ニート死すべし

@yamashirotaro

ニート死すべし慈悲はない

 ニート死すべし。慈悲はない。

 俺はそう思って17年生きてきた。


 そもニートというものはただひたすら家族やら国やら他人の稼いだ金を消費するだけでいかなる生産的な活動もせずただいるだけで周囲の人間をなんだかどんよりした気分にさせる産業廃棄物以下の存在である。

 こんなものは地中深くに埋めてしまった方が人類のためだ。


 一方俺は代々官僚として国家を指導してきた赤池家の跡取りとして、幼いころから一流の教育を受け名門幼稚園から名門小学校、名門中学校、名門高校と順調に人生の基礎を固め各地で高い評価を得てきた。

 最近では人とのつながりも財産も持たずいつ犯罪という形で暴発してもおかしくないような類のクズ人間を「無敵の人」等と呼ぶらしいが、本来は俺のような人間こそ無敵の称号にはふさわしい。

 もっとも人当りも良くしなければ成功は望めない。内心どう思っていようが、俺は外で自分が無敵だなどとは言ったことはない。それはいい。

 そんな俺がニートになるなどありえないが、万一そんなことがあればその日のうちに飛び降りか何かで死ぬだろう。


 そう思っていた俺のニート生活は3週間目に入ろうとしていた。



 ある日突然、通っていた高校に通えなくなった。

 意味もなく家から出たくない。無理やり出たがとにかく足が重い。油断をすると引き返している。なんとか校門の前までたどり着いたがそこまで、どうしても中に入れない。まるで見えない巨人が俺の背中を全力で引っ張っているように最後の一歩がどうしても踏み出せない。

 原因は不明。俺は成績もトップクラス、人間関係はほどよい距離感。いじめなども俺には無縁。ストレスなどあろうはずもない。

 結局、学校を目の前にしながら病欠の電話を入れるのが三日続いた。


 四日目、偉大なる父から電話がかかってきた。

 『遼。月曜から学校を休んでいるそうだな』

 挨拶も何もなくそう切り出す我が父上。

 「は。なんだか夏風邪をこじらせてしまったようでして、父上」

 ふざけているように思うかもしれないが、我が赤池家ではこういう話し方をする。父は赤池家の当主、いわば殿様。子供の頃くだらない悪戯をして腹を切れと脇差を突き出されて以来、俺は徹底的に父を恐れていた。

 幸いザンビアかどこかに長期出張中で家には俺一人、でなければ三日連続学校をさぼった俺はとっくに詰め腹を切らされていただろう。

 『風邪か。そんなもので休んでよい程度のレベルなのか、今の学校は』

 「いえ、決してそのような」

 『お前は私が思ったより軟弱な人間のようだな』

 「はい。まことに申し訳ありません。汗顔の至りです」

 重ねて言うがふざけているわけではない。こういう親子なのだ。

 『明日は、行くのだろうな』

 「もちろんですとも。明日は這ってでも登校する所存」

 『当然だ。あとで診断書をとってFAXするように』

 そう言ってザンビアからの電話は切れた。


 翌日。俺は本当に這って登校する羽目になる。

 校門前でまた謎の登校不能状態になったのだが、通りかかった知人(俺に友人はいない)に恥を忍んで肩を貸してもらいなんとか教室まで入れたが、入った瞬間俺は倒れた。這って自席に向かう俺。遠巻きにして俺を見るクラスメートども。指さして笑うやつ、動画を撮るやつ(死ね)、無意味に泣く女子。何で何かあると女は意味もなく泣くかなぁ。

 結局即保健室を経由して病院に送られ、貧血ということで点滴を受けて帰った。幸い診断書も出たので問題の一つは解決したが、それだけではどうしようもない。

 翌日は家を出たとたんへたりこんだ。これでめでたく1週間連続欠席。


 翌週からは俺は自分に素直に生きることにした。学校に行くことは諦め父上の電話を着信拒否してくらし、今が3週間目だ。

 なんでこうなった。


 やってみればニート生活、一日がとけるように消えていく。スマホをいじり無意味に家の中をうろつきせめて何か生産的なことをと少しだけ勉強や筋トレをしていたらそれで一日は終わりだ。

 世のニートどもになぜか怒りが募っていく。こんな生活が楽しいのか。そして俺も今はニートだと思い出して、少し泣く。


 この頃は食料品もコンビニに行くのではなくAmazonですますようにしている。俺を知っている人に会いたくない。俺はニートだけではなく引きこもり属性もつきつつある。なんでこうなった。


 しかしこうなるとある種気楽ではある。模試も受けなくてよい。受験もしなくてもよい。就職だってしなくていいし官僚になんかならなくてもいい、というかなれない。父上が戻って来るのは半年後。その時立派に腹を切ればそれで済む。

 実に気楽でいいじゃないか。

 なんでこうなった。


 なんでこうなった。何かにつけて俺は考える。

 なんでこうなった。なんでこうなった。なんでこうなった。


 一つ仮説がある。


 俺、赤池遼はとあるニートに呪われている。

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