第15話2-9鑑定

2-9鑑定



 俺とパパンはふかふかの絨毯の上を歩いていく。



 謁見の間の室内には意外と人が多い。

 俺はジーナさんに教わった通りに静々と歩く。


 程なく国王の前に辿り着く。

 国王他、王族の人がズラリといる。


 あ、ティアナがいた。


 彼女は純白のドレスに身を包み、ティアラを頭におしとやかに目を伏せて座っている。

 こう見ると確かにお姫様だ。



 パパンは王の前に出ると片膝をついて頭を垂れ、型通りのあいさつをした。



 「ホーネス=ルド・シーナ・ハミルトンにございます。国王陛下におかれましてはご健勝のこととお喜び申し上げます。」



 俺もパパンに習って膝をつき頭を垂れる。

 そして声がかかるまで静かに時を待つ。


 「ハミルトン卿よ、ご苦労である。して、そちらの者がそうであるか?」


 「は、いかにも。エルハイミよ。」



 うあー、芝居かかってるよ二人とも。

 まあ、お忍びできた遠い親戚だったからね。

 さて、ご挨拶ご挨拶。



 「お初にお目にかかります、国王陛下。ハミルトン卿が娘、エルハイミと申します。」



 俺は頭を下げたまま更に軽く頭を下げ名乗りを上げる。


 「うむ、苦しゅう無い、面を上げよ。」


 そう言われて初めて顔を上げ、国王陛下を見る。

 パーティーの時のオチャラけた雰囲気は皆無で、国王らしい威厳のある風貌とまなざしをしている。


 「かねがね噂には聞いておる、そなた、その年で無詠唱で魔術を使うとな?」


 「はい、まだまだ至らぬものでありますが確かに。」


 そう言って再度お辞儀をする。

 おおーっと周りがざわめく。



 「うむ、苦しゅう無い。本日はそなたに我が宮廷魔術師による鑑定を行ってもらう。知っての通り我が国は始祖魔法王ガーベルより脈々と続く王国である。しかし近年優秀な魔術師が激減している。そのような中、無詠唱を扱える者が二名も現れると言う事は我が国の誇りとなろう。」


 朗々たる声で国王は言い放つ。

 そして孫娘のティアナの名を呼ぶ。


 「ティアナよここへ」


 「はい。」



 そう言ってティアナは国王陛下の横についた。


 「ティアナよ、そなたも無詠唱で魔術を使えたと聞き及んでおる。真じゃな?」


 「はい、国王陛下。私も無詠唱にて魔術を使えるようなりました。」



 ここに至り周りが再度おおーっと周りが驚きの声を上げ始める。


 まあ、すでにパーティーで知れ渡っているが、、国王陛下のからの確認で無詠唱魔法の使い手が間違いなく二人の少女であるというのが驚かれたのだろう。



 「うむ、我が一族より優秀な魔術師が生まれ出ることは誠にめでたい事である。二人とも、その真意を皆に示すがよい。」



 えーとそれってここで魔法を使えと言う事だよね?

 差支えの無い魔術って何かな?


 「エルハイミ殿、私とともに光を!」


 ティアナ殿下がそう言うと腕を高く上げ指先に光の玉を二つ出した。



 あ、制御が上手くなってる。

 じゃあこっちもちょっと頑張ってみるか。



 俺はティアナに習って腕を上げ同じく指先に光の玉を三つ出しゆっくりと回転させた。

 途端に周りから驚きの声とざわめきが上がる。



 ティアナはこちらを見て軽くにこっとした。

 俺もお返しで軽く微笑む。



 「見事である。その若さにて無詠唱を統べる者たちよ、そなたらの今後に大いに期待する。」


 そう言って国王陛下は宮廷魔術師を呼ぶ。




 年のころ七十歳くらいの丸坊主で髭のやせた爺さんが出てきた。


 爺様は魔法使いと一目でわかる様ないで立ちだが、宮廷魔術師と言う事もありその服装は派手では無いもののところどころに装飾をあしらっている。


 宮廷魔術師の爺様は陛下の前まで来ると恭しくお辞儀をし、早速鑑定の為の準備に取り掛かる。


 宮廷魔術師の爺様の元にさらに何人かの魔術師っぽい人が来て何やら道具を置き始めた。

 テーブルを持ってきて、その上にでかい水晶の玉を持ってきた。それはサッカーボールより大きい。

 さらに分厚い本とその上に銀色のプレートを載せて水晶の前に置く。



 「では、これよりティアナ殿下とエルハイミ殿の魔術鑑定を行う。」



 そう言って宮廷魔術師の爺様は何やら聞いた事の無い呪文を唱え始めた。

 すると水晶が薄く輝き始め、本の上に置かれた銀色のプレートも薄く輝き始めた。


 「ティアナ殿下こちらへ。」


 そう言ってまずはティアナを呼びつける。

 ティアナは静々と宮廷魔術師の元に行き、指を掲げる。

 すると宮廷魔術師は懐から小さな針を出してティアナの指先に刺す。



 うあー、なにそれ、血が必要なの!?

 痛そうだな。



 ちくっとした痛みにほんの一瞬ティアナは眉を寄せるが、すぐに平然となり滴る血液をプレートの上に垂らした。


 すると、血液を受けたプレートが輝きを増す。

 それにつられるかのように水晶の玉も強くまばゆい赤色に輝き始める。


 途端に周りから驚きの声が上がり始める。



 「おお、ティアナ殿下、なんという事じゃこの輝き、水晶の奥底に見えるこれは女神シューラのお力!しかもそのお力は殿下の魂にまで触れておられる!なんという事じゃ、ティアナ殿下の魔力はこのわしをはるかに超えておられる!」



 宮廷魔術師の爺様マジで驚いているよ。

 もちろん周りも大騒ぎ。

 うーん、どうもいまいちわからんな、すごそうなのはわかってるけど、どん位凄いのだろう?

 と、パパンがやはり驚きの声を上げる。


 「何と言うことだ、ティアナ殿下の魂は直接女神シューラにつながり加護を得ているのか!?」


 「お父様、どういうことなのでしょうかしら?」


 一応小声で聞いてみる。


 「うむ、通常は幾つかの色が淡く浮かんでそのものの素質を表すのだが、ここまで明確に女神の加護を受けているものはその女神にまつわる魔術の最高奥義を容易に習得できる才能があると言う事だ。しかもその魔力量があの水晶の輝きに比例する。あそこまでの輝きを持つものはお前の母、ユリシア以来だ。」 


 パパンは頬に一筋の汗を流しながら解説をしてくれた。



 いや、助かりました。


 鑑定ってどんなことやるのか聞いても行けば分かるで通されてたのでやっと概要が理解できましたよ。


 しかし、そうするとやっぱり炎系の魔術はティアナに合っていたんだ、じゃなきゃあんなにたやすく【炎の矢】の魔術をアレンジできんもんなぁ。


 うん、ちょっと納得いった。



 「見事である、ティアナよ!」



 国王陛下も満面の笑みを見せる。

 そして当の本人であるティアナも最初はびっくりした顔をしていたが徐々に実感がわいてきたのだろう、それはそれは素晴らしい笑顔をした。

 彼女は俺の方を見て笑っていた。

 俺もにっこりとそれにこたえる。



 「うむ、それでは次にエルハイミ殿、こちらへ。」


 宮廷魔術師の爺様は高らかに俺を呼ぶ。


 おっと、俺の番になった。


 俺は呼ばれた宮廷魔術師の前に静々と歩いていく。

 なんかメインイベントは終わりました感がしますが、無詠唱ができるもう一人と言う事で回りも静かになる。


 宮廷魔術師は先ほどと同じく呪文を唱えた後、俺の指に針を刺す。



 生前もそうであったが、注射とか苦手なんだよなぁ~。

 中途半端なこの痛みがなんとも。



 ちくっとした痛みを感じて俺は眉をひそめるが、ここは我慢我慢。

 しばらくすると指先に血の玉が出来、指を伝っていく。

 俺はそれをティアナのまねをしてプレートの上に垂らした。




 すると途端に見たことのない輝きが始まった。


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