういった合理的な判断や精霊の特長を理解した扱いは上手ですね!」
そう言えば「命の木」の世界でも魔力さえあれば大量の精霊を呼び出しできたから実は結構精霊使いとしては優秀なのかな?
シェルの提言にあたしたちはさっそくその風の精霊の魔晶石融合体を作りランタンみたいな気象予測機を作っていく。
そして出来上がったこれに【未来気象】で天気を表示させる。
「ええと、今度は十段階にしましたから、真ん中くらいなので雨の降る確率は半分くらい?曇りのようです。結果は明日にならないとわかりませんが当分これで検証をしましょう。」
そう言ってソルミナ教授はここ数日の天気予想と結果が書ける表を黒板に書く。
書き終わったころ丁度鐘がなる。
「では、今日はここまでで終わりにしましょう。明日の結果が楽しみです!」
これがうまくいけば研究課題もぐっと成果が出せるね。
さて・・・
「暇ね。」
ティアナがポツリと言う。
四連型魔晶石核が完成したのであたしたちは時間が出来た。
アンナさんはアイミと四連型の分離合体機構を作るためにまだ開発棟に行っているが実務的に何も無いあたしとティアナは暇を持て余す。
シェルは何だかんだ言って自分で時間に余裕が出来た時はちょろちょろといろいろなところを回って見聞を広めている。
なので更にあたしとティアナは時間に余裕が出来てきた。
なんとなくティアナと散歩がてらに雨の上がった学園を回る。
こうしてティアナとゆっくり散歩するのって久しぶりかな?
思い起こせば無詠唱の使い手としてさらなる高みを目指し学園に留学させてもらい、学校行事や旅行、その間に有ったいろいろな出来事、そして師匠に鍛えられた日々。
あたしはふとそんなことを思った。
すると一緒になんとなく歩いていたティアナも同じようなことを考えていたのだろうか?
「あと少しで卒業か、なんか寂しいけど楽しかったね、エルハイミ。」
いきなりそんなことを話しかけてくる。
あたしは歩きながらティアナを見る。
隣を歩くティアナは既に十四歳のお姉さんだ。
最近めっきり女性らしくなってきてスタイルもどんどん良くなってきている。
先日測定した結果、ホリゾン帝国のゾナーとの勝負も完勝となる事が分かりティアナとあたしの身の安全が確保された。
あたしたちはあの時どれほどほっとした事か。
これからも育ってもらってアテンザ様のようになってくれるとうれしいな。
と、歩いていたティアナが立ち止まる。
そしてこちらを見てあたしに微笑みかける。
「エルハイミもこちらに来てからずいぶんと女の子らしくなったわよねぇ。身長もだいぶ伸びたし、スタイルもだんだん良くなってきたし。」
確かにあたしも女の子らしくなったかもしれない。
あたしももう十二歳になった。
十二歳・・・
そうか、こっちの世界に来てからもう十二年かぁ。
今はエルハイミという少女である事になんの疑問も感じない、むしろ須藤正志と言う男性の記憶は師匠に言われた通り過去の知識へと変わりつつあり、もう「須藤正志」と言う人物はあたしの中にはいない。
あたしはこれからもエルハイミでありそれ以上でもそれ以下でもないだろう。
だから、だからはっきりとわかる、この気持ち。
あたしはティアナと向かい合う。
そしてその気持ちを言葉にする。
「ティアナ、大好きですわ。私はあなたを愛していますわ。」
自然に、そして混じりっ気の無いあたしの本心を告白する。
ティアナは一瞬驚くがすぐに嬉しそうな顔をしてくれる。
そしてあたしの手を取ってこう言ってくれた。
「あたしも。」
そのままあたしとティアナの唇が重なる。
学園の校舎を背景に二人の影が重なっている。
往来する学生たちからは黄色い声や驚きの声が聞こえるけど今のあたしたちにはなんてことない。
ゆっくり、ゆっくりとあたしとティアナの唇が離れていく。
そしてもう一度ティアナはあたしに素晴らしい笑顔を見せながらこう言う。
「あたしたちはずっと一緒だよ!学園を卒業しても何処へ行っても!!あたしはエルハミを意地でも絶対に幸せにして見せるから!!」
プロポーズのようなその言葉にあたしはときめいてしまった!
「はい!」
意識していないのに思わず返事してしまった。
気持ちは確かめ合った。
もう迷いも不安もない。
あたしたちはずっと一緒だよティアナ!
~エルハイミ‐おっさんが異世界転生して美少女に!?‐~
『なに最終回みたいなノリやってんのよ?こんな人の往来するところで
あうっ!
せっかくいい雰囲気だったのにシコちゃん!!
「ほんと、見ているこっちが恥ずかしいわ。どこでもかしこでもいちゃいちゃと、このエロハイミ!」
シェ、シェルぅ??
何時からそこにいた!?
『ほんとよね、全くガーベルの血筋はいつでもどこでも
「あら、最近はそんなに激しかったんだ。でも、本当にもう夜の営みはしないのかしら?この二人だからきっとまだまだお盛んに続くはずでしょ?」
『うーん、そうかもねぇ。まだ最後までやってないし。』
「あら、意外!もうとっくに最後まで行っちゃってると思ったのに!?」
ワイワイがやがや・・・・
あたしとティアナは真っ赤になってこの二人の猥談を聞かされる羽目になった!!
確かにあと一週間ちょっとで約束の時になる。
あたしたちは北へ、そうホリゾン帝国のゾナーが待ち構えるかの地に行かなければならない。
既に勝利は確定している。
待ってなさい変態王子!
あたしのティアナがあんたをけちょんけちょんにしてあげるんだから!!
あたしたちは北を見るのだった。
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