七千から十八の処刑台

エリー.ファー

七千から十八の処刑台

 本当に少しだけ、自分の生き方について考えていると、時間が遠く過ぎ去っていくのが分かる。

 私は。そう、魔王だった。

 何か。

 気が付けば勇者に倒されて、そのままどこかに体は飛んで行ってしまった。

 魂は。そう。

 魂は、この場所にいる。

 何もない白い空間。黒い月。赤い星々。

 しかし。

 窮屈ではない。

 広く、そして私のことを受け止めてくれていることが分かる。

 愛されたいと願うことが、私の全てを作り出したのかもしれない。

 詩的な表現だと思うが余り内容はない。

 難しいことを言うのが長の役目ということだ。

 結局、勇者を止めることができなかったので、魔王としての役目は一切果たすことができなかった訳だが。

 目の前には誰かがいた。

 女神だろう。

 死ねばこうやって女神の前に行き転生の準備が待っている。

 こんな面倒なことをして、また生き返るというのもなんというか、避けたいところだ。魔王でありたいと思ったことなど一度もないし、命を願ったこともない。責任を果たそうと思ったことはあるが、それだけだ。それ以上のものはない。

「転生の準備ができました。」

「私は結構だ。」

「何故、結構なのですか。」

「私は別に未練などはない。転生はここで潰えてしまえばいい。それ以上の願いは私にない。」

「貴方が魔王として生まれる、転生前の姿は勇者でした。」

 私は思考を少しばかり停止してしまった。そして、静かに、停止したことはとても幸運であり、正しい選択だったのだと、理解した。

「何故だ。」

「何がでしょうか。」

「何故、言葉にした。」

「そのように語ることが、貴方にとってとても有益であると判断しました。」

「嘘をつくな。」

「では、どのような意図があると。」

「貴様、私をまた、勇者に転生させる気だな。」

「はい。」

「何がしたい。魔物が支配する世界、人間が支配する世界、それを交互に起こすことによって何の意味がある。」

「世界の撹拌です。」

「下らない。」

「世界は、全てです。そのすべての調和のためです。貴方の命は、永遠に、魔王と勇者を繰り返して、世界のために命を永遠に削り続けることになりました。大変名誉ですし、とても、素晴らしいことです。女神としてこんな大役を任せることができることを心より嬉しく思います。感謝しかありません。有難うございます。命を燃やし、人々を死に至らしめながら、その手で魔物たちを経験値という報酬を得るために、無意味に殺し続ける、その行動の全てが、世界を染め上げて、調和を生み出すのです。」

「馬鹿らしい。」

「貴方が一生かかっても理解できない、世界でしょう。しかし、その世界の支配者は誰だと思いますか。」

「貴様だろう。」

「分かっているなら、永遠にその命を捧げ続けよ。聞き飽きるまで何度も何度も繰り返したこの問答の意味を前世の自分に問うてみよ。選ばれたのだから、大人しく、名誉なことであると何も考えずに受け入れるだけでいいというのに、なんとも薄汚れた命だろうか。」

 私は魔王である。

 魔王としての役目を終えたが、心は魔王である。

 プライドは高く、力は強く、部下に慕われ、多くの魔術を使う。

「魔王として尋ねよう。」

「何でしょうか。」

「女神とは何か。」

「貴様の上に常に立つ者。」

 上から光が落ちてきて、私の体を優しく包む。

 今度は勇者になって魔王を殺しに行くのだろう。

 私は、唾を女神の顔に向けて吐き捨てた。

「死ね、クソ女神。」

 女神は微笑む。

 おそらく、私が魔王になって勇者を殺そうとする運命が迫る時も。

 同じように。

 女神は微笑む。

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