すとーきんぐ その7

 さてさて、ドッペル君と毬夢ちゃんを追って河川敷にやって来ました。河川敷の傍には遊歩道があって、まばらに人が行き交ってますね~。


 空には夕焼けが広がっています。橙色に染まる世界……いいですね~。なんかロマンチックです。


 2人が尾行している樹々君と莉央ちゃんは、河川敷と遊歩道を繋ぐ緩やかな坂に座ってます。ぼーっと川の方を見やりながら、ぽつぽつと言葉を交わしてますね~。


 夕日に照らされてる感じも相まって、なんて言うか、カップル、って感じです。ちょっと憧れちゃいますね。


「ちっ……幸せ感じてんじゃねぇぞ。尾行する身になれちくしょう」


 あらあら、ストーカーさんが何やら理不尽な事を言ってますよ~?


「あはは、文句言わないの。って言うか、幸せ感じてるって何?」

「何となくだけど、分かるんだよ。俺はあいつのドッペルだからな」


 なるほど。まぁ、当然と言えば当然ですね~。


 ドッペルっていうのは、ドイツ語で〝分身〟って意味なんです。そのおかげか、ドッペル君はオリジナルの樹々君にそっくりな姿形をしてますし、知識、技術、記憶みたいなものも、完全にとは言えませんけど受け継いでいるようですよ~?


 まぁその割には、女の子みたいに大人しいオリジナルの樹々君と似ても似つかない口の悪さですけど、ドッペルでもそれくらいの違いは出るんでしょうね~。


 ……え? どうしてそんな事を知ってるかって? うふふ、どうしてでしょうね~?


「そんな事よりも……どっか隠れる場所探すぞ。ただでさえ開けてる場所なんだし、簡単に見つかっちまう」

「そだね。あ、あそことか良くない?」

「ん? おい、毬夢」


 うん? 毬夢ちゃんがドッペル君の手を引いて歩き出しましたよ~?


 その先には、初夏の空気に当てられて緑が生い茂り始めた林があります。いわゆる防風林、ってヤツですね~。


 毬夢ちゃんはその中から幹が太めの木を選んだみたいです。ドッペル君を連れてその陰に滑り込み、ぴったり張り付いて隠れました……ですけど。


「待て毬夢。この木、他のよりは確かに太いが、それでも細いぞ。見つからないか?」


 ドッペル君の言う通り、隠れ切れてませんね~。まぁ防風林ですし、樹齢うん百年の霊験あらたかな巨木とは訳が違いますよね~。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る