めいどかふぇ その13

 さて、話も終わったみたいですし私達も席に戻りま……あ、無理ですね。


「〝いつき〟にゃん? この店には、お客様に同伴してトイレに行くようなサービスは存在しないのだけどにゃ?」

「は、萩宮さん……!?」


 ふぅ、危ない。やっぱり狭いお店の中でストーカーするのは命懸けですね~。


 さて、こうなるとしばらく戻れそうにないですね。機を窺う事にしましょう。


「いえ、あの、これはですね、このバカの逃げ場を潰すにはこの方法が最善だと考えただけであって」

「樹々君、発言が余計に犯罪者に傾いてるよ? 捕まるよ? リアルに」

「確かににゃ。……まぁ、冗談だけどね」


 まどかちゃんが口調を崩し、朗らかに笑います。


「ウチもこのオカルト好きに苦労させられてきた身だ。頑張れ、〝いつき〟ちゃん」

「ありがとうございます……!」


 なんか不当な扱いを受けてる~、と不満げにこぼす毬夢ちゃん。まどかちゃんが彼女に向き直ります。


「さて……サプライズ来店、どうもありがとう毬夢。〝いつき〟ちゃんが精いっぱいおもてなしをしてくれるから、是非とも楽しんでくれ」

「……えぇと、まどか? 何かニヤついてるように見えるのは私の気のせいかな?」


「ふふ。先日の電話の時も思ったが……どうやら中学時代と違い、オカルト〝だけ〟が恋人じゃなくなったようだ。友人として嬉しく思うよ、毬夢」

「なっ、何の話か、分からないにゃ?」


 何故か猫化する毬夢ちゃん。ドッペル君が首を傾げます。


「なんだ、お前もここで働きたいのか? メイド服も似合いそうだけど」

「ウチもそう思ったから誘ってるんだけどね……そうだ、一つ訊きたいんだが。私の担当しているテーブルのお客様が戻らないんだが、知らないかい? 〝いつき〟ちゃん」

「……? いえ、知りませんけど」


 ここにいま~す。……って出ていけたら苦労しないんですけどね。


「そうか。じきに料理が仕上がるから、そろそろテーブルに戻って欲しかったのだけど、トイレここじゃなかったか」

「外で電話でもしてるんじゃないの?」

「かもしれないな。片方の子は、何と言うか可愛らしいのだが不思議な子でね。変な場所に迷い込んでるかも、とふと思ったが、考えすぎか」


 不思議な子、ですかぁ……ねぇ、何を笑ってるんです? つねりますよ?


「まぁいいか。〝いつき〟ちゃんもそろそろ戻らないと、連れの子に怪しまれるないかな?」

「そ、そうですね。おい毬夢、戻るぞ」


了解ラジャー! ふふふ、これから莉央の痴態が見れるかと思うと胸が躍りますなぁ……!」

「にゃんにゃんを痴態って言うな。俺もお前もやるんだよ、後で」


(つーか、発言がただのおっさんだなこいつ)


 む、最後の言葉を心の中だけに留めたのは、言ったら怒られるかも、と思ったからですかね。ドッペル君も毬夢ちゃんの扱い方が分かってきたようですね~。


「ふふ、仲睦まじいようで結構だが……〝いつき〟にゃん。分かってるとは思うけど、店内ではしっかり、な?」

「っ! わ、分かってますにゃ!」


 慌てて頭を下げたドッペル君が、毬夢ちゃんと一緒にトイレを出ていきます。まどかちゃんも個室に入ったので……うん、大丈夫そうですね。


 ふぅ、隠れてばっかりでちょっと体が痛くなっちゃいました。これ以上まどかちゃんに怪しまれないように、私達も早く戻りましょう。

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