すとーきんぐ その12

 樹々君と莉央ちゃんの姿が見えなくなった頃、なるべく動かないようにしていたドッペル君と毬夢ちゃんが少しだけ動きました。


(もうそろそろいいだろ……、……?)


 どうしたんでしょう? ドッペル君がなんか戸惑ってます。


 あ、どうやら毬夢ちゃんが口を塞ぐ手をどけてくれないみたいです。毬夢ちゃんは小さく笑みを浮かべていますね。


(なるほど……さっきのお返しって事か。この俺にお前の手を舐めさせる、という屈辱を味わわせようって魂胆だな……だが!)


「ひゃっ」


 あらあら、ドッペル君は毬夢ちゃんの細い腕を掴み、少し強引に手を外させました。毬夢ちゃんは痛そう、と言うより、不満げな顔で頬を膨らませます。


「……何でぺロぺロしてくれないのさ」

「その発言、だいぶ危ないからな? お前さっき、純潔がどうとか言ってたろ」


「一度穢れちゃったら、後はもう穢れ放題かなって」

「意味分かんねぇ。俺が舐めたら、なんつーか一気に犯罪集が増すだろうが」


 どうなんでしょう? 本人が舐められるのを望んでいるのであれば、別に問題はない気もします。……ま、本当に舐めたら引きますけどね、私なら。


 それより、とドッペル君が話題を変えました。


「さっきのデートとやら、詳しく聞かせてくれよ」

「……別にいいけど」


 やっぱり不満そうですけど、毬夢ちゃんはドッペル君と向き合います。


「来週の日曜日、一緒に水族館に行くんだってさ。ほら、来週の水木金が中間テストだから、その打ち上げ的な感じでパーッと、って言ってた」

「水族館? それって、ここからちょっと遠くないか?」


「遠い、って言っても電車で数駅でしょ? すぐじゃん」

「それもそうか……」


 この辺りって特に都会なわけじゃありませんしねぇ。休みの日の学生さんは、娯楽を求めて遠出をする事が多いらしいですよ?


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