第99話5-5英雄の希望

5-5英雄の希望


 あたしたちは精霊都市ユグリアの市長、ファイナスさんのいる部屋にいた。




 「八大長老におかれましてはご機嫌麗しく~」


 「世辞はよろしい、それでソルミナ、何故この見合いを嫌がるのです?」


 いきなり核心を突かれるソルミナ教授。

 あうあう言いながらしどろもどろに釈明する。


 「ええと、その、テルマ様は素敵な方なのですが既につがいが三体もおられるし私のような幹では良き実を結べないのではと思いまして、それに今は若者たちに精霊の何たるやを広める職についておりまして、彼らの育成を任される身でもありまして・・・」



 「それと見合いをするしないは別問題でしょうに。会って話をするのを何故嫌がるのです?」


 ソルミナ教授はソルガさんをちらちら見ながら、口ごもりながら渋々言う。


 「そ、そのエルフの村に戻りますと両親がなかなか外の世界に出してくれませんし、その、テルマ様は強引な方らしいですし、すぐに祝言をとか言われそうですし、兄さんは兄さんでマニーさんの事ばかりですし、私の事なんかこれっぽっちも気にしてくれませんし、大体にして私が外の世界に出たがっていたのも兄さんを追っての事でしたし・・・・」


 ん?

 なんか後ろの方が微妙な話に・・・


 「そ、その、私兄さん以上に素敵な男性はいないと思います!!!」


 きゃぁーっ!!


 ティアナとアンナさんが黄色い声を上げる。

 ファイナスさんはこめかみに手を当て、ソルガさんは妹の発言に目を丸くしている。

 そしてとうとう告白したソルミナ教授は恋する乙女よろしく顔を赤らませてもじもじしている。


 「まれにそう言うつがいがいますが、良い実が育った事例は少なく、出来れば他の樹とつがいになってほしいのですが。」


 ファイナス市長は溜息を吐きながらこれで理由がはっきりしましたと付け足した。


 「しかしテルマも大樹、せめてあなたの口からはっきりと断りを言うのが礼儀というものです。気持ちは分かりましたが私も一緒についてってあげますからちゃんと自分の口からお断りをしなさい。それと、ソルガ、マニーとの事は私から話をテルマに入れておきます。貴方もエルフの戦士なのですから勇敢にマニーに直接告白しなさい。まったく、あなたたち兄妹ときたら。」


 世話を焼かせてくれますと言いながらファイナス市長はもう一度ため息をついた。

 

 「さて、内輪の恥をさらしました。ティアナ殿下、本日はどういったご用件ですか?」


 袂を正し、ファイナス市長はあたしたちに向き直り話しかけてきた。


 「はい、本日は私たちの研究について精霊魔法で土の精霊を呼び出せる方の協力を求めに来ました。ソルミナ教授の話ですとソルガさんが土の精霊を呼び出すことが出来るそうで、是非その協力をお願いしたいと思っています。」


 簡潔に今回の目的を言うティアナ。

 そんなティアナにファイナス市長は目を細め聞く。


 「研究と言いましたが、それは一体どの様な研究でしょうか?」


 「ええと、四連型魔晶石核の作成で~」


 「殿下詳しくは私から説明します。」


 アンナさんがティアナの言葉を受け継いで説明を始める。


 「今回の研究は精霊力を使った魔力循環機関の開発で、四大元素の精霊力を最大限に活用して昇級循環を起こしスパイラル効果で理論上の魔力無限大発生を行える機関です。」


 「魔力の無限大?そんなことが可能なのですか?」


 「はい、理論上は可能です。」


 「まさか、そんな・・・」


 ファイナス市長は絶句している。

 もし魔力の無限発生が可能となるならばそれは伝説の「賢者の石」に匹敵することになる。

 そしてそれはかの古代魔法王国を彷彿とさせる。

 

 「殿下に聞きます、それを使って何をするのですか?」


 ファイナス市長の目は更に細められる。

 その視線はティアナの次の言葉を一字一句聞き逃さない為に。

 

 ティアナもその視線を受けて意を決したようにファイナス市長を見据えて話し始める。


 「勿論夢のようなその理論の実証です。しかし真の目的はその力の発生源が異界からであるとの推論の確認です。そして異界とつながる道の探索です。」


 「異界と?」


 ファイナス市長は怪訝そうな表情を取る。


 「異界との道をつなげどうするつもりです?」


 市長の言葉を受け、ティアナは静かに答える。


 「恩師、ユカ・コバヤシを元の世界に送り返すのです。」


 「!」


 ファイナス市長やソルガさんはその言葉に驚きを隠せない。

 そして押し黙ってしまう。


 長い長い沈黙の後、ファイナス市長はやっとその重い口を開いた。


 「そうですか、ユカ・コバヤシの為ですか。そうですか・・・」


 「市長。」


 「わかっています。ソルガ、協力しておやりなさい。彼女の望みがかなえられるのなら我が一族も恩を返せると言うもの。マーヤもきっと喜んでくれるでしょう。」


 そう言って、肩の力を抜いたファイナス市長は温和な表情に戻った。

 どういう事だろう?

 師匠とエルフとの間に過去何が有ったのだろう?

 

 「ティアナ殿下、この件協力いたしましょう。ソルガ、ソルミナ、あなたたちの件は後回しです。まずは殿下たちに協力なさい。」


 「わかりました市長、ソルミナ良いか?」


 「え、え、ええ、はい。問題無いです。」


 ぱちくり瞬きしているソルミナ教授。

 とりあえずこちらが先になったようだ。


 「ファイナス市長、ありがとうございます。」


 「いえ、殿下これはユカ・コバヤシへの恩返しでもあります。我々エルフの一族は彼女に救われました。ですからから彼女の為なら協力は惜しみません。」

  

 その後、師匠のお使いで預かりものをイチロウ・ホンダさんに渡したい旨を言うと用事で不在の為二、三日帰ってこないとの事。

 困っているとその間、市が経営している宿を用意してくれることとなった。

 ちょうど魔晶石核もユグリアで作るつもりだったし、せっかくユグリアに来たのだ、街も見てみたい。


 市長の申し出をありがたく受け取ってあたしたちは宿へと行く。


 ホテルへと案内してくれる道であたしはソルガさんに師匠がエルフの一族に何をしたのか聞いてみた。


 「そうだな、この話は魔人戦争の後に我が一族にかかる呪いをユカ・コバヤシが取り去ってくれた話になるな。少し長くなるから宿で食事しながら話してやろう。」



 そう言ってあたしたちは宿に向かうのであった。


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