第98話5-4兄

5-4兄


 土の精霊確保の為あたしたちは精霊都市ユグリアに行くこととなった。



 

 「そうですか、学園内では見つかりませんでしたか。」


 そう言って師匠はお茶をすする。

 今あたしたちは今後について師匠、学園長に報告をしているところだった。

 

 あの後一週間あたしたちは追加で量産の双備型魔晶石核をポコポコ生産した。

 そのおかげで教授たちにはだいぶ時間が出来たので四連型魔晶石核の開発に着手してもらったのだがやはり最後の土の精霊を召喚できる人が見つからなかった。

 さらに運悪く街中の冒険者ギルドにも連絡をしてみたのだけど目的の精霊魔法を扱える人材が見つからなかった。


 「仕方ありません、ソルミナ教授の同行を許可します。ちょうど夏季休暇に入りますし、講義の方は問題ないでしょう。予算委員会についても教授の方はガレントの委託生産で十分に余裕がありますから、追加の資料はいらないでしょう。」


 そう言って資料をめくっている。

 毎年この時期の予算獲得の為の各国との協議の時期だが、本来なら研究成果などの資料作りで教授たちも忙しくなる時期だ。


 「やっぱり行かなきゃだめですか・・・」


 ソルミナ教授は心底嫌そうな顔をしていたが、学園長の命令とあれば致し方ない。

 大きな溜息を吐くソルミナ教授。


 「そう言えば、エルハイミ、時間があればユグリアにいる異界人にこれを届けてください。彼は私と同郷の者です。」


 そう言って師匠は風呂敷に包まれた木箱のようなものを渡してきた。

 なんかお中元の包みみたいなそれはそこそこ重かった。


 「師匠、これって何ですの?それに異界人で同郷ってことは日本人ですの?」


 「そうです、日本人です。彼はもともと料理人で日本全国を渡り歩いていたそうです。名をイチロウ・ホンダと言います。今は市長のお付き料理人をしているはずなのですぐに合えるでしょう。これの中身は鰹節です。ボヘーミャでとれたカツオに似た魚を燻製にして作った試作品です。彼に渡してやってください。」


 料理人!?

 しかもファイナス市長お付きの!?


 「わかりました、師匠。お預かりいたしますわ。」


 そう言ってあたしは包みを受け取る。


 「彼にあったらよろしく伝えておいてください。」


 師匠はそう言ってお茶をすする。

 うーん、どんな人だろ?


 「それでは師匠、明日にでもユグリアに行ってきます。」


 ティアナの宣言にもう一度溜息を吐くソルミナ教授がいた。


 ◇


 「と言う事で、明日出発するのでみんなも準備して。」


 「はい?殿下、私たちもいくんですか?」


 「自分もでありますか?」


 ぴこっ?


 「えー、そこっておいしいお菓子あるの?」


 ティアナさん、みんなって全員ですか?

 まあ、多分魔力の方は問題なと思うけど、大所帯になっちゃうな。


 試しにこの人数が移動できるかの確認するのもいいかもしれない。

 消費する魔力も確認できれば、うまくいけばガレントまでこの人数を運べる。

 そうすれば便利この上ない。


 ワイワイガヤガヤやってる向こうでソルミナ教授がまたため息ついていた。



 ◇


 「どう?エルハイミ?」


 「そうですわね、やはり使い方に問題があったみたいですわ。これならガレントまで行けそうですわ。」


 光が収まって周りの風景が変わってからティアナはあたしに聞いてきた。

 流石に以前よりは魔力消費は実感できたけど、まだまだ余裕がある。

 前回使った時に気付いたゲートに使用方法が問題があったようだ。

 ちまちま魔力を注ぎ込むのとまとめて注ぎ込むのでは違いがあるようで、一気に注ぎ込むとそれほど魔力消費しないで済むと言う事が分かった。

 多分現代人には一気にそこまで魔力注ぎ込む事が出来ないのでかなりの無駄が発生していたようだ。


 それはさておき。


 「ティアナ=ルド・シーナ・ガレントとエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンか、それに他にもだいぶいるな?」

 

 聞きなれた声がする。

 精霊都市ユグリアのゲート番人であるソルガさんだ。

 

 「こんにちわ、ソルガさん。」


 「こんにちわですわ、ソルガさん。」


 挨拶をして他の人を紹介する。

 しかし目ざといソルガさんは紹介半ばで皆の後ろにこそこそと隠れていたソルミナさんを見つける。


 「ソルミナ!ソルミナじゃないか!!」


 「うあっ、に、兄さんお久しぶりデス。」


 いよいよ捕まったソルミナさんは借りてきた猫のようにおとなしくしている。

 ソルガさんは二度と放さんと言った感じでソルミナさんの首根っこを文字通り捕まえている。


 「全く、一体何百年ふらふらするつもりだ!?先方はずっとお前が帰ってくるのを待ちわびているんだぞ!?」


 「いえ、ですから私は嫌だって言ってるじゃないですか!」


 なんだ、なんかもめてるな?

