メール・短大生・運命

 僕は今、一通のメールに心を惑わされている。


 メール会員になっているレンタルビデオ店とハンバーガーチェーン、それと母親からの連絡しかこない携帯電話。その中に紛れるかのように、見覚えのないアドレスから、身に覚えのないメールが届いていた。


 生まれてこのかた二十余年、異性から好意を寄せられたことなぞ皆無だった。好意どころか、メールや電話といった連絡すら寄せられたこともない。そんなモテない僕にとって、女性からのメールというのは、どこか神聖なものに見えるのだ。人というのは得てして、未知や未経験のものに畏怖の念を抱くものなんだろう。


 人生の初の女性からの、人生初の好意を向けられたメール。

 もう、何度読み返したかわからない。読めば読むたびに、顔も知らぬ彼女への慕情が沸き起こってゆく。


 どんな顔をしているのだろう。

 どんな声をしているのだろう。

 どんな笑い方をするのだろう。

 どんな趣味があるのだろう。

 どんな、どんな、どんな――


 僕のどんなところが、好きになったのだろう。


 ――彼女のことをもっと知りたい。


 僕を好きだと言っていれる彼女を、好きになりたい。

 その一心で、僕は再び彼女からのメールを一読した。





『From:*****@*****.jp

 件名 :あなたのことを考えると体がうずいて仕方ありません…

 本文 :

  突然のメール失礼します。私はミホといいます。短大で福祉を学んでいる、

  19歳です。実は…、前に街であなたを見かけた瞬間、あなたのことが気になって

  仕方がありません…。これは運命だと思って、色々なツテを使ってアドレスを

  りました。あなたともう一度会いたくて、会いたくてどうしようもなくて…。

  こんなこと、いきなり言われても気持ち悪いですよね…、ごめんなさい。

  でもあなたに会って以来、体が火照って、うずいて、悶々として夜も眠れない

  んです。エッチな女の子でごめんなさい…。

  どうか、私と会って、うずいた体をめちゃくちゃにしてください…。私の恥ず

  かしい写真をこっそりと載せているSNSがあるので、興味があったら返信くださ

  い。どうかお願いします…。

  

 http:///********.*****.***** 』



 それから十分後、僕は百通近くのメールに心を惑わされている。

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