絶対契約 ~七夕の約束~
空乃ひかる
告白
放課後。
体育館の裏。
体育館内からは、バスケット部のボールを弾ませる音が響く。少し遠くのグランドからは、野球部やサッカー部が気合いの入った声を出し、この場所まで届いている。
その体育館の裏は、その部活に励む人たちから、ちょうど死角となっている。体育館と柵に挟まれた狭い場所には、普段人が通らない証拠に、雑草が生い茂っている。
おれはこの場所で、ミサを待っていた。ミサに告白するためだ。
ミサとは、割りと長い付き合いだ。中学1年生の頃、同じクラスになった。そして、お互いバスケットボール部に入った。
ミサは運動が得意ではなかったが、努力家だった。おれが朝練の30分前にはコートに入って練習していることを知り、同じ時間に来るようになった。小学校からバスケットボールを習っていたおれは、同級生の中ではとびぬけてうまかったことから、ミサはおれにバスケットボールを教えてほしいと言うようになった。それから朝練前練習では、2人で過ごし、教室でもバスケットボールの話題で盛り上がり、おれはミサに惹かれていった。
中学2年生のとき、クラス替えがあり、おれはミサとは違うクラスになった。教室で話すことはほとんどなくなった。部活中は相変わらず、仲良く話し、共にバスケットボールに一生懸命に取り組んでいた。その甲斐あって、おれは男子の部長、ミサは女子の部長となった。
そして中学3年生になり、またも違うクラスなった。そして最後の引退試合が先週の日曜日に終わったところだった。
それから4日間たったのが今日。金曜日の放課後。7月7日。
今日しかないと思った。告白するのは。
部活が終わり、クラスも違う。おれとミサの接点はなくなった。このままでは、ミサとの距離はどんどん遠くなってしまう。そう思い、この4日間は告白しようと、機会を待ち続けた。しかし、土壇場になって、怖くなり、告白できなかった。
――もし、おれの勘違いだったら、どうしよう。
告白の直前になると、すぐにこの言葉が頭を駆け巡る。
バスケを通して、一緒に汗をかき、笑ったり、悔しい思いをしたりした。その時、おれは、この時がずっと続けばいいと思っていた。そして、ミサも同じ気持ちになってくれていると思っていた。
――それが、勘違いだったら、どうしよう。
ネガティブ思考が反芻する。
深呼吸をして、一息。
――いや、信じる。
おれは覚悟を決めた。
そのとき、
「――カケルくん?」
目をつぶり、深呼吸をし、吐いた息が止まった。
「――ミサ」
止まったかと思ったおれの心臓はその直後、激しく、動き出した。目を見開くと、目の前には、おれがここに呼び出した相手――秘織ミサがいた。
肩より少し短いショートカットのミサは爽やかで、白を基調とした夏用の制服が似合っていた。
ミサは微笑えんだ。
「なんだか、久しぶりだね」
「そうだね」
おれとミサはどこかぎこちなかった。
おれは再び目をつぶり、深呼吸をした。
そして、
「ミサに伝えたいことがあるんだ」
高鳴る心臓がさらに加速していく。手の震えがとまらない。口もふるえている。
だけど、ミサをまっすぐ見つめる。そして、ミサもおれをまっすぐ見つめる。
――勘違いだったら、どうしよう。
――いや、信じる。
何度も何度も心の中で反芻してきた言葉を飲み込み、2年以上、心に秘めていた言葉を解き放った。
「――おれ、ミサが好きなんだ」
「――」
全身の震えが止まった。同時に頭が真っ白になった。この先はもうおれには、わからない。この先はミサ次第だからだ。
ミサはこっちをじっと見つめながら、しばし、言葉を失った。その言葉を失っていた時間は、実際は30秒か1分くらいだったかもしれない。しかし、おれには30分にも1時間にも感じるほど、時間が進まず、呼吸ができなかった。ミサとおれは、時が止まったかのようだった。
そして、ミサの時が進みだしたのだった。
「――カケルくん、わたし」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます