第一話 大森君の平穏
俺は今、クラス中、いや学校中の注目を背に受けている。
理由は俺の正面で顔を赤らめている美少女、夏川美桜にある。
この女が俺を呼び出し、こうして晒しているのだ。
「あ、あの……大森君。私、じ、じつは……大森君のことg」
「あ、ごめん。俺、妹のお遊戯会見に行かなきゃだから、また今度でいい?」
「え……あ、そうなんだ。それはごめんなさい……」
「全然。気にしなくていいよ!」
大きい瞳に涙を浮かばせた彼女に、俺は爽やかスマイルでフォローを入れる。正直もう今後こんなことをしてほしくない。学内一の有名人の夏川が、同じく不本意ではあるが有名人である俺を教室に呼び出すとは。そりゃ話題にもなりますよ。
目下、俺たちは大勢のギャラリーに囲まれている。新聞部が写真や記事を必死に作り上げているのが、生徒の隙間から見える。メンドくせぇ……。
さらに問題なのが夏川の呼び出し方だ。
「何でわざわざ放送で呼び出したの?」
「それは……どうしても伝えたいことだったから……」
頭おかしいだろぉ⤴。天然どころじゃねぇ、常軌を逸してる。目立ちたくない俺にとって夏川はいわゆる天敵である。
「それじゃ、もう帰るね」
「ああ……はい……。さよなら」
「うん、じゃまた明日」
外面をなんとか繕いながら教室を出る。目線が集まってくるのが手に取るように分かる。そして俺は自らの失態に気づく。
「今日、金曜日か……」
俺は家に直帰した。家はいい。もっとも落ち着く場所であり、くつろげる空間だ。いつまででも居たいと思える。ん?お遊戯会?ありゃもちろん帰るためのハッタリだ。妹は実際にいるがもう中学二年で特別仲がいいわけでは無い、と思う。周りには互いにシスコン、ブラコンと思われているのだが。ただ一点、小さいころから俺を『お兄』と呼んでくるのは何故だか知らんがマジでかわいい。
しかし、年ごろの乙女だ。家にばかりいる兄がコンプレックスですらあるのかもしれない。
しかし最近の学校生活は疲れる。特に夏川が俺につきまといはじめてからは……。
理由は不明だが、学校一の美少女に好かれるというのは本来喜ばしいことではあるのだが、俺にとっては真逆だ。悪目立ちなんかしてたまるか。
だからといって恋愛が悪いとかくだらないとか、そういった価値観を持ち合わせているわけでは無い。俺にも好きと呼ぶには早熟だが気になる人はいる。
俺のクラスで三番目にカワイイ(大森調べ)女子、加藤夏乃だ。
でも今みたいな状況じゃ、うまくお近づきになれないなぁ。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。
ピンポーン。
初夏の日差しと小鳥のさえずりに包まれながら、ソファから身を起こす。
誰だ?土曜の朝から……。と、思ったがリビングの壁掛け時計は既に12:20を示している。
「はいはい、どなたですか?」
目をこすりながらドアを開けた俺は一瞬で目を見開いた。
「こんにちは、夏川です」
「え……、どして俺んちに?なんか用かな?」
「あ、いえ……。昨日、『また明日』と言っていたから……」
これは面倒なことになりそうだ。
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