転生爆弾サーティーン

烏川 ハル

プロローグ こんな異世界転生は嫌だ

   

 俺が子供の頃には、たくさんのロボットアニメが放映されていた。三つや五つのメカで合体変形するパターンが、特に人気だった気がする。

 小さな子供には、戦闘に至るまでの人間ドラマは理解しにくいし、面白くない。だから「主役ロボの戦闘シーン及び合体変形というモーションで楽しませよう」という制作側の意図だったのだと思う。もちろん「合体変形する高価な玩具を売りつけたい」という、より大きなスポンサーの意図も含まれていたのだろうが。

 そんな『理解しにくいし、面白くない』人間ドラマ部分でも、時には、子供心に強い印象を与える物語があったりする。


 例えば、俺が好きだったアニメの一つに、こんな展開があった。

 主人公たちが毎週がんばって敵を倒しても、人々から感謝されるどころか、逆に「戦闘に巻き込まれて、街に被害が!」「お前たちがいるから、敵が襲ってくる!」と非難されていたのだが……。

 その過程で主人公は、仲が良かった幼馴染ちゃんとも険悪になっていた。幼馴染ちゃんも――お母さんが怪我だか心労だかで倒れた影響で――、主人公たちを非難する市民運動側の心境になってしまったのだ。

 ただし幼馴染ちゃんは毎週登場するレギュラーではなく、でも視聴者である子供たちからは忘れられない程度に出番がある、というサブレギュラー。主人公の仲間であるレギュラーキャラの中に美少女キャラもいたので、子供の目で見ても「幼馴染ちゃんは番組全体のヒロインではなく、あくまでも主人公の相手役」と理解できるようなキャラだった。

 それでも物語が進むうちに、主人公と幼馴染ちゃんは、少しずつ理解し合えるようになってきた。ラブコメとか知らない子供の俺でも「なんとなく、いい雰囲気?」と感じるようになった矢先。幼馴染ちゃんが、敵にさらわれた!

 これが勧善懲悪アニメなら、主人公が颯爽と救い出すことだろう。しかし『主人公たちを非難する市民運動』が描かれるようなアニメだ。そうは問屋がおろさない。

 色々あって、幼馴染ちゃん、自力で脱出! 脱出してきたところを主人公に発見されて、主人公の基地へ!

「いよいよ幼馴染ちゃんも主人公チームに合流して、レギュラーキャラに昇格かな?」

 子供心にもワクワクしながら見ていると、幼馴染ちゃん、主人公の部屋へ。主人公は、家族――基地の人々――に報告のため、部屋を出る。幼馴染ちゃん、一人で待つ間、主人公のベッドに寝転がって、適当に近くの本を手にとってパラパラとページをめくる……。

 今にして思えば、この辺りは、甘いラブコメでも見られるような展開かもしれない。だが残念ながら、このアニメは『甘いラブコメ』ではなかった。

 主人公、勝手に幼馴染ちゃんを基地に連れ込んだことを、大人たちから叱責される。敵が現在実行中の作戦を考えると、大きな危険があったのだ。

「そんな馬鹿な! まさか幼馴染ちゃんが!」

 視聴者と主人公の心の声が一致して――視聴者は主人公よりも情報豊富だったがそれでも気持ちは重なって――、主人公、走って部屋へ戻ろうとするが……。

 間に合わず、幼馴染ちゃんの体内に埋め込まれていた爆弾が発動。哀れ、幼馴染ちゃんは、主人公の部屋ごと爆死。文字で記すと「リア充、爆発しろ」みたいな感じだが、そんな穏やかな雰囲気ではなかった。

 爆発した主人公部屋を含む一区画が、クレーンか何かで基地から撤去される中。その作業を見守る主人公が、涙を流しながら茫然と立ちすくむ、という構図で、この回のエピソードは終わった。


 これが、おそらくこのアニメを見たことない人でも名前だけは知っているであろう、有名な『人間爆弾』のエピソードの一つである。

 そして、この幼馴染ちゃん退場回の一つ前だか後だかにも、やはり『人間爆弾』のエピソードがあった。

 こちらは、幼馴染ちゃんほど重要なキャラではないが、一応は主人公の友人。視聴者目線では「そういえば、こんな奴いたな。見たことあるから、モブではなく名ありキャラだな」という程度のキャラの退場回。

 友人くんも幼馴染ちゃん同様に捕まっていたのだが、たくさんのモブの大人たちと一緒に、敵組織から脱出。でも聡明な大人たちは、人間爆弾の一人が爆発する瞬間を目にして「もはや自分たちは爆弾になってしまった!」と理解。「家族のところへ戻りたいが、それでは迷惑がかかる」ということで、無傷の人々からは離れた場所で爆発するために、海辺に集まる。

 大人たちの話を理解して、友人くんも海辺へ向かうのだが……。

「やっぱり嫌だ! こんなところで一人寂しく死にたくない!」

 友人くんの悲壮な叫び。

 子供時代の俺は「一人じゃないよ、モブの大人たちが一緒だよ」とテレビに向かって言いたかったが、そういう意味ではないことも、今ならば理解できる。

 友人くんは結局「おかあさーん!」みたいな言葉を叫びながら、大人たちと一緒に爆死。幼馴染ちゃんほどの積み重ねはなかったが、絵的には派手な最期を迎えたのであった。


 そんな感じで。

 とにかくこの二週間は、いつもは人間ドラマパートなんて記憶に残らないような幼児にも、強烈な印象を植え付けたものだ。

 そして。

 なぜ今、俺が、こんな『子供の頃に見たロボットアニメ』を思い出しているかというと……。


 真っ暗闇なのに、なぜかそこにいる者たちの存在は認識できるという、不思議な空間で。

 この異世界に転生してきた俺たち十三人を前にして。

 俺たち十三人を転生させた張本人である魔王が。

 次のように宣言したからだった。

「貴様らの使命は、余を滅ぼそうとする勇者の抹殺だ。猶予は十三年。十三年以内に使命を果たせぬ場合、貴様らの魂にセットされた爆弾のスイッチが入り、再び貴様らは死ぬ。十三年だ、くれぐれも忘れるな! 死にたくなければ、勇者を倒せ!」

   

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