第三階層 和服の吸血鬼

城6 地下に和風の空間がある

 プイスの加わった一行は階段を下りる。が、肝心の階段が長い。第3階層までは遠いということか。


「え!? 造りがよくわからない!? 私もわからないんだな!」


 アトゥの後ろでプイスは呆れたように笑いながら言う。どうやら廃城の住人も造りについてわかっていないようだ。いや、プイスが脳みそまで筋肉に侵された、俗に言う脳筋だから、というわけではないのだろうか。

 それにしても、地下にこのような空間があるとは。どうやって作ったのだろう。アトゥにとって、あまり気になっていたことではないが。


「やれやれ、俺はあんまり気にしてないんだが」


 アトゥは言った。


 やがて、ひんやりとした空気が辺りを包み込むようになった。

 これまでの階層とは全く毛色が違うような、厳かな空間だ。例えるなら、神社。暗い空間に置かれた岩。その岩にはしめ縄のようなものが巻かれていた。

 ――世界観が変わってきている。


「今度は和風か。どんな吸血鬼がいるんだろうな?」


 アトゥは付近の様子を探りながら言った。吸血鬼が出てきたらいつでも対処できる。

 これまでにアトゥが活躍することはなかったがここでは――


 ゆらり、と空気が揺らめいた。

 闇の中から現れるのは――


「ちぇすとおおおおおお!」


 闇を裂く声。エリアスやプイスよりも低く、よく響く声だ。そして、闇の中に光る刃物。これは刀か。


 アトゥは腰に差していたジャックナイフを抜くと、振るわれる刀を受け止めた。

 危ない!


「トキサメさーん、その人敵じゃないよ」


 エリアスは言った。

 どうやら刀をアトゥに向けたのはトキサメという名前の男らしい。


「む、これは失敬した。腹を切って……」


「その必要はないよ!」


 プイスはそう言ってトキサメを止める。

 トキサメは渋々刀を鞘に納めた。

 暗い中でアトゥにはよく見えないが、トキサメは黒髪で長髪、和服の男。この階層とも合っている。


「腹を切って詫びよう」


 プイスが隙を見せるなり、トキサメは刀に手をかけようとする。が、プイスの一睨みでトキサメはそれを断念した。


「しかし、なぜプイス殿とエリアス殿がここにおられるのだ。見たことのない二人組まで連れて」


 トキサメは言った。


「俺とプイスはチヌのところに行くし、この2人は炭の首とやらを探しているらしいぞ」


 と、エリアス。


「炭の首か。だっしー殿が何か言っていたようだったな。よく知らぬが」


「DASSYというと、あの案内人……」


 ふと、ペイル・ムーンは言った。

 彼女もやはり覚えていた。そもそも、あのDASSYという人物はインパクトが大きすぎる。喋り方、服装、名前。どれも印象に残さずにはいられないのだ。


「知っておるのか?」


「知っていますよ。第1階層でいなくなったんですけど。知らないですか、トキサメさん?」


 アトゥを置き去りにしてペイル・ムーンは話をすすめる。


「すまぬ、先ほど下の階層に行ってからは何も知らぬのだ」


 と、答えるトキサメ。誤ってはいるが、彼はきっと悪くない。

 アトゥたちにトキサメが合流し、5人は次の階層へとつながる階段へ向かった。

 ……何もありませんように。アトゥはただ、祈る。

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