100-空より舞い降りし巨大な闇
「サンクチュアリ・オブ・オリジン!!」
アインツの放ったスキルは漆黒の闇に満ちた
光の柱は
吹き上がる光は時間が過ぎるにつれてますます範囲が大きくなり、最終的には南西の平原すべてを包み込んでいった。
・
・
『こいつはたまげたな……』
呆然と呟いたレパードの目線の先にあったのは、のどかな平原と澄んだ青空。
さっきまで真夜中のように暗闇に包まれていた世界から一転した様子に、彼だけでなく俺達全員が絶句していた。
『す、凄いです! さすが大司祭様……!』
ライカ王子が興奮さめやらぬ様子で言う姿に、アインツは頬を掻きながら少し困ったよう笑う。
「うーん、凄いのは偉大なる神であって、私が凄いわけじゃないんですけどねぇ」
『おいおいっ。あんだけスゲェ技をぶっ放しておいて、謙遜すんなって』
レパードが自分のことを棚に上げて背中をバシバシ叩いてくる状況に苦笑しつつも、アインツはほと小さくため息を吐き、再び空を見上げた。
「先ほど私が使ったのは、天界にあるとされる聖域をこの世界へと具現化する神聖術です。何度彼らが都を襲おうとしても、聖域に触れた途端、悪魔の世界へ強制送還されるでしょう」
『強制送還?』
「ええ。我々聖職者は殺生が許されませんから。あくまで元の世界へ送り返すだけです」
アインツは軽く言うものの、地上に神の世界を具現化するとなればフルルの空間転移にも近い禁呪レベルの芸当だろう。
かつて世界で最も巨大な教会組織たる聖王都中央教会の頂点にいただけあり、彼の能力の高さは桁外れとしか言い様がない。
「このまま諦めてくれたら嬉しいのですが……」
『甘っちょろい考えだなァ……ま、連中もこれに懲りてすぐには来ねえだろうよ』
レパードが楽観的に笑うものの、俺とエレナは遠く空を見つめたまま、目を逸らさないでいた。
その理由は言うまでも無い。
二人とも"このまま終わるとは思っていない"のだ。
「酒場の一件すらスルーさせてくれなかったわけだしな」
『絶対に来ますよね、これ』
エレナが俺に同調し、頷いたその時――
ピシッ!!!
何かが割れる音が辺りに響くとともに、大空を覆っていた
先程とは真逆で、光で満たされた世界をまるで侵食するかのように闇がジワリと広がってゆく……。
『カナタ先生。……あれが魔王四天王『闇のディザイア』なのですね』
「ああ、アレが"君が倒す予定だったヤツ"だよ」
ライカ王子は改めて真剣な眼差しで再び空を見上げると、自らの勇気を奮い立たせようと右手の拳を強く握りしめた。
――実は今回の作戦を進めるにあたって、俺はライカ王子とレパードに対し、エレナの予言の正体が「俺がかつて見た世界」だと伝えていた。
その際、日記に目を通したレパードが『絶対に王子をウィザードにするわけにはいかねえ』と言っていたのだが、その理由を確認したところ、なんと皇帝陛下の居る場で行われた作戦会議の情報を流出させた犯人が「帝国お抱えの国家魔術師団のトップ」だったからという新事実が判明した。
レパードが言うには……
『野郎は前々からオレらのやることにケチばっか付けてきやがってたが、まさか国の未来がかかってる時にテメェの欲望のために手柄を横取りするとはな。クソッタレめ!』
つまり、ライカ王子がウィザードとして成長すればするほど、自らの野心のために平気で国を犠牲にするようなヤツが、権力と後ろ盾を与える結果になってしまうのだ。
だからこそ、たとえ闇のディザイアを確実に倒せると分かっていても、王子がウィザードに転職する未来は回避しなければならない。
「さて、ここから先がどうなるかは俺にも分からないけど。……ライカ王子はどうしたい?」
俺がやんわりとした口調で問いかけると、王子は凛々しい表情で皆の方へ目を向けて決心を口にした。
『わたし達全員で力を合わせ、この都を護りましょう!』
それから皆へ向けて新たな作戦内容を伝えてゆく……。
『攻守交代しアインツ様は防御結界の維持を、エレナ様を主火力として全員、総攻撃体制へ。そして作戦を変更し……私も戦闘に参加します!!』
王子の宣言にレパードは驚きながらも帝国軍人らしく敬礼すると、少しだけ嬉しそうに笑った。
『……へへっ、まったく隊長が勇敢すぎると、振り回される下っ端は大変だ。オレもちょっとばかし反省しねえとな! ……だが、こういうのも悪くねえっ!!』
そして――
ゴゴゴゴゴゴゴ――……!!
ついに聖域の一部が破壊され、上空の魔法陣から地上に向けて巨大な闇が舞い降りてきた。
漆黒のマントとフルプレートに包まれた巨体は、その姿を見るだけで思わず怯みそうになる程の凄まじい威圧感を放っている……。
間違いない、ヤツこそ魔王四天王『闇のディザイア』だ。
「さあ、いっちょ鬼退治と行きますか!」
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