第127話5-33入学式直前

5-33入学式直前



 「ご苦労であった。報告はアテンザより聞いている。ティアナよ、これよりボヘーミャに向かうのだな?」


 

 ガレント王国国王、エドワード陛下はティアナに向かって面を上げるよう言う。


 「はい、陛下。問題となっておりました『至高の杖』も目覚めさせることに成功いたしましたゆえ、目的の四連型魔晶石核の開発にすぐに取り掛かりたいと思います。」


 そう言ったティアナの顔は自信に満ちていた。



 おおっー!!



 周りから歓声が上がる。

 ここにいる人たちはさすが殿下だとか、これで我が国はさらに安泰になるとか口々に言っている。


 「でかしたぞティアナ!始祖魔法王ガーベルが神より賜たわれた『至高の杖』を目覚めさせるとは大儀である!!大いに期待するぞ!!」


 「はっ、陛下の御心のままに!」


 そう言ってティアナ含めあたしたちはもう一度陛下にお辞儀してこの場を退席する。



 * * * * * *


 「アテンザ姉さまのおかげで面倒な報告が無かったのは助かったわ!これで今日中にはボヘーミャに戻れそうね!?」


 「そうですわね。でもすぐにでも出発しないとファーナ神殿に着くころには夕方になってしまいますわ。」


 「それはまずいですね。明後日には入学式です。かなりぎりぎりになってしまいましたね。」


 『あら?ボヘーミャってまだあるんだ?あなたたちこれからボヘーミャに行くのね?じゃあ、ゲート使って移動だ?』


 「至高の杖」が話しかけてくる。


 「ええ、そうですわ。でもあなたが知っている時代と違い今はゲート移動もかなり面倒ですわ。いったんファーナ神殿に行って精霊都市ユグリアに行ってから魔法学園都市ボヘーミャに行かなければならないのですわ。」


 『へ?なんで??わざわざ遠回りするの?』


 「馬車の中でも説明しましたわ。この時代ではゲートを扱える人材自体がまれで、しかも直通ゲートは壊れてしまっていて使えませんの。だから使えるルートですと遠回りになってしまいますの。」


 『めんどくさいなぁ~、じゃあ壊れたゲートの入り口こっちに作ってやればいいじゃない?異空間ルートは残っているのでしょう?』


 「すみませんわ、今の私たちの技術ではゲートの入り口を作るなんて大それたことできませんわ。」


 それが出来ればどれだけ楽か!

 あたしはため息をつく。


 『じゃあ、あたしが手伝ってあげる!あなた魔力容量は大きいみたいだからあたしにじゃんじゃん魔力注ぎ込んで!呪文サポートも魔素構成式もあたしがやるから!』


 「はいっ!?」



 思わず声を上げてしまった!

 『至高の杖』がゲート入り口の作成を手伝ってくれるだって!?

 失われた魔術を!?


 

 「ティ、ティアナ!」


 「うん、エルハイミ!すぐに陛下たちに知らせて新しいゲート入り口を作るわ!!」


 言うが早いかティアナは動き出す。



 「エルハイミちゃん、一体どういうことですか?」


 「『至高の杖』が協力してくれて新しいゲートの入り口をこのガレントとボヘーミャの間で作ってくれるそうですわ!!」


 「なに?失われた魔術だぞ!?そんな事が出来るのかね、エルハイミ君!?」



 そりゃぁ誰だって驚くよね?

 あたしだって驚いているんだもん。


 

 「『至高の杖』は出来ると言っていますわ。」


 『あ、あたしの事は【シコちゃん】でいいわよ!でも、【シコ】を続けて二回言っちゃだめだからね!厳禁よ!!』


 「至高の杖」は自分の事を「シコちゃん」と呼べという。

 「シコ」を二回続けて言うのは厳禁らしい・・・


 「ではシコちゃん、早速始めましょうですわ!」


 『いいよぉ~!』


 あたしたちはティアナについて新しいゲートを作るための場所を陛下に相談に行くのだった。



 * * * * * *



 『そうそう、そんな感じで魔力をあたしにじゃんじゃん注ぎ込んでぇ~、濃いのだぁ~いすきぃ!』


 なんか変な言葉遣いだけどあたしは気にしないでどんどん魔力をシコちゃんに注ぐ。


 シコちゃん曰く、あたし個人の魔力容量は魔法王ガーベルを超えており、歴代の魔術師でもトップレベルらしい。

 最初はティアナがゲートづくりの魔力注入しようとしたらわずかに足らないそうだ。


 『しっかし、あんた一体何者よ?あんたの魂ってどの女神ともつながっていないし、多分それ以上の何かとつながっているみたいね?なんか魔力保有量だってまだまだ成長しそうだし。』


 「魔力容量って増えるのですの?」


 『うん、人間って成長する過程に魔力容量も大きくなるからどんどん使って空っぽになるのを繰り返すと魔力容量がどんどん大きくなるのよ。大体成人するまでがピークでそれ以降はほとんど増えないけどね~。』



 あたしが以前仮定した事は事実だったのか!?