 あたしとティアナは顔を見合わせてからソルガさんに聞いてみる。

 

 「お取込み中申し訳ありませんわ、ソルミナ教授どうかしまして?」


 「え、え~とですね・・・」


 「こいつの見合い相手がすでに数百年待っているんだ。」


 へぇぇええぇ、見合い相手ですか・・・・

 って、なんだってっ!?


 「ソ、ソルミナ教授まさかお見合いすっぽかしてこの数百年逃げ回っていたんですか!?」


 思わずティアナが思った事をそのまま言ってしまう。

 

 どよっ!


 みんなも思わずソルミナ教授に注目してしまう。

 

 「お、お見合いと言うか、親が勝手に決めたお話と言うか・・・。と、とにかく私は嫌ですからね!!兄さん!!」


 「だったらおまえ自身が直接先方に話をすればいいだろう!いくらエルフとは言え流石に待ちくたびれている。ちゃんとした返事の一つもしないではないか!いい大人なんだから!!」


 ワイのワイのまた始まってしまった。

 道理でソルミナ教授がソルガさんに会いたがらないはずだ。

 しかもなんだかんだ言って実家にも寄り付かない理由がこれか。


 ソルミナ教授、いい人なんだけどたまに行動が読めない時がある。

 

 「とにかくソルミナ、ファイナス市長に会いに行くぞ!」


 「ええっ!?八大長老に会いに行くんですか!?」


 「無論だ、ティアナ=ルド・シーナ・ガレント、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン、アンナ=ドーズ、ロクドナル=ボナー、挨拶半ばで済まんが貴殿らにも市長のもとへ来ていただきたい。よろしいか?」


 有無を言わさないソルガさんの迫力に応じるしかなく、ティアナが了承する。

 あたしたちは首根っこをつかまれたソルミナ教授とソルガさんの後を追って歩き出す。

 と、ゲートのストーンサークルを抜ける頃アンナさんたちが口を開く。


 「すごいですね、この大木!数百年は経っていそうですね!」


 「確かにすごい景観ですな。それに見えてきた街並みも美しい。」


 アンナさんやロクドナルさんもその光景に感嘆する。

 あたしやティアナももう一度ユグリアの街並みを見る。

 なんと言うか、自然と都市が一体化した本当に美しい街並みだと思う。


 ほどなくして「緑樹の塔」が見えてきた。

 ソルガさんは前と同じように建物にあたしたちを招き入れ、カウンターで職員と話をしてから市長に話をしてくるので応接間で待っていてくれと言った。


 「あらあら、今回は沢山のお客さんね。どうぞ、お茶を入れましたから飲んでね。」


 そう言って職員の初老のおばちゃんはお茶を出してくれた。

 

 「こんなおっきなカップじゃあたし飲めな~い!」


 マリアがわがまま言う。


 「おやおや、フェアリーもいたの?珍しい。じゃあ、これなら飲めるかしら?」


 そう言って職員のおばちゃんはミルク用の小さな入れ物にお茶とミルクと砂糖を入れてマリアに渡してくれた。


 「うあー、ありがとうおばちゃん!」


 「あら、フェアリーの割に礼儀正しいのね、どういたしまして。」



 お茶をいただいている間にティアナやアンナさんはソルミナ教授と話をしている。


 「教授、お見合いの相手ってどんな人なんですか?」


 「教授、なぜお逃げになるのですか?それほどお嫌いな方なのでしょうか?」


 女子会始まっちゃったか。

 仕方ないけどあたしもちょっと興味があるので混ぜてもらう。


 「いえ、その嫌いではないのですが大樹な方・・・、ええと、人間で言う所の壮年な方と言えばいいのでしょうか?とにかく人物的にはいい人なんですが・・・」


 「ですが?」


 ティアナが乗り出して聞く。


 「すでにつがいの幹が三体もいられるので、わざわざ私を娶る必要もないだろうし、またあのエルフの村の生活をすると思うと嫌で嫌で・・・」


 「つがいの幹って何ですか?」


 ティアナに聞かれ、ソルミナ教授はああと言って説明をする。


 「人間で言うお嫁さんの事ですね。エルフは大樹、壮年になるとつがいとなる幹、つまりお嫁さんを複数持つことがあるのです。」


 「え?それじゃ一夫多妻制!?」


 「えーと、人間の感覚と違うので、その逆があったりもしますし、別れて他の幹と一緒になったりもします。そう言えば兄は彼の娘さんとつがいに成りたがっていたから私の件も真剣なんですよ。」


 ソルガ兄よ、ソルミナ教授だけの問題じゃなかったのね!?


 そんな感じで女子会で盛り上がっているとソルガさんが戻ってきた。

 

 「ソルミナ、ファイナス市長がお待ちだ。他の皆も一緒に来てくれ。」


 「うえっ、本当に行かなきゃならないんですか、兄さん?」


 「何をいまさら、さあ来い!」



 そう言って連れていかれるソルミナ教授にあたしたちも付いて行くのだった。

 

 

 

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