062-ともだち100人できるかな!
「こんにちはーっ」
突然の来訪者の声に、門番のカルロスは呆れ顔でそちらへ目を向けた。
「また君か……って、おや? 今日は三人なのかい?」
「っ!」
前回はサツキという名の少女と付き添いの男の子だけだったのだが、今日はもう一人幼い女の子が一緒であった。
小さな身体に不釣り合いな程の大きな鞄を背負っている様はまるで行商のようであるが、注目されるや否やサツキの後ろに隠れてしまったので、人見知りなのかなぁとカルロスは少し微笑ましくなる。
だが、門番として彼女達をホイホイと城内に入れるわけにはいかない。
「うーん、前回はルルミフ王女の御厚意で入れたけれど、さすがに二度目はちょっと……」
と、カルロスがそこまで言ったその時――
「えええええええーーーーーっ!?」
通りすがりのルルミフ王女が素っ
その理由は、数日前に島を出たはずのサツキが戻ってきたから……というのも理由の一つではあるものの、ルルミフ王女が叫んだ最大の要因は「三人目の子」の存在であった。
ドドドと音を立てて走るルルミフ王女の姿にカルロスは驚愕する。
「ひ、姫様!?」
「邪魔ッ!!」
ドゲシッ!
ドレスから覗く美しい
『に、にーちゃん大丈夫かいっ!?』
「う、うぅ……」
確かこの二人って恋人同士だったのでは!?
ユピテルは倒れたカルロスに駆け寄ったものの、複雑な愛の形に困惑している。
そんな男二人をほったらかしに、ルルミフは焦りの表情を見せながらも、少し深呼吸してから結論を出した。
「……この方々は
「!?!?!?」
目を白黒させるカルロスを置いてけぼりに、ルルミフは子供達を引き連れて城に入っていってしまった。
◇◇
「我が城の門番が大変失礼しました。彼に代わり深くお詫び申し上げます」
深々と頭を下げるルルミフの姿に、三人目の子……プリシア姫は慌てた様子で首をブンブンと横に振った。
「そ、そんな事っ! あの方は門番として、しっかり職務をこなしていただけでしたからっ。とても誠実な方だと思いますよっ!」
「え、そうですか? えへへ~」
プリシアの言葉に思わずルルミフの頬が緩む。
いや、いくら自分の恋人が誉められたからといって、この油断っぷりとは……もしかして二人の関係って、他の人達にもとっくにバレバレなのでは???
ユピテルはそんな事を思いながらも、黙って状況を見守っている。
「それにしても、ルルミフ王女様はかなり遠くに居たのに、あたしの後ろに隠れてたプリシアちゃんに気づいたの、スゴいねー」
プリシアがいつものドレス姿ならば誰が見ても一発で身分の高い者であると分かるのだが、今日の服は街へ出る為の軽装である。
普段から
「まあ、私も拝見するのは二年ぶりだけどね。顔つきで分かるし、庶民のなりをしているにしても、王族ならではの気品までは隠せなー……って、いま君、プリシアちゃんって言った???」
「うん、プリシアちゃん」
ルルミフが
「我が国でも少々トラブルがありまして……。その際に彼女のお兄様に助けて頂いた御縁から――」
『っていうか、そろそろ出してくれない?』
「!?」
いきなり聞こえてきた声に、ルルミフは慌てた様子で辺りを見渡すが、その姿に再びプリシアは笑ってしまう。
「ごめんね。先に説明しておかないとルルミフ王女が驚いちゃうと思ってたの」
『だったら最初からそう言ってておくれよ』
プリシアの背負っていた大きな鞄から、文句をぶちぶちと言いながら出てきたのは……
「ど、どどどど、ドラゴン!?」
『やあ、ボクの名前はピート。悪いドラゴンじゃないよ』
「は、はあ……」
この雪国にもドラゴンは存在しているものの、人里に現れることはまず無いし、こんなに友好的な竜族種が居るなんて話は聞いた事がない。
庶民であるサツキや子ドラゴンが馴れ馴れしく大国の王女と語り合う姿に、ルルミフの表情には更に困惑の色が浮かぶ。
「確か聖王都プラテナでは異種族と敵対関係にあったはずでは……?」
その問いかけに対し、プリシアの眉がピクリと動いた。
「それも含め、お伝えしたい事があります」
◇◇
東の大国プラテナの人間中心思想による異種族への迫害は、ここフロスト王国にも伝わっていた。
それは、かつて我が国の守り神だったホワイトドラゴンが戦いの果てに力尽きて流され、プラテナ領土である東の大陸に流れ着いた
だが、プリシア誘拐事件を発端として異種族差別を無くそうという動きが強まり、今では彼女自らがその中心人物として活動している。
そして、その誘拐事件を見事解決したのが「神々の塔」の一件にも関わっていたカナタ……つまり、今ここにいるサツキの兄であったという事らしい。
「なるほど。つまり、今回プリシア様がお越しになられたのは、今後の国のあり方を伝えるため……と?」
「いいえ。それが目的ではないですよ」
「はい?」
「先程、私とサツキちゃんの関係を不思議そうに思われていたみたいですし、異種族と敵対関係に~……みたいな疑問を持たれていたみたいなので、その疑問にお答えしただけです。だから"それも含め"とお伝えしたのですけど」
国のあり方を変えたというのに、それが目的ではない?
