すとーきんぐ その13

 あら? 考え込んでいた樹々君が、なんかいきなり笑い始めましたよ? 怒ったり笑ったり、ちょっと情緒不安定です?


「……そうかあの野郎、ようやく、ようやく莉央をデートに誘えるようになったか……!」


 う~ん、あれは喜んでるんでしょうね。どう言えばいいのか……我が子の初めてのおつかいを見守る親、みたいな気分なのでしょうか。多分、デートする当人達よりもテンション上がっちゃってます。


 ん? ドッペル君は樹々君と莉央ちゃんが一緒にいるのを嫌がってるんじゃないか、ですか? いえいえ、逆ですよ。ドッペル君は、ヘタレな樹々君が莉央ちゃんともっと仲良くなれるかが心配で、こうして尾行して見守っているだけなんです。


 ドッペルゲンガーなのに、過保護なんです。この辺りは本物の樹々君の優しさを受け継いでるって事なのかもしれませんね。 


 と、毬夢ちゃんが、ちょっと違うっぽいよ、と言葉を継ぎました。


「聞いた話じゃ、莉央主導で話を進めたみたい。ほら、莉央ってあんなガサツな男勝りのくせに魚とか好きじゃん? 水族館に行きたい、って樹々君を無理やり説き伏せたって」

「あのヘタレ野郎! 男が女にデートの主導権を握られてる場合か!」


(情けない 情けないったら 情けない)


 あらあら、ドッペル君ってば情緒の欠片もない俳句を作っちゃうくらい怒っちゃいました。まぁ確かに、デートの誘いくらいは男の子の方からして欲しいですよね~。


「ふん……まぁいい。それならそのデートも尾けてやるだけだ」

「ちょっと樹々君? 自分のオリジナルが相手とはいえ、他人のデート、しかも初デートを尾行するのは趣味悪くないかな?」

「俺だって無粋な事は分かってる。けど、あいつがいつまでもヘタレなのが悪い」


 あ、ドッペル君、すごい悪い顔になってます。本物の樹々君と別人ですね、ここまで表情が違うと。


(あのヘタレ野郎がヘタレないように、目を光らせるだけ。俺は2人が上手くいくように見守り続ける。俺がドッペルだと分かったあの日から、そう決めたんだ……!)


 なんかいい感じな事を心の中で呟いてますけど、生涯ストーカー宣言ですよね、今の。

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