すとーきんぐ その6

 むぅぅぅぅぅぅぅ! と何やら本気で唸り始める毬夢ちゃん。これ、ふつーに通報してもいいヤツですよね……あ、ストーカーをぶちのめそうと意気込んでいた莉央ちゃんが、樹々君の説得に白旗を上げたみたいですよ?


「ま、いっか。よくよく考えたら、こんなとこでストーカーするバカもいないわよね」


 いますよ~? ここに。バカが約3人ほど。


「そう、だね。ストーカーだとしたら僕らが2人の間は何もしてこないと思うし、もしも何かされても僕が頑張って莉央を護るから」

「~~~~~っ、す、すらっとクサいセリフ言うなし!」 


 あぁドッペル君、舌打ち我慢して! バレちゃう、バレちゃいますから!


 幸い、2人はそのまま歩みを再開しました。丁度商店街に足を踏み入れていきます。ドッペル君が大きく溜息をつきました。


「はぁぁ、いきなりこっち見んなやヘタレ。心臓に悪」

「むぅむぅむぅむぅむぅむぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「うぉっ!?」


 ドッペル君が、毬夢ちゃんを放り出すように飛びのきました。何でしょうか。


 彼女はその場にへたり込み、さながら小動物のような上目づかいで、恨みがましくドッペル君を睨みつけています。


「……今、私の純潔が奪われました。責任とって嫁にもらって下さい」

「嫁ぎ先が親友の彼氏のドッペルゲンガーってどうなんだ。つか純潔ってなんだよ」

「私、生まれて初めて男の人の手をペロペロしました。純潔が穢れたのです」


 あぁ、口を押さえてた手を舐めたんですか。そりゃあドッペル君も驚きますよね~。


「いやいや……それってどっちかっつーと、穢れたのは俺の方じゃ」

「全然手を離してくれなかったじゃん!」


 目じりに涙を溜める毬夢ちゃん。あらら、わりと本気で怒っていらっしゃいますね~。


 確かに、高校生の女の子に対する扱いじゃなかったですし、ドッペル君が悪いと思います。さてさて、どうなりますかね。


「……えっと、悪い。乱暴すぎた、謝る」


 偉い。ちゃんと謝れる子ですね、ドッペル君。


 少し迷う素振りを見せた後、ドッペル君は毬夢にちゃんに右手を差し伸べました。


「……そっち、私が舐めた方」

「あ、悪い」


 詰めが甘いですね~、ドッペル君は。


 左手を差し出し直すと、毬夢ちゃんはぶすっと頬を膨らませながら、ドッペル君の手を取って立ち上がりました。遠目でも分かるくらい、ぎゅうううううう! っと強く強く握りしめていたようですけど。


 ぱんぱんと手でスカートの乱れを正す毬夢ちゃんを尻目に、ドッペル君はもう一度塀の陰からバカップルの様子を窺いました。


「やべ、見失う……おい毬夢。今の事は改めて謝るから、今日はもう帰れ。な?」

「……なんか負けたみたいでヤダ。行く」


 うふふ、子供っぽいです。ていうか、何に負けたんでしょう。

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