第80話4-17来るべき対話に向けて

4-17来るべき対話に向けて



 「で、出来ましたわ!!」


 あたしたちの手元にはついに双備型魔晶石核が出来上がっていた。


 単体魔晶石核に二体の低級精霊を融合させたらまさかの暴走爆発をしてしまい、あたしたちは手痛い教訓を積んだ。


 しかし、このシステムなら最悪暴走する前に切り離しができるので爆発はしないと思う、多分。


 「理論的には共鳴効果で別れていますが魔晶石核自体はその稼働率を常に百パーセント出せるはずです。しかも競争意識が芽生えれば残留意識も増長され、魔晶石核の寿命を大幅に伸ばす事が出来るはずです!」


 アンナさんがまた黒板に知らない魔術方程式を書き込んでいる。

 ほんと、いつの間にそんな公式編み出したんだろう?


 とりあえず理論的にはうまくいくはず、あたしたちは疑似永久機関、「うちわ君二号」を作り上げ装着する。


 ちなみに「うちわ君二号」の名付け親はゾックナス教頭だ。


 まあ、いいんだけど。


 さて、そんなわけでここ数日の成果が試される。

 あたしは前回の教訓から師匠に許可を取って試験場を使わせてもらっている。


 「エルハイミ~、こっちはいいわよ~。」


 遠くのティアナが手を振っている。

 ゾックナス教頭や他の人たちもそっちにいる。


 「では、エルハイミちゃん、あとお願いします。」


 そそくさとアンナさんもティアナたちの方へ行く。


 ・・・

 ・・・「うちわ君二号」の起動はあたしだけでやるの!?


 あ、アンナさんまであっちに逃げてくなんて!!


 確かに、同調できるあたしはマナの流れや魔力の流れが手に取るように分かるようにはなっていいるし、とっさに意志の力だけで【絶対防壁】の魔法が発動できるけど、みんなそれってないんじゃないの!?

 見るとアンナさんも安全圏に到達している。

 誰が作ったか知らないけど土系の魔法で防壁まで作ってある。


 なんか、失敗するのが前提な雰囲気だな。


 あたしは軽いため息をついて「うちわ君二号」に取り付けられた双備型魔晶石核に魔力を注ぎ込み起動を開始する。

 それは通常の魔晶石核と同じに淡い赤い色の輝きを増していき起動を開始する。

 ここまではいつも通り。

 さあ、この後だ。

 双方の魔晶石核はどんどんと動きを活発化させていき、いよいよ共鳴を始める。


 きぃいいいいぃぃぃん!!


 聞いた事の無い唸り音が双方の魔晶石核から聞こえる。

 始まったか!?

 身構えるあたし。


 キィイイイィンンっ!!!


 更なる高い音が発せられ、魔晶石核が輝きを増してきた。



 ィィイイィィンンッッ!!!



 ぴたっ!


 あれ音が消えた!?


 と、思ったらいきなり魔晶石核どうしの間から淡い緑色の光が広がった!!


 ぶわっ!!



 それはあたしを包み込み、その周辺も包み込んだ!!


 しまった!?

 また暴走か!!??


 とっさに身構えるがなんか違う。


 「ハラヘッタ」


 は?


 いきなり頭の中に変な声がする。


 「ネーチャンモットマリョククワセテクレナハレ」


 はぁ??

 なにこれ?

 

 あたしはどこからともなく聞こえる声にきょろきょろする。


 「ココヤ、ココ」


 きょろきょろするあたしにその声はまさかと思い魔晶石核を見やる。


 「ソウヤ、ワイラヤ、ハラヘッタ、モットマリョククレナハレ」



 え?

 ええ? 

 えええええええええぇぇぇぇぇっ!!!???



 ま、まさかこれってサラマンダーの声!?




 「ソウヤ、ナンカモンクアッカ?」


 「ウチラヨビダシテマリョクコレッポッチカイ、ケチケチスンナ」


 あたしはしばし呆然とする。

 あの上級精霊イフリートでさえここまで明確に意思を伝えてきたことが無いのにこいつら会話に近いレベルで話しかけてきている。


 「ネエチャン、エエカラマリョククワセテクレナハレ、ソシタラシゴトシテヤル」


 「わ、わかりましたわ、魔力を追加しますわ。」


 呆然としていたあたしは言われた通り魔力を追加して魔晶石核に注ぎ込む。


 「オオ、オオキニ」


 「キクワー、コレ」


 すると再び魔晶石核から音が鳴る。


 きぃいいいいぃぃぃん!


 「ホナ、ハジメヨカ」


 「ハイナ、エエヨ」


 きぃぃいいいいぃぃぃんんっ・・・

 ぴたっ!!


 ひゅんっ!!!


 音が消えると同時にあたしを包んでいた淡い緑色の光も消える。

 そして魔晶石核を見ると双方ともきれいな緑色に輝き、時折その中に赤いきらめきの筋を浮かばせ、消し、まるで呼吸しているかのようだ。


 「あ、あの、サラマンダーさん??」


 呼びかけてみるが返事は聞こえない。

 魔力感知で双備型魔晶石核を見ると、なんとアイミほどではないがきれいに魔力循環を始めている。

 

 そして「うちわ君二号」も順調に動き出している。


 「せ、成功ですわっ!!」


 あたしはみんなに向かって手を掲げる。


 安全圏にまで下がっていたみんなは急ぎこちらへやってくる。

 

 「エルハイミ!やったわね!!」


 「エルハイミちゃん、さっきの緑色の光何だったのですの?」


 「おお、うちわ君二号 もちゃんと動いておるの!」


 口々に言いたいこと言ってるけど、もしかしてみんなサラマンダーの声聞こえていなかったの??


 「あ、あの、皆さんさっきの声、聞こえなかったのですの?」


 「声って何よ?」


 ティアナがいぶかしげにあたしを見る。

 って、ほんとに聞こえていないの??





 その後、あたしは魔晶石核起動時に何が起こっていたか説明した。

 

 「もしそれが本当なら、すごい事ですよ、人類史上初めて精霊と言葉を交わしたことになりますよ!!」


 なんか興奮気味のアンナさん。

 

 「本当です、エルフの私たちでさえそこまで明確に精霊と言葉かわしたことは有りません、うらやましい!!」


 参考で参加してもらっているソルミナ教授も興奮気味だ。

 

 ・・・

 いや、会話と言ってもあの言葉遣いじゃ精霊のイメージが崩れるような・・・


 あたしはその辺は言っていないけど、もし聞こえたら硬直するだろうなぁと思いながらアンナさんたちとその後の検証をする。


 検証結果、双備型魔晶石核は非常に安定していて、保有マナも十分。

 循環機能で少しづつ外部マナを吸収出来れば機関としては少なくとも五十年は稼働するだろうとアンナさんの試算が出た。

 しかも、高効率稼働なのでアイミほどではないけどそこそこ強力な機関になりそうだと。

 後はこれの量産方法を研究開発していけばいいのだけど、もしかして毎回起動時にあの現象が発生するのかな?


 これってあたしのせいじゃないよね、今回は?


 あれのインパクトは毎時起動した人に味わってもらう事としてあたしはこのことは口外するのをやめた。

 

 

 うん、これってあたしのせいじゃないからね!!!

  

 


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