135-隔離小屋にて

【同日 夕方】


<エルフ村 隔離小屋>


 あれから一同は村の入り口近くにある来客用の宿……もとい、ヨソ者を隔離するための小屋にやってきた。

 そして全員が室内に入るや否やサツキちゃんが勢いよくドア閉め、思いきり不満げに襟首を掴んできた。



「超絶アウトーーーーッ!!!」



『えええっ!?』


「っていうか、あそこでマールちゃんのコトを『妹みたいに思ってた~』と言っちゃった時点で論外ッ! 何考えてんのさっ!!」


『フラグ……ばっきばき』


『はあ』


 村に来て早々によく分からない波乱で始まり、ようやく小屋で一息つけたと思ったタイミングでコレである。

 ていうかフラグってなに???


『まだ自分の罪深さを理解してないみたいっすね』


『何が罪なんだよぅ』


 口を尖らせながらぼやくオイラを見て、ハルルはわざとらしく大きなため息を吐いた。


『前にキミらのコトは一通り聞いてたっすけど、要するにキミはあの子の祖父のせいで死にそうになった挙げ句、村から出て行ったんすよね?』


『まあ、そうだね』


 例の件は明らかに自身が被害者だったうえ、カナタにーちゃんの見た「もう一つの世界」では死にそうどころか、レネットねーちゃんに心臓を射貫かれて死んでたらしい。


『で、想いを寄せていた男のコと不本意な形で別れて、二度とえないと思ってたトコにいきなり帰ってきて。それで一年越しの再会からドキドキの展開! ……と思った矢先に、相手から妹呼ばわりっすよ? そんなの一発で心折れるっす』


『う、う~ん……』


 ハルルがメチャクチャ冷静に状況を述べるせいで、自分がとんでもない極悪人に思えてくる。

 ……いや、でも実際レネットねーちゃんとマールは実の姉妹みたいだったし、オイラもそんな感じだったんだからしょうがないじゃんか!


「まあ、さすがにこのまま帰るのもアレだし。ここはあたしが一肌脱いで、せめて関係修復しておきますかね~」


『ここに来る前に、カタを付けるとか白黒はっきりさせるとか言ってなかったっけ? マールと関係修復したら余計ややこしくなっちゃうと思うんだけど』


 すると今度は、フルルがふわふわと顔の周りを飛びながら、眠そうな顔で鼻をつついてきた。


『君が……あの子とくっつくのも……選択肢のひとつ』


『それって、暗に旅やめろって言ってるようなもんじゃないか』


 フルルに少し苦言っぽく伝えたものの、当のサツキちゃんは我関せずといった様子でのほほんとしている。

 その姿を見ていると、なんだか心がモヤモヤする。

 どうしてか理由は分からないけれど、何故か脳裏に一つの言葉が浮かんだ。


『ねえ、サツキちゃんはオイラが村に残るって言っても、なんとも思わないわけ?』


 オイラは少し頬を膨らせつつサツキちゃんにジト目を向けて意地悪な質問をしてみた。

 が、当の本人はキョトンとした顔であっけらかんと答える。


「あたし的には、ユピテルとはずっと一緒に居たいと思ってるよ?」


『っ!?』


 まったく、油断していた。

 サツキちゃんって、こういう子だもんな。

 そういうとこ……ホントずるいよ。


『うひひひ、青春っすねぇ~、アオハルっすねぇ~~。イイ顔してるっすよ☆』


『うっさいな……』


 頭の周りで笑いながらクルクルと飛び回るハルルが憎ったらしい。

 自分がどんな顔をしているのか……そんなの、鏡を見なくたって分かるさ。

 ――と、そんなやり取りをしていたその時!



ドンドンドンッ!!!



『ひゃっ!?』


 いきなり小屋のドアを強く叩く音が室内に響いた。

 まるで蹴破るかのような乱暴な叩き方に、皆の顔にも緊張の色が浮かぶ。


「ひょっとして、あたし達を消しに来た刺客とか?」


『もしそうなら……この村まるごと……氷のオブジェにしていい?』


『ダメに決まってるだろっ!!』


 このままだと、ドアの向こうにいる奴に向かってフルルが攻撃魔法をぶっ放しかねない!

 オイラは被害者を出すまいと、慌てて声の主に向かって駆け寄る。


『もしもーし、どちら様ですかーっ!』


『……』


 しかしドアの向こうから返事はない。


『処す……処す?』


『ダメだってばっ』


 何故かやたら好戦的なフルルを羽交い締めにしつつ、ぎゃあぎゃあ騒いでいると……


『……ユピテルくん』


 ドア越しに聞こえてきた声に、思わず胸が跳ねた。

 慌ててドアを開けると、そこには目元を涙で赤く腫らしたマールが~……って、わわっ!?


『ユピテルくんっ!!』


『むぎゅー……』


 いきなりマールが抱きついてきたせいで、ちょうどタイミング悪くオイラの腕の中にいたフルルが挟まれてしまった。


『タスケテ……タスケテ……』


『きゃあっ、ごめんなさいっ!』


 マールの飛び退いた隙間から這い出たフルルは、無表情のままフラフラとサツキちゃんのフードに逃げ込み、恨めしそうにこっちを睨んできた。

 え、これオイラのせいなの???

 ……って、そうじゃなくて!


『もうすぐ日没だってのに、どうしたんだい?』


『むー……』


 人間の都と違って、エルフの村は夜空を照らす明かりを好まない。

 日没後はどこもかしこも真っ暗になるので、あんまり長く滞在するとマールは村長の屋敷まで真っ暗な中を帰ることになってしまう。


『……してきたの』


『へ?』


家出いえでしてきたのっ! もうおじいちゃんなんて知らないっ!!』


『え……ええええーーーーっ!!?』

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