018-ドラゴン救出劇
「ドラゴンが現れたぞォォーー!!」
「撤退ーーーーーーッ!!」
身を潜めている俺達に気づかないまま、二人組の男が洞窟から走り去って行くと、再び洞窟に静寂が訪れた。
「二人だけって事は……あいつらプリシア姫を置いて逃げたのか!?」
しかも、さっき俺達を飛び越えて行ったドラゴンは全身が真っ赤な警戒色だったので、間違いなく怒り狂って戦闘モードに入っているはずだ。
ドォオオオオオンッ!!!
「キャアアアーーーー!!!」
洞窟全体がグラグラと揺れる程の凄まじい衝撃が響いた直後、プリシア姫の悲鳴が聞こえてきた。
「急いで姫を助けないとっ!!」
俺達が洞窟の奥へと駆け込むと、足に鎖を繋がれたまま泣いているプリシア姫の姿が見えた。
その腕には、ぐったりとしたまま動かなくなった小さなドラゴンが抱かれている。
『ウオオオオオォォォー!!!』
巨大なドラゴンが身体を真っ赤に輝かせながら、姫に向かって体当たりをしようと凄まじい勢いでぶつかって行く!
しかし、姫の目前で何重にも張られた虹色の壁に弾き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられて轟音を響かせた。
「連中が逃げていったのは、あの防壁がある限り侵入されないと分かっているからか……」
俺が呟く横でエレナがプリシア姫の方へ目を向けると、ハッとした顔になった。
『プリシア姫の抱いている子供のドラゴンさん、かなり酷い毒にやられてます! 早く治療しないと、もう……!』
「!!」
さっきからドラゴンが切羽詰まった様子で防壁に体当たりしているのは、プリシア姫を攻撃するためではなく……姫の抱いている小さなドラゴンを助けるためっ!?
「……やるしかねえかっ!」
俺は巨大なドラゴンの前に飛び出すと カバンから投剣を取り出して魔力を込めた。
『ォォォォォーーーーーー!!!』
こちらの姿を見て、ドラゴンは大きく息を吸い込んだ。
あの動きは間違いなく灼熱の炎、ドラゴンブレスだろう。
俺達にはあれを防ぐ術が無いのだが、だったら「その前に対処すれば良い」のである!
「影縫い!!」
洞窟内の松明によって作られた「薄く巨大な影」に向けてそれを投げつけると、ドラゴンは息を吸い込むモーションのまま硬直し、動かなくなった。
ドラゴンは俺を恨み殺そうとばかりに凄まじい剣幕で睨んでくるものの、こちらだって事情があるんだ。
「ちょっとそこのチビ助を助けるから少し黙っててくれ!!」
俺は虹色の防壁に駆け寄ると、両手を当ててみた。
聖なる泉のような上位権限者による行動制限は……無いっ!
「これなら俺の攻撃でいけるはずっ!」
腰の鞘からダガーを抜くと、今度は別スキルを発動するために魔力を込め始めた。
「バイタルバイド!!」
ダガーを防壁に打ち付けると同時に、虹色の防壁が一つ崩れた。
「もう一丁っ!!」
俺が連続でスキルを放つ都度に、防壁が一つまた一つと崩れてゆく。
「おにーちゃん、すご……」
サツキの呟きが聞こえて少し笑いそうになってしまったが、集中を切らさぬよう刃先に魔力を流し込み続ける。
四つ、五つ、六つ……!
「これでラストだッ!!!」
七枚目の魔力防壁を打ち破ると同時に、全ての力を使い切った俺はその場に倒れ込んだ。
「エレナ、後は任せたっ!」
『はい!!』
エレナはプリシア姫に駆け寄ると、華奢な腕に抱かれた小さなドラゴンにそっと両手で触れた。
『その小さなドラゴンさんを、どうにかこちらへ』
「ピート、助かるの……?」
『絶対に助けてみせます!』
優しく微笑むエレナを見て安心した様子で、プリシア姫はピートと呼ばれた小さなドラゴンを抱く両手の力を緩めた。
エレナが目を瞑りながら両腕に意識を集中すると、洞窟の壁がいきなり虹色に輝き始めた。
『アンチドート!!』
魔法の発動と同時に壁の光が弾け、ピートの身体に吸い込まれていく……。
そして少し間を置いてから、鱗の隙間から黒色の
『解毒完了! 続けて行きます……ヒール!!』
続いて回復魔法が発動すると、出血が治まり傷が塞がった。
『もう一度……ヒール!!』
詠唱を繰り返す都度に壁が美しく輝き、エレナの周囲に光が集まる様子はまるで宙を舞う蛍のようで、とても幻想的な景色を生み出していた。
「これは一体……?」
『ここはかつてドワーフ連中が魔法石を採掘していた炭鉱なのさ。あの子の周囲にあるマナの結晶達が呼応してるんさね』
「???」
いきなり予想外の場所から低めの女性の声が聞こえてきた。
って、まさか……!!
『で、アンタ達が悪党じゃないって事は分かったから、そろそろソレ解いてくれるかい?』
巨大なドラゴンがアイコンタクトで自分の影に突き刺さった投剣をチラチラと見ながら、不満そうに語りかけてきた。
その巨体の色は先ほどまでのように怒りに満ちた赤ではなく、薄暗い中でも分かる程に綺麗な緑色だ。
俺の危機感知スキルも一切反応していない事から、このドラゴンの怒りが止んでいる事は明らかである。
『いや、ジロジロ見てないで早くしてくれない?』
「あっ、はい! すみませんっ」
俺は魔力切れで重たい体を引きずりながらドラゴンの尻尾の近くまで行くと、投剣を引き抜いてペコペコと頭を下げた。
そんな俺を見て、巨大ドラゴンは少し炎の混ざった溜め息を吐いた。
『私に状態異常スキルを一発で命中させるシーフに、何故か治癒魔法を使える水の精霊とは、アンタ達は一体何なんだい? それよりも……その子は何でここに居るんだい???』
「その子?」
ドラゴンがチラ見した先に居たのは、我が妹サツキの姿。
うん、確かにね。
「存在意義を否定されたぁー! うわーん!!」
俺の腕にしがみついて泣くサツキをなだめつつ、再びエレナに目線を向けると、ゆっくりと深呼吸しながら両腕を下ろしているところだった。
どうやら治療は終わったらしい。
「ピート……」
プリシア姫は再び腕の中の小さなドラゴンの名前を呼んだ。
しかし、返事が無い。
「ピートぉ……うぅ……、返事してぇ……」
泣きながらギュッと抱きしめると、腕の中で小さなドラゴンが翼をパタパタと振った。
『……ボクはもう大丈夫だよ。だから泣かないで、プリシア』
直後、プリシア姫は
『わぁっ!? 泣かないでって言った矢先に大泣きしないでよーーーっ!』
だけど、当のピートも一緒になって泣き出してしまい、洞窟の中は大騒ぎ。
『いやはや、ガキンチョ達が泣き虫なのは竜も人も変わらんさね』
「はは、全くもって同意するよ」
俺は巨大なドラゴンと顔を見合わせると互いに笑い合った。
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