第12話2-6ご懐妊!?

2-6ご懐妊!?



 誕生パーティーは大騒ぎで終わり、なんか大人たちの動きがせわしくなっていた。



 まあ、一度に二人も無詠唱魔法が使える者が出たのだから、話題にもなるだろう。


 あー良かった、花火の魔法見せなくて。

 あれ見せたらもっと大騒ぎになっていたんじゃないか?

 そんなことを思いながら俺はティアナ殿下とお茶してる。

 

 あれから三日たったけど、ティアナのお迎えは全然来ないで俺はティアナ専属のお友達になっている。


 もちろんジーナさんのお勉強は続いているのだけど、なんとそこにティアナも同席しているのだ。

 ジーナさんのしごき・・・もとい、レッスンにお姫様が耐えられるのか心配であったが、なんとそつなくこなしているよ!

 やっぱりこの世界の貴族は英才教育が当たり前なのか?



 そうそう、ジーナさんと言えば、俺たちが無詠唱魔法を使えることを知って歓喜していた。


 そして魔法に関しての授業がいきなり倍増してそのしごきも並ではなかった。

 彼女曰く、「エルハイミ様に私の知る限りの魔術を叩きこんで稀代の女魔術師にしてみせますわ!」だそうだ。

 教育係魂に火が付いたようだ。



 そんな感じでやっとジーナさんのお勉強も終わって午後のお茶で一息しているところである。


 「ねえ、エルハイミ。ジーナの魔法授業はためになるけど、理論がほとんどで実際に魔術使うの少なくない?」

 

 「そうですわね、魔術は危険なものもあるので、本来は大人になってかやった方が良いと言われる方もおりますわ。部屋の中で火炎系の魔術は流石に危ないでしょうに。」


 ティアナはマカロンをつまみ、一気に口に放り込んで聞いてる。



 おいおい、お姫様、ジーナさんが見てたら手を教鞭でたたかれるぞ、もう少しおしとやかに食べないと。



 「うーん、でもせっかく無詠唱で魔法が使えるようになったんだし、もっといろいろ試してみたいのよ!」


 「では、そうですわね、もう少ししたら裏庭に行きましょうかしら。あそこはその時間は人気も少ないし、多少の魔法を使っても大丈夫な所ですわ。」


 俺は飲み終わったカップをテーブルに置いてフキンで軽く口を拭いてからティアナの返事を待つ。


 「いいわね!行こうエルハイミ!」


 ティアナは元気に椅子から立ち上がり、俺の手を取る。


 「ねね、早速つれってってよ!」


 元気なお姫様だ。

 俺は苦笑しながらハイハイ、わかりましたわ~と言ってティアナを裏庭に連れていくことにした。



 ◇



 裏庭にはなんと珍しく先客がいた。


 ママンである。

 ここにママンが来るのは珍しい。

 

 「叔母様、ごきげんよう。」


 ティアナが先にママンに挨拶をする。


 「あらあらら~、ティアナちゃんにエルハイミ、ごきげんよう。どうしたのこんなところに?」


 ニコニコ顔のママンはなんか最近ちょっと太ったかな?

 ふくよかになった気がする。


 「ごきげんよう、お母様。えーとですわね、裏庭で魔術の練習をしてみたくてティアナを連れてきたのですわ。」


 俺も一応作法通りのあいさつをしながら説明をする。


 「あらあら~、お勉強熱心ねぇ~。そう言えば二人とも無詠唱で魔法が使えるんだって?お母様にも見せてほしいな~。」


 緩やかな口調で話すママン、相変わらずマイペースな人だ。

 

 「ええ、もちろん!叔母様見ててくださいね!それっ!」


 そう言ってティアナは両手で思い切り大きな水球を作って見せた。

 大体バケツ一杯分くらいの水球である。

 俺は内心げっとなり、過去のトラウマを呼び起こしていた。


 「あらあら~すご~い!本当に無詠唱で水生成魔法を使えるのね~。」


 ティアナはどや顔だったが、ちょっとその顔には余裕がない。

 しばらくしてその水球は地面に落ち大きな水たまりを作った。


 「うぁ~、魔力使いすぎた!なんか一気に疲れた!」


 いやいや、まだまだ元気そうなんですが?

 汗もかいていないのに額のの汗をぬぐう仕草をする。


 「本当は火炎系の魔法を試してみたいのだけど、今日授業でやった【炎の矢】をやってみたいのよね。」


 にこやかに危険な魔法を使いたいと宣言するティアナ。

 それって危ないでしょうが。

 

 「あらあら~もうそんな魔法を教わってるの~。すごいわねぇ~。でも、その魔法は危ないからこういう風にアレンジした方が良いわよ~。」


 そう言ってママンは呪文を唱え始めた。


 そして彼女の目の前に現れた【炎の矢】は驚いたことに食事で使うバターナイフほどの大きさであった。

 そしてその炎の矢を壁の近くに転がっていた石に向けて解き放つ。

 その炎の矢は最初は早かったものの徐々にスピードを落としていき石に当たってぼとりと落ちて消えた。



 えーっ!?

 なにその緩い魔法!?

 いやいや、むしろ威力弱くして速度までコントロールするってどんな技量よ!?



