のべ100人の透明人間による暗殺計画+1

ちびまるフォイ

透明人間の殺人

「このターゲットを殺してきてもらおうか」


「いいだろう。それで武器は?」

「武器?」


「俺は一流の殺し屋だ。どんな武器でも相手を殺せる。

 だが自分では調達しない。死体より武器の処理のほうが足がつく。

 武器が見つからなければ殺しを立証することはできないからな」


「なるほど」

「ただし、必ずターゲットは消してみせる。約束しよう」


「わかった。それでは100人の透明人間を用意しよう」



「え?」


「もうこの部屋にいる」

「うそん」


周りをぐるり見渡しても誰もいない。

いや、いると言われれば人の気配があるような気もする。


「君、ポケットに電話を入れていたな。それはこれか?」


「あ!」


「透明人間に取らせたよ。まだ疑うなら君の横に手を伸ばしてみろ」


人肌の感触があった。ここに確かに透明人間はいる。


「この世界で言われている幽霊だとかポルターガイストだとか

 なんだかよくわからない超常現象の8割は透明人間であとの2割はでたらめだ。

 私は透明人間を独自の方法で見つけてはこうして扱っている」


「これを俺に武器として使えと?」


「便利なものだ。仮に死んで欠けても

 そいつから一番近い人間が透明になる自動補充付き。人員が減ることはない」


「……」


今までいろんな方法で仕事を済ませてきたがこんなにも緊張することはなかった。

依頼者と別れ透明人間を引き連れて町を歩く。


依頼者からは超小型マイクをつけられ俺の声で透明人間に指示を出すことができる。


RPGのゲームでもあるまいしぞろぞろ並んで歩くと、

通行人に透明人間がぶつかるので透明人間100人は俺の周囲を散り散りについてくる。


「これでいったいどうすればいいんだよ……」


透明人間は俺の指示に確実に従う。

練習がてら包丁を盗んでこいと言われれば包丁を盗んでくる。


透明人間なので監視カメラには映らない。

盗んだ品物を死角をパスしながら持ち運ぶことができる。


「よし、これさえあれば」


透明人間の1人に包丁をもたせた。これでターゲットを刺せば終了。

……いや、そうもいかない。包丁が空中で浮いている。


「触れているものは透明になったりしないのか」


まして返り血でもついたら透明人間がバレてしまう。

そこから芋づる式に俺のことまで特定されるだろう。


「……銃しかないな」


透明人間に指示して今度は銃を持ってこさせた。

これなら死角から確実に殺せるし、返り血の心配もない。

透明人間だから一番いい狙い目スポットにも陣取れる。


「いや、これもだめだ」


狙いを定める必要がある。無駄撃ちすれば場所がバレてしまう。

1発で仕留めようと狙えば狙うほど銃が宙に浮く不自然さが目につく。


透明人間とはなによりも優秀で、どこよりも制限が多い武器だ。


「くそ! もうどうすればいいんだ!」


ふと考えてみると、どうして100人もあてがわれたのか。

盗みで使った透明人間の数はせいぜい5人程度。


この人数をフルで使うしかない。


事前に綿密な計画と進行ルート、スケジュールを透明人間に教える。


透明人間はひとことも話さない。

本当はすべて幻想で独り言を言っているだけかと心配にもなる。


それでも何度も信じるしかない。

透明人間たちは配置につくと処刑作業を開始した。


ひとごみの多い場所で人を押してターゲットを指定の場所に誘導する。

そこからは透明人間の腕力で滅多打ちして殺す。


武器が透明人間。


つまり、透明人間を使って殺せば武器など消えてしまうのだ。


「いけーー! 透明人間!!」


ターゲットが人目につかない倉庫に幽閉されると、

待機していた透明人間たちは襲いかかった……はずだった。


ターゲットが指示を出すと透明人間が反乱して他の透明人間を襲い始めた。


「なっ……なにをやっている! 仲間割れしている場合か!」


ターゲットは笑いながら拍手していた。


「はっはっは。本当に透明人間がいるとはな。

 最近やたら付け回されている気がしたが透明人間だったのか」


「気づいていたのか!? 透明人間相手に!?」


ターゲットの行動ルートを調べるために透明人間にしばらく尾行させていた。


「気配を消せるわけじゃない。それに影は消せないだろう?」


「あっ……」


「で、話しんたんだよ。いくらでも金は払うってな。

 そいつら透明人間がいくらで雇われているか知らんがその倍は払う、とな。

 返事はなかった。だから不安だったがちゃんと指示に従ってくれてよかったよ」


「こんな……」


「私を殺しに来るやつなんていくらでもいる。

 この手のことは慣れっこさ。透明人間で襲ってくるとは恐れ入ったがね。

 まあ、使い慣れないものほど危険なものはないな」


俺はとっさに持っていた銃を構えた。


「おいおい。自分で手を下すというわけか?」


「透明人間がやったということにすればいい」


「で、私を殺したあとでその銃はどうするつもりだ?

 その銃が見つかればあっという間に特定される。

 私の死体の弾痕と一致するだろうしな。あまり現代の警察を舐めないほうがいい」


「ぐっ……」


「撃てば私が死ぬかもしれない。

 だが君も確実に追い詰められて死ぬだろう。どうする?

 私はここで銃をおろし、私から金をもらって二度とかかわらない道をおすすめするよ」


「俺は……仕事を途中で投げたりはしない」


「それじゃどうするんだ?」


「こうするんだよ!!」


引き金にかけていた指を引くと銃声が響いた。


「ぷっ。ハハハハ! いったいどこを狙っている。

 とち狂ってあさっての方向を狙うとはな!」


「いいやこれでいい。ちゃんと狙い通り頭にあたった」


「え?」


ターゲットの横に控えていた透明人間がバタリと倒れたのが音でわかった。


「いったいどういう……」


「知らないのか? 透明人間は自動補充されると――」






その後、仕事の成果を依頼者に報告した。


「犯行には透明人間ではなく銃を使うとはな。

 しかし、それでは足がつくんじゃないのか?」


「いえ、俺はなにもいない物を撃っただけですよ。

 見えない死体なんて調べようがないでしょう」


「よくわからないが、本当に仕事はやってくれたんだろうな?」



「ええ、ちゃんとターゲットは消しましたよ」

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