061-すてきなお話を聞きたくて
【聖王歴128年 黄の月 10日 昼過ぎ】
<聖王都プラテナ 北街宿屋>
聖王都に戻った俺達は、いつもの宿屋で部屋を取り、そのままバタリとベッドに倒れ込んだ。
「みんな、お疲れ……」
かつて俺が書いた旅の記録によると、聖王都に戻ったのは今月18日だったとあるので、つまりは本来よりも一週間以上早いペースで帰ってきたということだ。
正直な話、最後の
「しばらく次の旅まで余裕があるから、とりあえずゆっくり身体を休めよう」
「賛成~」
いつもなら無限の体力を誇るサツキもさすがに長旅で疲れたのか、ぴょんとベッドに飛び込んでコロコロしている。
ユピテルは……ベッドに向かう気力も残っていなかったらしく、リュックサックの上に倒れたまま力尽きていた。
『ここしばらくはずっと忙しかったですもんね。私ものんびりしたいです』
そう言うとエレナは微笑みながら俺の隣に腰掛ける。
水の精霊だけあって海上では常に元気そうではあったけれど、ずっと俺達の体調を気遣っていてくれたので、さすがに疲れているだろう。
「ホントありがとうな」
『えへへ、どういたしまして♪』
嬉しそうにニコニコ笑顔になったエレナを見て和みつつ、ひとまず一眠りしようかと思ったその時――
コンコンコンッ
「……」
「あの、こちらの部屋にー……」
「違いまーす!」
「えええーーっ!?」
用件を伝える前に否定され、ドアの向こうから女の子の動揺する声が聞こえてきた。
……あれ? でも、この声どっかで聞いたことあるような???
「っていうか、その声サツキちゃんですよねっ! ちょっと、開けますよっ!?」
――さて、状況をまとめてみよう。
1.聖王都で俺達の事を知っている。
2.女の子である。
3.サツキの事をちゃん付けで呼ぶ。
つまり、このドアの向こうに居る人物は……!!!
「違いまーす」
「なんでやねん!!」「なんでですか!!」
二人がツッコミを入れた直後、部屋のドアがガチャリと音を立てて開かれた。
『はいはーい、お邪魔するよー』
そう言いながら入ってきたのは、ひょんな事から聖竜と崇められるようになった、元・森の子ドラゴンのピートだった。
となると、その後ろで頬を膨らせているのは……
「ぶー! なんで居ないふりしたんですかっ! ぷんぷんっ!」
このお方こそ、本来ならば俺達のような庶民には言葉を交わすのすら
そんな相手を問答無用で追い返そうとするなんて、このまま斬首されても文句言えないのだが、当のサツキはお構いなしだから恐ろしい。
「だってぇ~、こちとら長旅で疲れてるんだよ~」
「えっ!? そ、それは気が利かなくてごめんなさい……」
「いやいやいや! 謝る必要ないですから!」
一国の王女様に頭を下げさせるとか、それはもっと一大事だよ!
そんな事は知らんとばかりに、サツキは脱力したままプリシア姫に問いかける。
「んで、プリシアちゃんは何かあったの? 従者を来させるならまだしも、自分から宿に来るなんて珍しいよね」
確かに、大国の王女様がわざわざ訪ねてきたとなると、ただごとではなさそうだ。
もしかして、また何かこの国で重大な事件が……?
「え? サツキちゃんの旅の話を聞きたいと思って来ただけですけど」
ただごとでしたー!
「うーん、プリシアちゃんが興味持ちそうな事って、何かあったっけなー?」
『白の勇者ウラヌスが実は影武者だった~って話とか、面白いんじゃないっすかね?』
『エレナが不意打ちで……魔王四天王を撃ち落としたエピソードも……捨てがたい』
「…………」
プリシア姫の目線が宙を泳ぐ。
いや、宙に浮いている姉妹を追尾している。
「あの~……こちらの方々は?」
「へ? ああ、雪の妖精ハルルとフルルだよ。フロスト王国の王様の策略というか、島を護るための結界を張らなきゃいけなくなってね。あたしが白の勇者の身代わりになったら、副作用で魔力が全部なくなっちゃったんだ。だけど、それまでフロスト王国を見守ってた二人があたしを助けてくれるって話になって、ついてきてくれる事になったんだよ」
『情報量が多いよっ!?』
確かにピートの言うとおり、ここ半月ほど国を揺り動かす程の出来事のオンパレードだった。
しかも上の話に加えてアクアリアの一件もあるし、そりゃ疲れるわけである。
「ちょ、ちょっとその話! 私に詳しく聞かせてくれませんかっ!?」
◇◇
『はぇー、いやはやスゴいね。その出来事だけで冒険小説を一冊書けそうだよ』
サツキ目線の
プリシア姫は歌姫マリネラとスイメイの一件についても興味津々ではあったけど、やはりフロスト王国の一連の話は
「確かにフロスト王国は小さな島国ですし、軍隊も非常に小規模だとは思っていましたけど、まさか勇者の力をそのような目的で使っていただなんて……」
勇者の力は本来、世界に危機が訪れた際に人々を護り、脅威を退けるために神が授けると言われている。
今年で聖王歴128年だけど、その暦の始まりは神がこの世界に降臨し勇者の誕生を告げたのがきっかけだったらしい。
つまり、人類は
そんな状況でありながら、国家ぐるみで勇者の力を全く違う目的に使っていたのだから、プリシア姫としては複雑な気分であろう。
「やはり、勇者を犠牲にするようなやり方は……」
「それもですけど、一番はサツキちゃんが巻き込まれたというのが大問題ですっ! しかも、今後一生関わる話ですよ!? 一言なにか言ってやらないと気が済みませんよ!!」
「そっち!?」
国家がどうこうよりも、友達であるサツキが被害を被ったことの方が、プリシア姫的には重要度が上らしい。
と、そんなふうに自分のために怒ってくれるプリシア姫に、サツキは嬉しそうに笑うと何かを思いついたのか、手をポンと打った。
「んー……それじゃ、一言なにか言いに行く?」
「へ?」
そしてサツキはプリシア姫の手を取ると、ハルルとフルルの方を見ながらニヤリと笑った――
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