木造ロボ ミカヅチ

@kasama

第1話 序章

木造ロボ ミカヅチ




♯序章


 人影のない神社の境内に、乾いた風が走り抜ける。


 もう四月だというのに、夕方の空気はまだまだ冷たかった。


 その凍えた外気の中を、生命を持たぬ鉄の獣が歩んでいく。


 大人の倍以上の身の丈がある二足歩行重機――つまり、ロボットである。


その二足歩行重機が二体、夕陽に照らされた鳥居の前で立ち止まった。


 大きな鳥居ではない。


二足歩行重機がくぐろうとすれば、胸のあたりでつかえてしまうだろう。


それでも、神主が常駐していない無人の神社としては立派なものであった。


 だが、二体の重機は、鳥居の大きさになどまったく頓着していない。


二体は地響きを立てながら鳥居の左右に回り込むと、柱をしっかと掴む。そして、何のためらいもなく引き抜き始めた。


 二足歩行重機はもともと土木工事などの作業用に開発された建設機械である。だが、周囲には「工事中」の看板もなければ、立ち会いの神主の姿もない。


 そして何より、鳥居に対する扱いの荒さ、敬意のなさが、彼らの行いが正規の工事ではないことを示していた。


 重機の豪腕により、鳥居の根元はいとも簡単にその姿を現した。二体は、その鳥居を乱暴な手つきで近くの茂みへと放り投げる。


「……やれやれ、あっけないものだ。これが神の棲家だと?」


 二体の重機のうち、黒くカラーリングされた機体から喜悦を含んだ男の声が漏れた。黒い重機はそのまま参道を進み、本殿前へと到達する。


「やはり、この世に神の威光などは存在しないのだ……」


 重機の拡声器越しでも聞き取りづらいほどの掠れ声。


声を潜めているのではない。湧き上がる喜悦を抑えているのだ。


 黒い重機は片手で無造作に賽銭箱を掴むと、後ろに控えるもう一体――紫色のカラーリングの機体に放り投げた。紫色の機体は器用に賽銭箱をキャッチして小脇に抱える。


「……さて、ここからが本番だ……」


 黒い重機が本殿の扉に手をかけた。後背部のエンジンが一層大きな唸りを上げる。


 神の御座す神聖な空間が、今、無機質な重機によって蹂躙されようとしていた……。

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