第8話

「いいわよー。ほかならぬ妹ちゃんの頼みだし、お姉ちゃん、張り切っちゃうね!」


 あっさり快諾されちゃった。


「……いや、良いのか?」

「あら、アナタだっていっぱい手伝っているから、私が手伝っても問題ないでしょう? アナタばっかり頼られてて、お姉ちゃん、ちょっと寂しかったんだから」


 今、あたしの目の前に広がっているのは、戸惑う義兄さんと、ゆるふわな表情のお姉ちゃんの、心温まるやり取りだった。あたしと言えば、無理だろうなと思ってた頼み事がすんなり了承されて、逆にあわあわしてる。

 

「俺は基本的に、機材貸したりとかの間接的なサポートだけだぜ? お前の『それ』は、プロのガチじゃねえか。下手したらこいつの世界、まるっと食っちまうぜ?」

「あらあら。私じゃなくて、妹ちゃんの世界を心配してたのね。でもお生憎様、私の妹ちゃんはそんなにやわじゃないわよー」

「でもなぁ……」


 あたしはあの他力本願宣言の後、渋る義兄さんを押し切り、義兄さんとお姉ちゃんの家にお邪魔させてもらっていた。


 義兄さん達の家はとある集合住宅マンションの一室だ。そんなに広い訳では無いけれど、手入れが行き届いている落ち着いた場所で、とても過ごしやすい。

 そして今、あたしの目の前にいる、ゆるふわくせっ毛のおっとり美人さんは、あたしのお姉ちゃんにして『ギルド』義兄さんのお嫁さん。


 『夢主ユメヌシ』こと『ユメ』お姉ちゃんだ。


「まあまあ。一度お試しで作ってみて、やっぱりだめー、ってことになったのなら、別の方法を試してみればいいじゃない。それで、どういった人が必要なの? 改めて、妹ちゃんから教えてくれる?」


 お姉ちゃんも、義兄さんと同じ創造神の一柱なんだけど、他の神達と違って、世界の創造自体はそんなにしない方だ。

 実際、お姉ちゃんが作る世界は『基準世界リアル』に近いものがほとんどで、そんなに特徴があるわけではない。


 お姉ちゃんが得意としているのは、人物創造だった。

 それも、ヒロインやヒーローと呼ばれる人種に特化しての。


 お姉ちゃんの作る人物は、ちょっと前までは、それはもう人気だったらしい。

 一時期は、色んな世界の創造神からスカウトされて、引っ張りだこだったという話もあるくらい。

 他の神達から依頼を受けてピンポイントで人物を創造する、いわゆる人物職人さんをやってたんだけど、お姉ちゃんの作る人が出せるって事が、創造世界の評価につながったとか、逆にお姉ちゃんの創造した人物を嫌う創造神の一派もいたとかで、色々大変だったんだって。


 今は落ち着いた生活を送ってるけど、まだまだ依頼は来るみたいで、時折忙しそうにしてる(半年前の焼き肉の時とか!)

 義兄さんとの馴れ初めは教えてくれないけど、夫婦仲はとっても円満。あたしとしては憧れの夫婦って感じだね。


「あ、えっと。こんな課題なんだけど……」


 あたしはかくかくしかじか、課題と作ってほしい人物像について説明した。

 うんうんと笑顔で聞いていたお姉ちゃんだったけど、課題の紙を見せると、ちょっと眉を寄せて困ったような表情になった。

 あれ、やっぱりお姉ちゃんでも難しい位、無茶なヒロインさんだった?


「この課題、妹ちゃんが悪役令嬢をやるのよね?」

「う、うん。指定はされてないけど、『悪役令嬢への転生』が神技で使えるから」

「そう……」


 真剣な表情で考え込んでいるお姉ちゃん。何考えてるんだろう。


「ということは。これはお姉ちゃんの創った子と、妹ちゃんとの直接対決になるのよね?」


 え?


「そういうことなら、お姉ちゃん、全力で行かなくちゃね!」


 花開くような笑顔で手をパン、と叩くお姉ちゃん。

 いや、え、そう言う話じゃないんじゃないかな?


「『神託』だけでの転生ってことは、世界に合わせて、やってるであろうゲーム内容を変えないと困るかしら。『世界なし』にこだわる必要がないなら私の世界うちの子でも良いわよね。あ、ちなみに妹ちゃんにもアナタにも言いたいのだけれど、最近は『世界なし型神託転生』も特に問題なく使えるわよ? 元の世界の需要がそんなにないのも最近の流れなのかしら。――ああ、そうだ、モブちゃんに頼まれてた腹黒系の一途ヒロインちゃんがいるから、その子が丁度よさそうね。ちょっと妹ちゃんの世界のデータを借りるね」

「え、あ、はい」


 言うやいなや、お姉ちゃんは自分の創世機材をヴォンと展開し、猛然とデータ調整に入っていってしまった。

 うわあ、笑顔で鼻歌を歌いながら、手が凄い速度で動いてる! 何やってるのか、全然目で追えないよ?


 ぽかーんとするあたしの肩を、『ギルド』義兄さんがポンと叩いた。


「スイッチ入っちまったら、しばらく戻って来ねえ。そっとしときな」

「う、うん」


 プロは凄いなって思いました。


 あ、ちなみにお姉ちゃんが言ってたモブちゃんというのは、『傍観者転生』こと『モブ』お姉ちゃんのこと。

 メガネの似合うクール美人で、『ユメ』お姉ちゃんの妹にしてあたしのお姉ちゃん、冷静沈着で頼れるお姉様だ。


 あたしは、義兄さんのアドバイスに従って、しばらくの間、ゲームとかをして待つことにした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「調整できたわよー」


 それから、ヒロインが完成されるまでにかかった時間は、わずか数時間。

 お姉ちゃんの凄さを肌で感じつつ、あたしは念願のヒロインをゲットできたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る