凍てつく剣に手を添えて
発芽玄米
プロローグ
もう6月になり蒸し暑くなってきたので、日陰が多いこともこの裏道を使う利点だった。
いつものように歩いていると、何やら古ぼけた本を見つけた。思わず拾い上げてマジマジと眺める。
「何だこれ、趣味の悪い表紙だな」
これを買ったやつは相当な変人に違いない。順一はそう確信した。そうやって観察していると、うっかり手を滑らせて本を落としてしまった。
「あっ、やっべ」
落とした拍子に本が開いて、中に見たことのない文字がびっしりと書かれているページが目に入った。順一はとりあえず本を拾い上げようと手を伸ばす。
その途端、本はまばゆい光を放つ。思わず目を閉じ、手を引っ込める。しばらくすると光は消えたが、少し目がチカチカする。
気を取り直し、本をもう一度手に取ったが、今度は何の変化も見られなかった。
「ははっ、さっきのは気のせいだな。本が光るなんて馬鹿なことがあるもんか
まあいいや、とりあえず後で交番にでも届けておくか…」
自分に言い聞かせるようにそう呟いた後、腕時計を見てギョッとする。思ったよりも時間が経っていたらしく、始業まであと5分もない。
「……交番に行くのは放課後でいいよな」
順一はカバンに本をしまい、一目散に駆け出した。
◆◆◆◆
学校に着くと、もう先生が朝礼の準備を始めていた。ギリギリセーフだ。少し息を切らしながら席に着き、緑茶を一口飲んだ。
「おはよう、今日からこのクラスに留学生が加わるぞ。入ってきてくれ」
…留学生?ずいぶん微妙な時期に来たな。順一は首をかしげる。クラスみんながざわついている。みんな順一と同じ疑問を持ったのだろうか。多分留学生がどんな人なのかという話だろうが。
前の席の山田も留学生は女の子だったらいいな。と、言っている。順一も賛同する。
しばらくして教室の戸が開く。入ってきたのは鮮やかな赤い髪を三つ編みにした碧色の瞳を持つ少女だった。
「皆さん初めまして。レイラ・シルビエです。フランスから来ました。日本語は自信あるので気軽に話しかけてください。これからよろしくお願いします!」
明るくハキハキとした印象だった。自信があると言っていたが、ペラペラを通り越してもはや昔から日本に住んでいたのではないかと思えるレベルだ。
「というわけで、仲良くしてあげてね。じゃあ、レイラさん、あそこの窓際の席―涼城君の後ろ。あ、あそこで手を振ってる彼の後ろの席があなたの席になります」
「ありがとうございます。アズマ先生」
お辞儀をするとレイラは御誂え向きに用意されていた順一の後ろの席に座った。その後朝礼はすぐに終わり、レイラが順一の肩を叩いた。
「よろしくねスズシロくん」
そう言って手を差し出してくるレイラの笑顔は先ほどに比べて少し強張っているように感じた。
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