第21話 突然の現場に
ある朝も明けてない5時頃、昨夜遅くまでの勤務を終えて寝床に江草刑事の携帯に緊急連絡が入り、慌てて車で現場へ向かった。 現場へ向かったのは、都内の鳥谷
越線の線路と歩道との境界の金網前に、一人の若い20代の男性が、血だらけで倒れていたという警視庁の捜査一課の同僚作部刑事よりの連絡からだった。まだ完全に夜が明けておらず少し月が輝いていた冬の5時30分頃だった。里志が、現場に着いたのは、5時35分頃で、もうすでに捜査官約10人と鑑識課の追崎班5人が立ち会っていた。彼は、いち早くに同僚の作部刑事を探し、いつもの黒コートが見え声を掛けた。「あ、作部さん、お疲れさんです。どうですか。ガイシャの様子は。」と。すると、作部刑事は、「あ、おはようございます。江草さん。ガイシャの様子は、鋭いとがったもので、下腹部と背中を数回刺されて出欠多量で、この金網前に倒れたものと聞いております。また、目撃者は、ここを朝方4時ごろ、バイクで通行中だった新聞配達の男性と聞いてます。」と言った。そして、江草刑事は、「ありがとう。」と伝え、現場に倒れていた被害者の男性の様子を見ると、かなりひどいもので、かなり怒りと逆恨みからか相当刺されている状況だった。それから、その現場に手を合わせた。
車で、警視庁ビルに戻ると、この殺人事件の件は捜査一課であたってほしいとの指示で、早速鑑識課の検視の終了を待った。午後に入ってもなかなか検視が終了せず、捜査官の11名は、捜査資料と現場の写真の基本情報のデーター化や、被害者の情報を何人かで急いで整理していた。ようやく、午後1時過ぎに、鑑識課の追崎班が、捜査一課の部屋へ入ってきて、検視が終了したようだった。
そして、捜査一課の捜査会議が始まった。まず、被害者の20代の男性は、都内の品川区焦島町在住の江花 敏行だった。この男性は、都内の私立大学を4年前に卒業し、品川駅界隈のブテイック屋で勤めていた。出身は埼玉県越谷市御津町で、両親は彼がに少し若い頃に交通事故で亡くしていた。推定死亡時間は、午前2時頃で事件に巻き込まれたのは、おそらく11時からこの午前2時までという鑑識課からの報告だった。被害者の検死によると、下腹部を5か所と背中を2回同一箇所刺されたものとも報告された。死因は、出血多量によるものとも発表された。
早速江草刑事は、同僚の作部刑事と共に勤務先の品川駅界隈のブテイック店へと向かった。ブテイック屋は、駅界隈の屋久島商店街の中にあり、なかなか派手な店看板であった。店へ入ると、30代の女性が1人で服を陳列していた。江草刑事は、昨日ここの店員の江花氏が、亡くなった旨を伝えた。
すると、この店員三崎 恭子は、大変驚いた様子で、「え、あの江花くんが。一昨日、いつもと変わるずいたのに。」と言った。江草刑事は、この店員から、江花氏の勤務状況や他の店員との交流関係を聞きこんでいた。そこからは有力な情報は、微塵も得られなかったが、彼が、私立大学時代に、美術学部デザイン部に入っていて大学時代からこの店で働いていたことが分かった。
そして、しばらく店内を江草刑事と作部刑事は、色々とみていた。店には色々な服が陳列されていて、江草刑事は、被害者の生前の活動の様子を想像していた。その後、車で作部刑事と彼の通っていた都内の私立江東大学へと向かった。
被害者江花氏が通っていた私立江東大学は、創立後約40年経ち荒川沿いにあり、5年前に改装され人文学部と美術学部と新しくなったキャンパスで囲まれていた。ふと、江草刑事は、先に歩いていく作部刑事に、一声かけた。「あ、作部さん。先に学務課へ向かっといていただけます。ちょっと車に忘れ物をしたので。」と。
そのまま、作部刑事は、小さくうなずいて先に向かって行った。実は、江草刑事は忘れ物はないのだがどうしても気がかりな校門からの長い階段に座り込んで亡くなった江花氏の写真や先ほど行ってきたブテイック屋から被害者江花氏の生前の様子を垣間見ようとした。
ある日朝早く小鳥のさえずりで敏行は、目が覚めた。そして郵便ポストに走って行った。高校3年の2月頃だった。敏行は、一目散に郵便ポスㇳの中を開けた。一通の大学入学試験結果通知だった。彼が志望したのは、都内の江東大学と埼玉県の暁星大学だった。もうすでに、暁星大学からは合格通知は届いていた。第一志望の江東大学からの結果通知を待ちに待っていたらしく素早く封筒を破り「合格」という文字を見つけ彼は、「ヤッター。」とまだ朝早かったが、上空に拳を突き上げ喜んだ。
