第57話3-32肝試し

3-32肝試し



 翌日、俺たちは海水浴に来ていた。

 


 「競技の時に海水には入ったけど、本来はこういうものなのね。」


 白い砂浜の波打ちぎわにティアナは立って海を眺めている。

 さんさんと輝く太陽、白い雲、青い空と海、ちょっと冷たいけど透き通った海水。

 これぞ海水浴!

 

 ティアナは今回は現地購入した真っ白なビキニの水着をつけて真っ赤な髪の毛をサイドポニーにしている。

 アンナさんは青を基調としたワンピースだが、胸元や足の付け根がかなりきわどい切れ込みが入っている。

 今回アンナさんは長い藍色の髪を頭の上にまとめている。

 うーん、メガネが欲しい。

 そうすれば美人秘書の水着っぽくなるのに。


 ロクドナルさんやサージ君は・・・

 まあ、いいか、端折る、普通なので。



 そんな絶好の環境の中、今回は黄色を基調としたワンピースの俺はパラソルの下でぐったりしていた。



 だって、昨日はほとんど寝ていないんだもん!



 パラダイスだよ、天国だよ、桃源郷だよ!!!

 ティアナに抱き着かれるのはまだしも、アンナさんにまで抱き着かれて寝れるか!!

 しかも、アンナさんあんな大胆なネグリジェで、それはもうやわらかいのなんの!

 心の中の男の子はおっきしっぱなし!

 時折動くそれに顔をうずめたときは窒息死するかと思った。


 ティアナもティアナで足まで絡めてきてきわどいところを押し付ける。

 そりゃあ、おこちゃまに反応はしない(はずっ!)とは言えそれはそれでこちらも寝れるはずがない。


 朝、俺がぐったりしているのに二人はすごく良く寝れたとか言ってにこにこしていた。

 アンナさんなんか ずっとエルハイミちゃんと一緒に寝たいくらいです、すごく良い抱き心地なので! なんて言ってるし!



 おかげで太陽が黄色く見える。



 「エルハイミ、海入らないの?」

 

 パラソルの下の俺にティアナが聞いてくる。


 「もう少し休んでからにしますわ、結構太陽が強いので。」


 そう言ってアンナさんを見ると、何か塗っている。


 「殿下、それにエルハイミちゃんにも塗りますね。先ほどそこのお店で買ってきた日焼け止めという油です。」


 「へ?日焼け止め?なにそれ?」


 初めて聞くと言った風にティアナがアンナさんに聞く。


 「太陽の光を素肌で短時間に大量に浴びると、やけどしたような症状になるらしいです。実際数時間肌を太陽光にさらすと赤くなってきますから、こういった日焼け止めという油を塗ると予防ができるらしいですね。」


 そう言ってアンナさんはティアナにも塗り始める。

 

 ぬるぬる、ペタペタ。


 「殿下、背中にも塗りますからあちらを向いてください。」


 そう言ってティアナはこちら側を向く。

 そして椅子に寝そべっていた俺を見てにまぁ~っとする。


 「エルハイミ、あたしが日焼け止めの油塗ってあげるね!!」

 

 そう言ってアンナさんから小瓶を受け取り両手につける、でもその手の動きがおかしい。

 なんでワキワキすんの?


 「それっ!!」


 「うみゃぁっ!!!」


 思わず悲鳴を上げてしまう。

 だっていきなり背中に冷たいオイルがかかればびっくりしてしまう。

 ティアナはそんな俺にお構いなしでどんどんいろいろなところにオイルを塗っていく。


 「うみゃみゃみゃみゃぁぁっ!!」


 くすぐったい、それにどこに塗るんだ!!


 「ティ、ティアナ、そんな所塗らなくても大丈夫ですわ!そこお尻ですわ!!」


 「せっかくだからしっかり塗ってあげるね♪」


 ティアナがなんと水着の中まで手を突っ込んで油を塗る。

 

 「あはははっはっ! ティ、ティアナくすぐったい、くすぐったいですわぁ!!」

 

 容赦ないティアナの攻めにもだえる俺。

 お昼前のひと時、俺の悲鳴がこだまする。 



 「も、もう、ら、らめれすわぁあぁぁぁぁぁっっっ!!」




 

 

 その後ビーチで遊びまくって夕方前にホテルに戻る。

 予定では夕食後に肝試し大会が開催される。



 と、地元の子かな?

 少し浅黒い肌の女の子がもうすぐ夕焼けになる海辺で岩の上に座っている。

 年のころ、俺と同じくらいかな?



 俺はなんとなく気になって彼女の近くに行く。


 「こんにちわですわ、あなた地元の子?」


 女の子はちょっとびっくりしてこっちを見る。

 観光客は見慣れているけど、あまりこう言った風に話しかけられることはないのだろう。


 「え、えっと、こんにちわ。」


 少し緊張してるのかな?



 「エルハイミ~、先行ってるよ~。」

 

 ティアナの声が聞こえる。


 「わかりましたわぁ~。」

 

 手を振って答える。

 そしてもう一度女の子の方に向いたら彼女はいなくなっていた。

 驚かしてしまったかな?

 もともと人口が少ないので小さな女の子見るのは初めてだったので声かけたけど、ダメだったみたい。

 ちょっとへこむな、今は見ての通り少女なのに。



 気を取り直して、ホテルへ向かい夕食をとる。



 そして夕食後に本日のイベント、肝試し大会が始まる!

 生徒会主催のこの追加特別企画、始まる前に説明とちょっとしたお話が入る。


 「まずは簡単に説明をしますが、そのあとに皆さんにはちょっとした物語を聞いてもらいます。」


 そう言って生徒会長ロザリナさんはルール説明をする。

 ここから一本道の丘の上にある洋館にグループごとに行ってもらい、その洋館の庭にに咲いている紫色の花を摘んで帰ってくるというものだ。

 道中明かりの魔法以外は使用禁止。

 生徒会スタッフが用意したお化けとかも途中にあるらしいので、そこに攻撃魔法をされたら大騒ぎだからだ。

 ここじゃ「戒めの腕輪」あっても役に立たないしね。


 ルール説明が終わったら、ロザリナさんのぱちんと指を鳴らす音で照明が消えた。

 代わってロザリナさんの手元に一本のろうそくに明かりがともる。


 「さて、皆さんルールの説明が終わったので、あの洋館にまつわる物語を話そうと思います。」


 そう言ってみんなの顔を見渡してから生徒会長ロザリナさんは話を始める。




 その昔、一人の貴族がこの島を訪れた、彼は島に太古からある迷宮を調査するためやってきた魔術師でもあった。

 

 彼が調べた記述には太古の昔、大魔導士が何かの研究をここで行っていたらしい。

 彼は調査のため屈強な奴隷や戦士、魔法使いを募ってこの迷宮へときた。


 彼らは迷宮に入り、住み着いていた魔獣や魔物を退治しながら迷宮を探索した。

 そして分かったことはこの迷宮は瞬間移動の研究をする場所であることが分かった。


 瞬間移動は当時すでに失われた技術で、既存のものはほとんど使われていなかった。


 しかし彼は思った、なぜこんな孤島でそんな研究をするのだろう?

 確かにここは大地の女神フェリスの力が強いらしいという記述はあった。

 もしかして魔法王ガーベルが作った瞬間移動の方法以外の研究だったのでは?

 そう思った彼はくまなくこの迷宮を調べた。

 そして隠し部屋にあった研究所を発見した。

 その研究とは、やはり瞬間移動について研究されたものであった。

 彼は大喜びしたが、その内容がわかってくるにつれその喜びは半減した。


 そう、魔法王ガーベルの瞬間移動に比べその能力は人ひとり移動させることもできないレベルのものであった。

 確かに魔法王ガーベル以外で瞬間移動の魔法を発明したこと自体はすごいことなのだが、実用レベルに達しないのであるならば意味がない。


 落胆する彼であったが、記述の中にあった一言に彼は興味を持った。

 それはせいぜいボストンバック、重量にして子供くらいのものであるならば消費魔力量は非常に少なくて済むと言う事だ。

 もちろん条件があって魔術操作は必ず目的地同士の中間点に魔法陣を設置して操作しなければならないというものであった。

 そして、この孤島はボヘーミャとサフェリナのちょうど中間地点。

 彼は急ぎボヘーミャとサフェリナの隠された魔法陣を探した。

 そして彼はそれを見つけ、それを利用して長年船でしか運送ができなかった積み荷の運搬を魔法で執り行う事業を始めた。

 もちろん、この瞬間移動の秘密は誰にも教えない。

 彼はこの島に屋敷を立て、この魔法で巨万の富を得た。


 だが、そんな彼を不審に思う船会社の経営者たちはその秘密を暴いて孤島をいいことに彼を殺してその魔法を自分たちのものにしようとした。

 当時襲撃を受けた屋敷には彼の妻子がいたそうだ。

 たまたま迷宮で魔法の操作をしていた彼は辛くも難を逃れたが、妻子は殺され自分ももうすぐ追っ手に殺されるだろう。

 彼はその魔法陣壊し、関連書物に火をつけ自害した。


 結局何も得ることができなかった経営者たちは腹立たしさのあまりに屋敷に火をつけすべてを燃やし尽くした。


 当時の島民たちはこの貴族を不憫に思い、館の庭に妻子の骨を埋めて墓を建てようとしたが、どこを探しても子供の遺体が見つからない。

 仕方なしに妻の骨だけでも埋葬して手厚く葬った。

 そしてその墓の周りにはいつしか紫色のかわいらしい花が咲くようになった。


 後日談だが、その墓の周りには親を探す子供の霊がうろつくらしい。




 ここまで生徒会長は話をしてからふっとその蝋燭の火を吹き消した。

 一瞬暗くなったが、それを合図にまたパッと明かりがつく。



 「うあー、ありそうな話、いやねえ欲に目がくらんだ人間って。」



 おいティアナ、そこかよ!?

 両親を探す子供の霊はいいのかよ!?



 「こんなところで魔法王ガーベルに匹敵する研究がなされてたなんて!」



 いや、アンナさん、子供の方は・・・


 

 「それでは皆さん、いよいよ出発ですよ!頑張ってお花を摘んで来てください!」



 まだまだいろいろと突っ込みたいのだが、生徒順番で肝試しを始めるのであった。

  



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る