しかも大国の姫がお忍びで来たにも関わらずだ。
「それでは、一体なにを目的に……?」
「それはですね……。この国が結界を張ろうとしたせいで、サツキちゃんが二度とスキルを使えなくなったと聞いて、一言文句を言ってやろうかとっ!!」
「はい?」
プリシアの言葉に、ルルミフの目が点になる。
だが、言葉の意図を理解してもらえないと分かるや否や、プリシア姫はさらにたたみ掛けてゆく。
「一生涯に渡りスキルが使えないというのは、庶民にとって死活問題です! ハルルさんとフルルさんが尽力頂けるそうですが、いくらサツキちゃんがお許しになったにしても、国家として無責任過ぎると思いませんかっ!?」
「うっ……!」
確かにプリシアの言う通り、先の事件はルルミフの父であるシグルド国王の策略に民間人であるサツキが巻き込まれたものだった。
しかも報酬が「ルルミフとの結婚」であり、サツキはそれを正式に断ったため、一方的にサツキが被害を受けただけの状況だ。
そして、フロスト王国はそれに関する賠償を一切していない……。
その事実を突きつけられたルルミフは、とても申し訳そうに肩を落としながらサツキへ深く頭を下げた。
「重ね重ね申し訳ない……。今さら遅いかもしれないけれど、改めて我が国から正式に謝罪を賠償を――」
「へ? 別に要らないよ???」
今度はプリシアとルルミフの目が点になった。
まさかの返答に、プリシアは困惑しながらサツキに問いかける。
「サツキちゃんっ。じゃあどうして私をここに!?」
「いや、プリシアちゃんが一言なにか言ってやらないと気が済みませんよ~……とか言ったから、連れてきただけなんだけど」
「た、確かにそうですけど……そうなんですけど~~!」
プリシアが何だか釈然しないと様子で唸っているのを見て、サツキはポンと手を打つと思いつきでアイデアを言ってみた。
「それじゃ、ルルミフ王女様もあたしと友達になってくれない? プリシアちゃんも一緒に仲良くねっ!」
「「はい???」」
・
・
・
「てなわけで、お友達が増えたっ!」
「……いやマジでお前、意味わかんねーわ」
サツキが言うには、プリシア姫を連れてフロスト王国に乗り込んだ挙げ句、ルルミフ王女と仲直り (?)させたうえで自分もちゃっかりその輪に加わったらしい。
プリシア姫をプリシアちゃん呼ばわりしてるだけでもヤバイのに、さらに両国を股にかけて交流を広げるとか、本当に意味が分からない。
しかも、プラテナとフロストの両国は正式な国交関係は結んでいなかったはずなので、この冗談みたいな一件が本当に両国の未来を左右する程の影響を与える可能性まであるわけで……。
「つーか、まさかルルミフ王女まで"ルルミフちゃん"とか呼んでるんじゃねーだろうな?」
「あはは、そんな失礼な呼び方しないって。おにーちゃんより少し年上だったから、ルルミフおねーちゃんって呼び方でオッケーもらってきたよ」
「結局、"ちゃん付け"で呼ぶんじゃねーか!!!」
さて、今回も我が妹の暴走っぷりに振り回されてさぞ大変だったであろうと、苦労人もとい苦労エルフなユピテルに目を向けると……
『オイラの話し相手になってくれてありがとうっ。本当にありがとうっ!』
『何だかキミも苦労してるみたいだねぇ。ボクもプリシアに振り回されて大変だからその気持ち分かるよ……』
おてんば娘に振り回される境遇で共感したのか、ユピテルとピートの両名にも異種族同士での友情が芽生えていたのであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます