204-勝利は僕達のものさ
オーカが勇ましく宣言した直後、まるで狙ったかのように上空から十数名の竜騎兵達が舞い降りてきた。
『我らジェダイト帝国竜騎兵団! 貴君らに加勢する!』
「おっ、ナイスタイミング♪」
グレーターデーモン亜種が降り立とうとしている場所までの距離がかなりあったので、ここで彼らが参戦してくれたのはまさに渡りに船。
しかしサツキたち全員で戦いに赴くわけはいかず、特に非戦闘員のシエルと彼女を護るために同伴しているレヴィアの両名は確実に避難が必要となる。
というわけで、ここでパーティを分離し、戦いに行く者と避難する者とで分かれることになった。
オーカは先頭をゆく小隊長の竜に乗せてもらい、他のメンバーは街の衛兵とともに避難を――
「やだ!」
しないようだ。
ユピテルはガクリと肩を落とすものの、一度決めたら
『まあ、私が護るっすよ』
「うんうん、よろ~」
まるで遠足気分に見えるものの、実のところハルルの戦力が加わったことにより、これから前線に向かう者達の生存率は大幅に上昇したと言える。
それは何故か?
かつてハルルとフルルの暮らしていた雪山の神殿を、カナタがうっかり吹き飛ばして半壊させたことがあるのだが、イフリートの魔力をもってすれば全壊させて当然の状況だった。
それを半壊に抑えたのは、強い魔力を察知したハルルが咄嗟に防御魔法を唱えたからこそである。
「これで一安心っと」
『サツキちゃん、何か言った???』
「ん~? なんでもなーい」
サツキはあっけらかんと返事しながら鼻歌まじりに竜の背に飛び乗ると、まるでこの状況が自分の狙い通りかのように、フフンと鼻で笑った。
・
・
【時を少しさかのぼり、グレーターデーモンA撃退の少し後】
<聖王都プラテナ北部>
「ふぅ……」
世界最強の攻撃魔法を放ったシャロンは安堵のため息を吐いた途端、酷い脱力感に襲われて膝から崩れ落ちた。
「わあああ、お姉ちゃ……へぶっ!?」
彼女を支えていたコロンは咄嗟に抱き抱えようと頑張ったものの、年相応の非力さゆえに、巻き込まれるようにひっくり返ってしまった。
「あはは、ごめんねコロン」
妹の上に尻餅をついたシャロンは申し訳なさそうに苦笑するものの、完全に魔力が枯渇してしまったせいで、もはや立ち上がる気力すら残っていない。
そんな姉を、コロンは愛おしそうに全力で抱きしめた。
「お姉ちゃんは本当に凄いよ……本当に、本当に……うえ~~ん!!」
「馬鹿ね。どうしてあなたが泣いてるのよ」
「だって~~!」
シャロンはやっとのことで右手を持ち上げると、妹の柔らかな髪を撫でてやった。
……が、その時!!
「ッ!?」
南の空を凄まじい闇の魔力が貫き、轟音が大地を揺らす。
勇者達に緊張が走ったが、魔法の主を察したシャロンはクスリと小さく笑った。
「あの子、なんだかんだ言ってもホンモノの魔王ね。ホント、やり合わずに済んで良かったわ」
ほんの数日間とはいえ、シャロンはオーカと一緒に旅をして、多少は彼女の想いを知ることとなった。
幼い頃に両親を亡くした魔王オーカは、祖先の願いである【世界崩壊の阻止】のため努力してきたこと。
そのうえで、自分が世界を救うには力不足だと嘆いていたということも……。
「あんなのをぶっ放しておいて力不足だなんて、自己評価が低すぎでしょうよ」
「あはは」
と、双子の姉妹がそんなやり取りをしていた最中、他の者達が二人のもとへと駆け寄ってくると、先頭のディザイアが不機嫌そうな顔で空を見上げながら現状を伝えた。
『一戦終わって落ち着いてるトコすまねえが、そろそろ
「……そう」
そして、シャロンが忌々しそうに空を見上げた直後――
【System Message】
OBJ: Greater demon EXTENDED++ (Formatter Lv.255)
BGM: THE LAST BATTLE.