 道理で魔力を使い果たすごとにその後に魔力容量が増えていく感じがしたわけだ。

 しかし、これってものすごい発見だわね。



 『それにしてもあなたの魔力、濃厚でねっとりとしていてどんどんあたしの中に注ぎ込まれて、いいわぁ~。魔力の質自体がだいぶ違うみたい!ほんと、あんたって何者よ!?』


 なんか言い方が引っかかるな・・・

 まあいいや。

 あたしは言われた通り更にジャンジャン魔力注入をする。



 『ああんっ!もう入りきらないよぉ~!!お腹いっぱいになっちゃった!!さて、始めましょうか。そこの床にあたしのほとばしる先端を向けて。濃い魔力でいっぱい出してゲート作るから!!』


 「あの、もう少し言い方何とかなりませんの?なんか引っかかる物言いなのですわ。」


 『うん、気にしない気にしない!さ、始めるわよぉ~!!』



 そう言ってシコちゃんは言葉道理濃厚な魔力を吐き出しながら床に魔方陣を書いていく。


 あれだけ注ぎ込んだ魔力が一気になくなっていく!?

 そして感知魔法でその様子を見ていたあたしには異空間のトンネルの様な物が強引にこちらに向かって伸びてくるのが分かる!


 シコちゃんが書き終えた魔法陣は異空間のトンネルがつながった瞬間強烈な光を一瞬放ち、すぐに落ち着く。

 そして光が落ち着いたそこには淡い光を発たずえたゲートが出来上がっていた。



 『ふうっ、出来た出来た!これでボヘーミャとここはつながったよ~!』



 あたしたち一同はその光景にしばらくぼ~っとしていたが、はたと我に戻り急いでボヘーミャに戻る準備をする。


 * * *

 

 「それでは皆さん、今度こそ行ってまいります。今後ここのゲートの守りは要注意してください。では陛下、行ってまいります!」


 見学に来られていた陛下にティアナは挨拶してあたしたちはゲートへと入る。

 今度はティアナがゲートを起動させる。


 ゲートが光り、全てを包み込んでからまたその光を落ち着かせる。

 と、開けた視界は先ほどの部屋ではなく地下の何度も見たことのある部屋へと変わっていた。


 「成功ですわ!」


 『あったりまえじゃないの!あたしがやってるんだから!!』


 なんか偉そうなシコちゃん。

 

 「本当にすごいですね、新しいゲートの入り口が出来たなんて。」

 

 アンナさんが本心を言う。

 失われた魔術の復活はそれはそれは大きな価値がある。

 魔道を探究する者としてみれば感動の嵐だろう。


 「ねえシコちゃん、これって他のゲートも直せそう?」


 『うーん、つながっている先にもよるよ。流石にあたしも全く新しいゲート作るのは簡単に行かないし、『賢者の石』のケンちゃんって今はもういないんでしょ?だとするといくらそこのエルハイミって子でも魔力が足らないかもしれないもんね~。』


 ティアナの質問にシコちゃんはとんでもない事をサラっと言う。

 魔力さえあれば新しいゲート作成も可能ですってぇ!!??


 「まあ、何はともあれこれで入学式の式典には間に合ったな。私も一応役職として参加しないわけにはいかないからな。」


 そう言ってマース教授は開発棟に行くと言って歩き出す。


 「学園長には明日報告に上がろう。まずはこれらの荷物を開発棟に保管しに行かなければならないからね。」


 まあ、何だかんだ言って今回は結構荷物が多い。

 上質の魔晶石原石やガレント産の品物もいっぱい買い込んできた。

 男性陣のマース教授やロクドナルさん、ショーゴさんはかなりの荷物を抱えている。

 

 「それでも一応先に師匠には挨拶しておかないとまずいわね、あたしとエルハイミで先に挨拶だけしてきますからマース教授たちは荷物をお願いします。」


 ティアナの提案にみんな同意して別れて行動を始める。



 魔結晶石も手に入り、融合魔法時のコントロール補佐の『至高の杖』シコちゃんも手に入った。

 後は師匠に協力してもらって八大長老にお願いして上位精霊を呼び出し、融合が出来ればいよいよ四連型魔晶石核が作れる。

 

 


 とりあえずあたしたちは師匠に戻ってきたことの報告に向かうのだった。

 

 

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