そして食卓で食事をとり彼は、埼玉県立布引高校へ自転車で向かった。彼の自宅から自転車で40分程かけて到着した。もう敏行達3年は、卒業していて、1、2年生のみ登校していた。敏行は、校舎に入ると真っ先に白鷺先生を探した。教務課に、敏行が入ったと同時にドア近くに白鷺先生がいた。
敏行は「あ、白鷺先生。おはようございます。あのう。」と言った。白鷺先生は、「あっ江花君、どうしたの。こんな朝早くから。」と答えた。敏行は、「先生、あの江東大学に受かりました。無理かなと思ってたんですけど。よかった。先生。」と言った。すぐに、喜んで白鷺先生は、「え、江花君。あの大学合格したの。すごい。よかったじゃないの。」と言った。
そして、白鷺先生は、応接室のソフャへ江花氏を座らせ、「あ、江花君。あっ、江東大学だったよね。大学入学後何になりたいの。」と言った。江花氏は、「はい。先生。それは。」と答えた。しばらく数十分話し合い江花氏は、将来一生懸命育ててくれた両親の安心する立派なデザイナーを目指すと語っていた。そして、彼は、布引高校を去った。
数十分階段でたたずんでふと目を覚ました江草刑事は、およそ三十年前自分が若い頃私立難関大学を通っていた時に色々お世話になった水泳部部長が「頑張りや、兄ちゃん。」と声がした気がした。もうその部長は、江草刑事が警視庁に勤めてある珍事件が起こった頃に、亡くなっていた。珍事件とはおよそ十年前に都内三協駅界隈で自作自演だった青年の詐欺未遂であった。
その頃青年が逮捕寸前で自殺しようとし救急車で運ばれた先の病院で、偶然その近くの病室にてその水泳部長が息を引き取った。その親族から水泳部長は、闘病が始まってからも必死に最後まで法律学の教鞭をふるまっていたと聞いたことを江草刑事は思い出した。
そうこうするうちに先に学務課に聞き込みに行っていた作部刑事が、「なんだ。江草さん。そこだったんですか。もう聞き込み終わりましたよ。戻りましょうか。」と声を掛けてきた。そして、2人は、警視庁ビルへ向かった。
警視庁へ戻ると、もう時計はすでに7時50分を過ぎていた。ところで、警視庁捜査一課江草仁志刑事は、作部刑事と共に入庁同期であった。江草刑事は、難関私立大学卒業で警視庁入庁後、長年総務畑に所属していた。5年経て、希望通り試験もクリアして、刑事部へ配属になった。一方、作部刑事は、生活安全課が始まりで、ストーカー部門のスペシャリストであった。その後、江草刑事と同じ頃、捜査一課に配属になった。
2人は、戻ってから個々に被害者江花 敏行の周辺の情報収集をしていた。車で警視庁へ戻る途中お互いに疑問に感じることは、毎回会議前に情報収集後必ず解決するようにしていた。
まず一通り2人が、情報収集を終えた9時10分頃ともにうなずき合って「今から始めましょうか。」と、江草刑事は言った。作部刑事は、学務課で学生係の弘前氏からどうやら被害者江花氏は、大学3回の秋10月中頃に両親を交通事故でなくしてから、半年近く大学を休み1年留年していたことが分かった。その確かにまだ大学生だった彼には、相当苦痛だったことが伺えるその空白期間の形跡の調査を明日から交流関係から取り掛かりたいと作部刑事は、言った。
一方江草刑事は、ブテイック屋で彼の交流関係を聞いてみたが、店のオーナー佐枝 まど香さんにもう少し彼のことを聞き込みに行きたいと作部刑事に言った。
翌日から、捜査一課は11名中5人は、まだ新米同然で同行捜査を組み、現場周辺と鑑識班と現場からの追跡を任されていた。一方、江草刑事たちベテラン陣は、単独行動で、走り回っていた。江草刑事は、2日後にブテイック屋オーナーと会い、被害者江花氏の生前のことで聞き込みを行っていた。すると、彼は高校卒業後から、一流のデザイナーを目差していて入店後からも勤務は皆勤で優秀な店員だったらしい。
また、他の店員ともトラブルは何一つなかったと彼女は、言った。さらに、彼のプライべートは、他の店員同様公私混同には日ごろから厳しい店なのでほとんど知らないらしいし、とてもこの事件には驚いていると彼女は言った。
その日の午後警視庁へ戻ると、早速江草刑事は、彼のこのデザイン業界の活動がどうも気になり鑑識班と新米の木崎刑事に彼の部屋からの遺留品を見せてもらえるように指示した。すると、スケジュール帳には、3年前からやはり、沢山デザイン業界の企業の名前やファッションショーの日程が記入してあった。