漆黒に染まった空から新たな巨人……グレーターデーモン亜種がゆっくりと降りてきた。
「なるほど、あれが世界を滅ぼす元凶か」
「しかし、あの姿はまるで……」
剣士クニトキはそこまで呟いてから口をつぐむ。
それを見てアインツは首を横に振ると、彼の言葉の続きを口にした。
「美しい純白の翼に、金の糸のような長い髪……。私としても、あの巨人が伝承に残る【神の使い】である可能性は否定できません」
「……そうですね」
神を崇拝する彼ですら認めてしまうほどに、神々しく美しい巨人。
無表情ながらもゆっくりと飛来する様は、まるで人々を慈しむようにも見える。
一方、この場において唯一の天界からの使者であるディザイアは、忌々しそうにそれを見上げていた。
『へっ、あんなの神の使いって言うほど立派なモンじゃねえさ…………って、オイ! マジかよッ!?』
ディザイアが声を荒げたかと思いきや、いきなり猛スピードでスキルを詠唱し始めた。
それについて説明がないことから、一刻の猶予もないことは明らか。
詠唱内容からそれが防御スキルであると察したアインツとコロンも彼に続いて唱えてゆくものの、一足先にディザイアが空に向けて両手を掲げて叫んだ。
『run reflector.x!!』
聴き慣れないスキル名ではあったが、街全体を覆い尽くすほどの巨大な魔力防壁が展開。
さらに少し間を置いてから、二人の詠唱も完了した。
「「セイクリッド・ホーリーシールド!!」」
続いてアインツとコロンの神聖術によって、二層・三層目の防壁が展開され、他の教会所属の聖職者達のホーリーシールドも五層、六層……と次々に加わり厚みを増してゆく。
街の南方からも最下層を補うように水属性の防御魔法が飛んできたのだが、それは間違いなくハルルが放ったものであろう。
直後、空の向こうで凄まじい魔力の波を感じたディザイアは、皆の頭上へと飛翔し大声で叫んだ。
『そこまでだ!! てめえら全員、軒下に飛び込んで伏せろッ!!!』
指示に従い、皆が散り散りに身を潜める。
だが、彼の視界の隅に地面に横たわるシャロンと、姉を避難させようと必死に身体を支えるコロンの姿が見えた。
『クソッ!』
地面を強く蹴って双子の姉妹の前へと跳びだしたディザイアは、アイテムストレージからお気に入りの【闇の大盾】を出現させると、それらを正面に構え――直後、……これまで地上の民が一度も経験したことのない、強烈な衝撃が都市全体を襲った!
上空のグレーターデーモン亜種から放たれた一撃は夜空を真っ白に染め、目を開けていられないほど激しい閃光を放つ。
巨人の攻撃と同時にディザイアの防壁を含む五層までが一瞬で蒸発し、その後も魔力砲撃は止まぬままジリジリと防壁を削ってゆく……。
それから砲撃が止んだ後、視界が回復した皆の目に飛び込んできたのは、ハルルが展開した最下層の一枚だけを残し、他の全ての結界が消し飛ばされた惨状であった。
『……なんつー威力だ。肩書きの
しかも先ほどの光には複数の攻撃属性がミックスされており、ハルルの魔力防壁を貫通した攻撃ダメージによって、街のいくつかの建物は倒壊していた。
ディザイアの大盾も耐えきれず、虹色の光を放ちながら宙に消えてゆく。
そして、再び上空を見上げるとそこに書かれていたのは――
【出力調整テスト コンプリート】
メインモジュール準備完了。
フォーマット実行開始までの推定時間 三十二 秒。
「え、テスト……?」
コロンがシャロンを抱き締めながら、上空に新たに出現した天啓を見ながら呟く。
すると、上空を見つめていたディザイアの右手から大剣がガシャンと音を立てて地面に落ちた。
『すまねえ、ダメだわ』
「!!」
天使であるディザイアが意気消沈する姿とその言葉が、遥か上空の巨人を止める術がないことを示していた。
彼としても、グレーターデーモン亜種がここまで異常に強火力であることは想定外だったのであろう。
沈黙が続く中で、三十一、三十、二十九……とカウントダウンしてゆく値が、終末に向けて時を刻んでゆく。
無言でうつむくディザイアを見たコロンが、ハッとした様子で問いかける。
「あっ、あのっ! 貴方様は……大丈夫なのですか?」
『ん? ああ、俺は
「そうですか……良かったです」
『ッッ!?』
世界の終わりが目前に迫った今も、天使である自分の安否を心配する様は、さすが聖女と言えよう。
だが、その純真無垢な感情に触れたディザイアはギリリと奥歯を噛み締めると、再び地面から大剣を拾い上げて大空へと飛び上がった!
『無駄だって、わかってんだけどなッ!』
ディザイアは、たったひとり猛スピードでグレーターデーモン亜種の前へ向かってゆく!
すると、南方から小さな影がもうひとり飛んできたではないか。
『おやおや、天使様も諦めが悪いっすね?』
彼の前に現れたのは、双子妖精の姉ハルル。
先ほどのグレーターデーモン亜種の一撃を間一髪防ぎ、地上の街に被害を最小限に留めた立役者でもある。
『このまま負けるのがムカつくだけさ』
『同じくっす』
【テスト完了】
メインモジュール準備完了。
フォーマット実行開始までの推定時間 十一 秒。
残り時間は後わずか。
中級天使と妖精のふたりは、発動までの時間を一秒でも稼ぐべくありったけの魔法を叩き込んでゆく。
ほんのコンマ一秒でも、黒幕の企みを阻止する可能性が少しでもあるなら!
――刹那、彼らの後方から凄まじい魔力が噴き上がった。
『回避しろッ!』
『っ!?』
咄嗟に叫んだディザイアに従い、ふたりが離れた直後、地上から放たれた膨大な魔力の塊が
しかも、激しい爆発によって浮力を失ったふたりは地上へと落下してゆく……。
『あわわわーーーーっ! 助けてっす~~~~っ!! …………あり??』
バタバタと慌てていたハルルの背中を、同じくらい小さな両手が優しく受け止めた。
『へ? へ???』
『ただいま……姉さん』
墜落しそうなところを間一髪キャッチしたのは、常闇の世界へと向かっていたはずの双子の妹フルル。
一方、少し離れた場所では、ディザイアも同様に天使セツナによって助けられている様子だ。
『なんでここに居るんすか!? 一体なにがあったんすか!? カナタっちは!?!?』
表情豊かに目を白黒させる姉を見て、フルルは無表情ながら嬉しそうに地上を指差して答えた。
『勝利は……僕達のものさ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます