陸妃/雪幻に温もりを
第407話 陸妃/雪幻に温もりを①
真刃が
天堂院家本邸の一室。
長く美しい黒髪が印象的な和服の少女。
自室にいた天堂院七奈に一本のメールが届いた。
それは短いメールだった。
『新しいスマホ買ってもらった』
不可解なメールだった。
差出人のアドレスも初めて見る。
悪戯か誤送信かと思って眉根を寄せていると、
『ムロ』
差出人の名前だけが後から送られてきた。
「……ああ。お姉さま」
七奈はホッとした。
どうやら異母姉からのメールだったらしい。
突如勃発した
その彼からも数日前に連絡があった。
動乱で行方が不明だった異母姉と会うことが出来たと。
今は異母姉を保護しているとも聞いていた。
ともあれ、本人からの連絡は一番ホッとする。
『ご無事で何よりです。お姉さま』
七奈は早速返信した。
だが、反応はない。
メールでは既読確認は出来ないため、まだ読んでいない可能性もあるが、姉妹としての直感で何となく文字を打つのに苦労しているのではないかと思った。
ややあって、
――プルルルルっ!
スマホが鳴った。
七奈は「これは諦めたな」と思いつつ、通話に応じた。
「もしもし」
『あ。
優し気な女性の声がする。
間違いなく異母姉の声だった。
『元気?』
「はい」
七奈は微笑んで答える。
「お姉さまもお元気ですか?」
『うん。ムロは元気』
確かに元気そうな声だ。
「今はどちらに?」
『ん。今はまだ
姉はそう答えた。続けて、
『今はまだバタバタしているけど、もうじき真刃のお家に行くことになる』
「……そうですか」
七奈は少し複雑な表情を見せた。
予感はしていたが、やはり異母姉は彼に――。
すると、
『ん。ところで七ちゃん』
姉は少しだけ躊躇うような声で、
『実はアドバイスして欲しいの』
そう言った。
そして七奈の予感を確信に変える台詞を姉は告げた。
『あのね。エッチってどんなことするの?』
――と。
◆
陸妃・
彼女に最も相応しい言葉があるとしたら『幻想』か。
年齢は十九歳。
肩にかからないほどに伸ばされた雪の如き白銀の
身長は百五十後半ほど。華奢な四肢に、折れそうなぐらいに細い腰。それに半比例するかのような豊かな胸を持っている。
身に纏う衣装は、ベルトが多数装着された黒い拘束衣である。
その上に花魁を思わせる派手な着物を羽織っていた。
まるで雪妖のような美しさを持つ女性。ゆえに『幻想』だ。
そんな彼女だが、最近は悩みがある。
それも『幻想』とは真逆の俗っぽい悩みだった。
(……むむむ)
美貌に渋面を浮かべる。
ここは彼女の自室。フォスター邸の一室だ。
彼女はベッドに腰をかけて、これまでのことを振り返っていた。
全く予想もしていなかった
本当に混沌とした状況だった。何度も襲撃されて、通りすがりの
けれど、そこで六炉は運命の人とようやく巡り逢えたのである。
彼には想いも告げた。
だが、そこから自分は何をすればいいのか六炉には全く分からなかった。
なにせ、恋愛経験が皆無なのだ。
どうすれば男の人が喜んでくれるのかも分からない。
大きな目標として『赤ちゃん』は欲しいと思っている。
しかし、そもそも子作りとは何をすればいいのか?
研究所で育った六炉であっても、性に関する知識は漠然とした程度にはある。少なくともコウノトリの話は信じていない。だが、具体的なイメージが欠けていた。
思いつくのはキスぐらいまでだ。
それも親愛を示すような軽いキスである。
そこで数日前に異母妹にアドバイスをお願いしたのだが……。
『……えっと』
異母妹はとても困った様子の声でこう答えた。
『そこはもう久遠さまにお任せしてはいかがでしょうか?』
それでいいの?
『はい。その、久遠さまには私からもそういったことをお伝えしたことがあって……』
と、異母妹は少ししどろもどろになっていた。
六炉としては小首を傾げるだけだった。
そうこうしている内に、六炉はこのフォスター邸に来ることになった。
他の妃たちの面通しも済んで、晴れて陸妃となった。
しかしながら、そこから何も進展していない。
おっとりとした性格の六炉だが、流石にこのままでいいのかと考え始めていた。
けど、異母妹が真刃に任せればいいというのなら、そうなのかも知れない。
考えてみれば、まだ六炉と真刃は出会ったばかりなのだ。
お互いのことも、まだまだ知らないことが多い。
急な進展は焦りすぎとも言える。
ここはゆっくりと絆を深めていく時期なのかも知れない。
(うん。きっとそう)
そう思考を切り替えると、六炉はストックしている『豚まん』さんを、もきゅもきゅと食べながら、のんびりと構えた。
そもそも焦るのは性に合わない。根がのんびり屋でもあるのだ。
金羊特製の寵愛権管理アプリ『LovinYou』の使い方も頑張って覚えた。
それも活用して一緒にご飯とかを食べに行けばいい。
そんな風に考えていた。
だが、それから三日後のことである。
六炉がのんびりと構えていられなくなったのは。
――そう。フォスター邸に来て六日目の昼。
事態は大きく変わったのである。
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