175-すべての元凶
イヤな予感ほど当たってしまうのが世の常なもんで。
サイハテの街に来て早々、魔王四天王クラウディアと遭遇しただけでもとんでもない話だってのに、まさか魔王まで現れるなんて!
「魔王オーカ……!」
少女を見て愕然とする勇者カネミツの様子に、魔王オーカはフフンと鼻で笑う。
『なるほど。お前が
魔王は倒れたままのレネットをちらりと
『事情は知らんが、礼くらいはさせてもらわねばな』
「くっ!」
その言葉の意味をすぐに察したカネミツ・シズハ・クニトキの三名は、地に倒れたままのレネットをかばうように武器を構えた。
だが、前衛として皆より一歩前へと出た剣士クニトキの持つ剣の切っ先がカタカタと揺れて……いや、震えている。
彼自身も察しているのだろう、圧倒的すぎる力の差を。
『本当ならば、我が城で迎え撃つのが望ましいのじゃが。まあ、こういう運命もあろう』
そして、ピリピリと肌を突き刺すような張りつめた空気の中――
「おにーちゃん、あのちっちゃい子が魔王ってマジなの?」
『!?』
唐突に空気を読まない、ユルい風が吹き抜けていった。
こんなおかしいタイミングに思いきり水を差したのは、言うまでもなく我が妹サツキ。
あまりにもタイミングが悪すぎたせいか、魔王オーカも困惑している。
「しかも、この子の喋り方ヤバいよ! なんとかジャーって言い方とか、まるでハジメ村の漬け物屋のおばーちゃんっぽいし! ……あ、もしかして、見た目と裏腹に中身おばーちゃんだとか?」
『おっ、おおおおっ、おばっ!?!?』
魔王オーカがギョッとした顔になったかと思いきや、ツカツカと歩み寄ってきて頬を膨らせた。
『誰がババアじゃ! まだ我は十一の乙女じゃぞ!!』
「お、プリシアちゃんと同い年じゃーん。あたしの方が年上だよっ!」
『なんなんじゃお前はッ!?!?』
すると、今度はサツキの服のフードの隙間から、にょきにょきとハルルとフルルが生えてきた。
『なんだかんだと聞かれたら』
『答えてあげるが……世の情け……ふふふ』
『!?!?!?』
完全にサツキのペースに飲まれた魔王オーカは、目を白黒させて混乱している。
「ていうか、魔王がなんで街に来てるの? 魔王って、ワイン片手にお城の玉座でふんぞり返ってるもんじゃない???」
『我だって街に出て買い物くらいするわッ!! それに、ワイン片手にとか言われても、酒は苦手じゃ……』
そこからテーマが食事の話へと移り、魔王オーカの好きな食べ物が【りんごのケーキ】だと判明した。
続いて魔王の趣味の話になり、休日はずっと書斎で本を読むインドア派ということも分かった。
「……なんだかなあ」
『ま、まあ、サツキさんらしくて良い……んじゃないですかねぇ』
「うーん」
俺とエレナが苦笑する最中も、あれよあれよと魔王の個人情報がバリバリ露呈してゆく……。
と、その一方で勇者サイドにも変化が起きていた。
『う、うぅん……』
『ねーちゃん! 大丈夫かい!?』
『ユピテルちゃん……?』
今まで気を失っていたレネットが目を覚まし、顔を上げた。
それから、キョロキョロと辺りを見て首を傾げる。
『ここはどこ?』
『良かった! 元のレネットねーちゃんに戻ったぁ!!』
『ひゃあ!?』
ユピテルは感極まって、レネットへと飛びついた!
レネットはアワアワと焦りながらも、最愛の弟に抱きつかれて嬉しいのか、なんとも気持ち悪い笑顔でニヤニヤ笑っている。
カネミツは一瞬だけ迷いながらも、そんな姉弟に向かって話しかけた。
「レネット、何があったか覚えているか?」
『……ううん。あなたに言われたとおり、物陰で様子を
「そうか……」
彼女の性格を考えて、この状況で嘘をつくとは思えない。
とすると、レネットは自らの意志ではなく、何者かに操られたと考えるべきだろう。
しかし、一体だれがどうやってそんなことを?
『はぁ……』
「どしたのオーカちゃん?」
『オーカちゃん言うなッ!!』
ふと気づけば、サツキと魔王のトークタイムは終わり、オーカは勇者達の方を呆れ顔で眺めていた。
『あの状況で、今さら戦えとは言えんではないか……はぁ』
「まあまあ、レネットおねーちゃんが誰かにやらされてただけって分かったんだし、戦わなくて良かったじゃん」
『誰か、か……』
サツキの言葉に、オーカは真っ暗な空を見上げながらギリリと奥歯を噛んだ。
『自らの手を
勇者達と剣を交えようとした時とは違い、一切の笑顔を見せず、明確に敵意を向けてオーカは空を睨みつけた。
そして、彼女の口から出た【ヤツ】の正体に、俺達は絶句することとなる。
『我らを【この世界にとって悪である】と流布したのも、そこのエルフ娘の心を
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