 「すごーい!叔母様どうやったのそれ?そんなに弱く制御するなんて聞いた事無い!」


 大興奮のティアナ。

 いや、わかる、分かるそのの気持ち。

 普通強化する方法は研究されているが弱体化する研究なんて聞いた事無いよ、本来の使い方からは無意味だし。


 「あらあらあら~、ティアナちゃん、ありがとうね~。うーん、女神様の言葉の【燃え盛る炎】を【蝋燭につけるともしび】にして【貫く刃】を【空舞うバラ】にして【瞬速の】を【舞い散る木の葉】にしただけなのよ~。」


 いともあっさりタネと仕掛けを話すママン。

 しかし普通はそれを聞いただけではそうそうできるものじゃない。


 ティアナはむぅ~と唸って唇に人差し指を当ててる。

 そりゃぁ、言われてハイ、そうですかと出来るもんじゃない。


 「こうかな?」

 

 そう言ってティアナは目の前に【炎の矢】を出現させる。

 ややママンのより大きいが、それを壁際の石に向けて飛ばす。

 それは最初からひょろひょろひょろぉ~と飛んで行き、石に当たってぼとりと落ち、消えた。



 え”え”え”えぇぇぇぇっ~!



 なにそれ、なんで出来んの!?

 マジか?

 実はティアナすっげー実力の持ち主か!?



 驚きに目を見張る俺に対してママンはあくまでマイペースだ。


 「あらあらあら~ティアナちゃん上手よ~。」


 そう言って拍手してる。

 いや、すごいなんてもんじゃないんだけど。


 「あらあらあら~、そう言えばエルハイミも無詠唱できるのよね~、何かお母様に見せて~。」


 あっけにとられていた俺だが、ママンに言われてはっと自分を取り戻し、こうなったらとっておきを見せてやると決意する。


 「それではお母様、私の最高魔術をお目にかけますわ!ティアナも見ててくださいましな、今の私のできる最高魔法ですわ!」


 おれは内心鼻息荒くポケットから例の銅貨を取り出す。


 「少し派手な音と光がしますが、大丈夫ですので安心してくださいましな。」


 そう言って俺は魔法を発動させ、指先にともった赤い光を頭上に掲げ一気に天高く飛ばす。

 十分な高さに届いたとき、俺は弾けろと念じた。

 

 赤い光球はパンッと軽い音を立て、一気に弾け空中にきれいな花を咲かせる。

 弾けた光は中央では白、開きかけが緑、そして最後に消えゆく尾は赤くなって空に消えていく。

 

 「うあー、きれい!」


 「あらあらあら~きれいね~、すご~い!」


 ふっふっふっ、どうよ!我が最大魔法にして究極の花火魔法は!


 「エルハイミ、すごい!すごい!どうやったのあれ!?」


 ティアナは興奮している。

 ママンもあらあらあら~を連発している。


 「あらあらあら~、エルハイミすごいわね~一度に三つもの系統の魔法を操るなんて~。」



 って、ママンあんた一体何者だ!?

 一瞬でネタ晴らししてきましたよ!

 いや、一目見ただけでわかっちゃうとは・・・



 「えー?叔母様、一度に三つもの系統の魔法使うってどういうことですか?」


 よく理解していないティアナにママンは説明を始める。


 「あらあらあら~お勉強熱心ねぇ~。えーと、炎系の魔法で銅貨を温めて核を作り、土系の魔法で成分を表層と中心部で変えて、風系の魔法で空中に運び込んでから飛散させるのよね~?」


 ママンは俺を見ながらそう言ってきた。



 すっげー、大当たりだよ。

 まさしくその通り。

 この人ほんとに何者だ?



 「流石お母様ですわ、ご名答でございますわ。」


 俺は降参した。

 結構頑張ったんだけど、こうも簡単に見破られるとは。


 「すごい!流石、稀代の魔女ユリシアと呼ばれた叔母様!」


 「えっ?」



 なにそれ、稀代の魔女って。



 「あら、エルハイミ知らなかったの?あなたのお母様はこの国で宮廷魔術師にも勝る大魔法使いなのよ!先の大戦でも叔母様の活躍で敵軍が撤退していったほどなのだから!」



 なにそれ!?

 聞いてないよ!?

 先の大戦?

 宮廷魔術師より上!?



 俺は改めて自分の母親を見やる。

 ママン、あんたそんなにすごい人だったの!?

 驚き半分、疑い半分なんだけど、ティアナが言うのだから間違いないだろう。


 「お母様がそんなに凄い方だとは存じ上げませんでしたわ。」


 素直に感嘆の声を上げる。


 と、いきなりママンは口に手を当てウッとなった。


 そして急ぎ木の幹にまで駆けて行ってそこで飲み屋街で見るオヤジの如く嘔吐を始めた。



 慌てて俺はママンの元に駆け付け、背中をさする。

 水生成魔法で口元に水を運んでやると、ママンは口をゆすいでからこちらを見た。


 「あらあらあら~、ありがとう、エルハイミ~。お母様とうとうできたみたい~。」


 なんかにこやかに言う。


 ん?

 ちょっと待て、「できた」だと?

 そ、それってまさか!?




 翌日、主治医の元ママンのご懐妊が分かった。

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