そのスケジュール帳には、企業全てで24社の名前と連絡先が、ファッションショーに関しては32個記入してあった。全て単独で聞きこむのは、かなり労力を要するので新米の木崎刑事はじめもう一人安富刑事に任せた。
その日の捜査一課の時計の針が丁度5時を指す頃、作部刑事が、戻ってきた。ここ3日間、被害者江花氏の出身校布引高校の担任や大学時代の友人であった2人に会ってきたと話した。その友人のうち潮見佳次から、彼の両親が亡くなった頃に突然夕方ごろ喫茶店で頻繁に死にたいと彼が言って一週間ほど行方不明になったことを聞いたと教えてくれた。
もう一人の友人からは、高校時代の同級生のある女の子と親しかった時があり、何回か彼のアパートにもいてたと聞いたらしい。その女性の件は、同僚の女刑事山縣氏に任せたと作部刑事は、近況を教えてくれ江草刑事も最近の報告をした。
翌日から一週間が経ち、捜査一課は、捜査員11名で第二回捜査会議を開いた。新米の木崎刑事と安富刑事からは、スケジュール帳に記入してあったファッション業界の24社のうち11社を訪問したが、彼のデザイン企画の提出先らしく他も同様に想定できるがもっと絞ってみるとの報告があった。女刑事山縣からは、被害者江花氏の親しかった高校の同級生は、塩見みどりと特定できたが、彼女は2年前ほどに東京の秋葉原のビルから飛び降り自殺したとの驚きの報告があった。遺書関連は、当時の所轄の担当から聞いたが、ある交際男性とのもつれだったが、江花氏ではなく彼女の勤務先の出版企業の方ということが分かった。しばらく、捜査員11名含めなんか変な異様な雰囲気の中沈黙が続いた。
彼と親しく有力な情報が得られそうな交際女性が自殺というケースは過去の捜査にもなく捜査一課全員が次へ進む前に一つ一つ丁寧に処理してくよう認識しなおし捜査会議は終了した。江草刑事は、捜査会議終了後廊下で、山縣刑事を呼び止め彼女の今後の捜査は自分が交代すると伝えた。彼女には自殺関連の件は外した方がいいとの上官からの指示であった。山縣刑事は、また以前の目撃情報や現場関連の担当へ戻るようになった。よく探り当ててくれたので、江草刑事は、「お疲れさん。次は、私がやるよ。」と声を掛けた。
早速、江草刑事は、車で交際相手だった塩見氏の実家のある埼玉県に向かった。すると、実家にはたった一人の祖父がいるだけで、彼女の両親は、昔から病弱で5、7年前にそれぞれ亡くなったと聞いた。彼と同じ出身校布引高校にも寄って聞き込みを行ったが彼女と親しかった人も少なく大人しい生徒だったらしい。また、彼女の高校卒業後の進路は、都内の三季女子大学だったらしく、江草刑事は明日伺おうと警視庁へ向かった。
そうこうするうちに、捜査一課11名が有力な手掛かりをなかな得られず事件発生から1カ月が経とうとしていた。
江草刑事は、交際相手の塩見みどりと被害者は、彼女の大学時代後半2年間付き合っていたことが分かり、彼女とどういういきさつで別れ、社会人時代には、三角関係があったのかつかみきれていなかった。交際相手の塩見みどりを自殺に追いやったとされる出版会社の戸波利亜と会って話をしたが、彼がいわく彼女は大学卒業までつきあっていた人がいたらしく、喧嘩して別れたらしく詳しくは知らないということだった。おそらくその元カレが、江花氏と推定できる。
そして、その出版会社の戸波氏と塩見氏の交際が、順調な最中にこの自殺事件が起こり戸波氏は驚いたと聞いた。遺書には、(今の彼が、何度も私のことをかばってくれない。苦しいので、死にます。さようなら。)と書いてあったそうだった。
江草刑事は、この戸波氏はごく普通のまじめな一般社員で、その後の交際関係からも無難な情報筋からだが全く問題なく、たまたまこの江花氏との交際関係が盲点だったと勘付いた。自殺事件の担当だった所轄の捜査資料にも挙がっていなかった。
そして、自殺現場の秋葉原近辺の高層ビルの屋上へ行ってみた。当時の捜査資料の死亡推定時刻からも夜中11時30分頃から2時の間に飛び降りたらしく、自殺した塩見氏には、相当なことが2年前にあったと考えられると江草刑事はにらんだ。
