青にまつわる物語

つきの

第1話 紺碧

 太陽が眩しくて日傘越しに目を細めた。

 何処までも広がる青空には雲一つない。


 一時間ほど冷房のあまり効いていないバスに揺られ、こめかみを伝う汗をハンカチで何度も抑える。グッタリした頃に峠の停留所に着く。


 バスを降りて蝉の声を背負うように聴きながら坂道をのぼる。

 草木の緑が深く濃くなってきて、山からの風が汗ばんだ頬を撫でていく頃、わたしの生まれた家が見えてくる。


 手前にある道祖神どうそしんに手を合わせて

「今日も参りました。いつもありがとうございます」


 無神論者がおかしなことだが、これは幼い頃からの習慣。

 願いではなくて山の子としての感謝。

 鳥のさえずりが天上の歌のように頭上から降り注ぐ。


 玄関の前に立ってチャイムを鳴らす。

 遠くでテレビの音が聞こえて、ゆっくりと少し引きずるような足音が近づいてくる。


「ただいま」


 仏頂面が当たり前になっている父が言う。

「冷たい麦茶あるぞ」


 今日は泊まっていくね、お父さん。

 わたしの手料理じゃ口に合わないかもしれないけど。


 たまには仏壇のお祖母ちゃんやお母さんを交えて昔の四人家族に戻って。

 夕食には冷たいビールで乾杯なんてどう?

 ほらほら、そんな難しい顔しないで。


 紺碧こんぺきの空にいつの間にか白い雲ひとつ。

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