064-救いのないセカイ6
~廃城から発掘された日記より~
【聖王歴128年 黄の月 12日】
ついに恐れていた事が現実のものとなってしまった。
森の魔物を殲滅すべく、討伐隊が送り込まれる事になったのだ。
しかし、本当に森の魔物達は全て悪しき存在なのだろうか?
確かに巨大なドラゴンに私は誘拐された (今も記憶が不確かで、全て私を騙すための嘘なのでは無いかと疑っている)が、そもそも今は亡き子竜のピートと私は親友同士であった。
例え種族が違えど、きっとわかりあえるはずなのに。
だけどもう私の声は届かない。
誰か助けて……!
【聖王歴128年 黄の月 13日】
中央教会から大司祭がやってきて、ありがたい教えとやらを説いていった。
そんなもの幼い頃から、散々聞かされてきているのに何と今更か。
曰く、神は始めに人を創り、その血肉とする為に動物達を地に放った。
それを横取りするために悪魔の世界から現れたのが他種族で、人の姿を模倣したズル賢い者がエルフやダークエルフなのだそうだ。
……バカじゃなかろうか。
その理屈でいくと、草食動物である森ドラゴンの説明がつかないではないか。
それに、他の動物達の存在意義が私達の血肉にするためなどとというのも、殺生を正当化するための
だけど、今の私がその本音を言ったところで、悪魔が取り憑いただの適当な言い掛かりを付けられるに違いない。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
【聖王歴128年 黄の月 14日】
城に戻ってきた騎士や魔導士達が、今日は何匹ドラゴンを狩ったやら、臨時報酬で夜の酒が美味そうだと楽しそうに会話していた。
何故だろうか。
神に創られし偉大な生き物であるはずの人間達が、酷く醜く見えてしまうのは。
正義の名のもとに、か弱い動物達を痛めつけているようにしか見えないのだ。
もしかして、私は本当に悪魔に憑かれてしまったのだろうか?
わからない、わからない、わからない。
誰か教えてほしい。
【聖王歴128年 黄の月 15日】
何故そこまで東の森に執着するのかと大臣に問いただしたところ、どうやらそこが中央教会が定める『全ての始まりの聖地』であり、私達の魂が天に召される時にそこを通る、というのが理由らしい。
別に魂の通り道なのであれば、森にドラゴンが居たところで何の問題もないと思うのだが、大臣曰く、邪悪なドラゴンに支配された森は瘴気に汚染され、天界へ繋がる門が開かなくなるのだそうだ。
では、実際に誰かがそれを確認したのかと問いただしたところ「そうに決まっています」と意味不明なことを言い出したので、彼の言葉に何の信憑性も無いことだけは分かった。
【聖王歴128年 黄の月 16日】
ついに明日「聖地奪還作戦」が決行されると報告があった。
それはつまり、森のドラゴンだけでなくモンスター達も全て根絶やしにするということだ。
でも、そんなことをすると森の動物達だって巻き込まれてしまうだろう。
それに、秘密のお花畑も……。
ピートとの思い出の場所を誰かに踏みにじられるなんて許せない!
どうにかお父様を説得し、私も現地へ赴くことになった。
私の前で絶対にそんな事はさせない!
【聖王歴128年 黄の月 17日】
聖地奪還作戦なんて名ばかりだった。
あんなものは奪還などではない……単なる侵略と略奪だ。
正義の名のもとに、逃げ惑う魔物達を後ろから襲い
惨状を思い出したくない。
もう嫌だ。
【聖王歴128年 黄の月 18日】
兵士の一人が「聖地らしきものを発見した」を報告してきた。
この男に案内され森の奥で見つけたのは、苔だらけの黒い石板がひとつ。
これを見て周りの者は喜んでいたが、意味が分からない。
■■なモノのために、多く■生き物達が命を散らしたのか?
こんなモノを手に入れるために、美しい花畑は軍足で踏みにじられたのか!?
聖地■こんなに血塗れにして……天がそれを許すのか?
もしそうだとすれば、この世界の神は何と残酷な■だろう。
本当に分からない……。
もう、この日記の続きを書くのは止めよう。
何も信■られない。
■ ■
■
【聖王■130年 青の月 ■■日】
あの日に起こった事の全てが■りだった。
もう一度■り直す事ができるなら。
今度こそ、今度こそ――――――――――――――
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