翌日、江草氏は、塩見氏の勤務先出版会社に連絡して勤務状況の確認をとったが自殺当日と前日も通常通り出勤していたと聞いて、かなり複雑な心境になった。自殺当日勤務終了後5時30分退出してから1時間かかる自殺現場としても死亡推定時間まで5、6時間あるがもうすぐにもこんな高いビルから死ぬことが考えられなかった。自殺より他殺の線はないかと江草刑事は、かなりハードルは高いが江花氏と塩見氏の交際関係の軸からしっかりこの事件の盲点つぶしに取り掛かろうと決心した。
そして、もう一度2年前の自殺現場に向かい管理人室へ伺い聞き込みを行った。当時のことは、完全に自殺と判断がすぐに下されていたので管理人は、少し動揺していた。そして、話をしていくとこの秋葉原の高層ビルの屋上へ行くには、2通りありエレベーターで最上階20階へあがりそこからの階段で行く方法と非常階段で20階まで上がっていく方法であった。非常階段であがることは、かなり考えられないので、エレベーターで当日上へ向かったはずとなり、当日のエレベーターの中のモニターを預かりたいと江草刑事は、伝えた。当日のモニターは、遠隔操作のエレベーター会社が管理しており、依頼して警視庁へ送付すると管理人は言ってくれた。
また、事件当日は特に変わったことはなかったし、当時のテナントリストも入手させてくれた。江草刑事は、警視庁へ戻り、テナントリストを分析したが、事件関連との接点が無く、なぜあの現場なのか疑問が解けなかった。
しばらくすると、新米の木崎刑事が捜査一課へ戻ってきて殺人事件当日の現場にあった靴跡と痕跡から犯人は、足のサイズ27.5センチのスニーカーを履いていた背の高い男性という事が分かり、凶器のナイフは、おそらく刃渡り15~20センチであり今もなおどこへ犯人が捨てたか捜索中と教えてくれた。
なぜこんなに事件当日から1カ月半もかかったかというと線路沿いで、意外と日中は人通りが多く現場検証には、かなり最先端技術の科捜研にも協力してもらったと言っていた。それを聞いて作部刑事と江草刑事は、二人とも顔を見合わせて(これは、かなりのプロ?)と直感でびっくりしていた。
そして、夕方になり、いつもと同様に夜遅くまで捜査一課の6名は話し合っていた。すると、その頃依頼していた自殺現場のエレベーターのモニターが、宅急便で届いた。
そして、すぐに元鑑識課にもいた作部刑事が、手際よくスクリーンに映し出してくれた。江草刑事は、映像が映し出されている間、心臓の高鳴りがしばらくおさまらなかった。自殺の死亡推定時刻は、当時の捜査資料からも11時30分から2時になっていたので、エレベータに乗った中に塩見氏の姿が現れるのは、会社退出後の現地到着6時30分から最終2時までじっくり捜査員全員で映像を見ていた。すると、「ちょっと、止めて」と山縣刑事の声がし、作部刑事は、映像を止めた。丁度映像時刻が、11時24分の表示で映像が止まった。
捜査員全員で、よく見ると塩見氏らしい女性ともう一人若い男性が、乗っていた。そして、江草刑事は、「はっ、これは、やつ?」と思わず声をしていた発していた。
作部刑事も、「えー、。なぜ。やつ?」とびっくりしていた。
驚くことに、塩見氏と映っていたのは、ブテイック屋の店員の一人押山哲治だった。
先日、江草刑事も作部刑事も殺人事件後ブテイック屋に聞き込みに行っていたが、まさかの展開に2人とも驚いていた。しばらく、なぜ、なぜと捜査員全員で、不思議がっていた。
翌日、捜査一課は、映像の分析をもとに、容疑者の勤務状況の裏付けからも十分押山犯行の可能性が高まり、午後1時に、丁度都内の喫茶店で1人でいるところを緊急逮捕した。
そして、取調室では、被害者からの依頼で、交際相手の殺害をしたことと勤務先の店でも日に日に彼の依頼と束縛がエスカレートしていき、とうとう江花氏を殺害してしまったと自白した。そして、この事件は、結末を迎えた。
捜査終了後、江草刑事は作部刑事に、「いやー、無事終わりましたな。何回か二転三転して、考えられない展開でしたな。」と言った。作部刑事は、「いやいや、さすが、捜査のエース江草さんですなあ。いやー、よくやってくれましたよ。自殺も覆って。よかった。よかった。私は、今更なんですが、ファッション業界の取引先の方ばかり追ってましたよ。よかった。よかった。」と答えた。そして、2人は、いつもの居酒屋へ警視庁を去った。
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